【書評】うもれる日々:橋本亮二
自分は出版社で働くんだと思っていた。
小学生の頃から一番好きなことは読書。
当然のように将来は、東京の出版社で働くのだと信じて疑わなかった。(作家じゃないところに公務員の家庭に生まれた背景が透けて見える気がする)
大学生になり、
紙以外のメディアの面白さを知るにつれ、
出版社で働くことへの興味は驚くほど薄れてしまったが、
今でも本を読む時間が一番好きだし、
ただ本を読んでお金をもらえる仕事がないかなと、本気で思っている。
中でも最近好きなのは他人の日記を読むことだ。
当然盗みをはたらくわけではない。
日記本というジャンルにとても惹かれている。
きっかけは写真家の植本一子さんの『かなわない』に始まる一連のシリーズを読んだこと。
内面の赤裸々な描写。地方から東京に出てきて生活する、という自分自身との共通点からくる、ポイントポイントでのわかるなあという気持ち。
ビジネス書のような、
学びがあることを売りにするのではなく、
普通に東京で生きてるだけで、いいんだ。と思わせる力が彼女の作品にはある。
以来、zineなどで日記本があるとつい手を伸ばしてしまうことが多くなった。
『うもれる日々』は、
日記本かつ冒頭で書いたような、かつて自分が憧れた出版社で働く人の生活を記した一冊だ。
著者は出版社の営業職で働く傍ら、出版レーベル十七時退勤社の社長でもある(名前がとてもいい)。
本業でも本。プライベートも本。
まさにうもれる日々の話。
うもれる、普通の人の話。
普通というのは貶して書いているわけでは決してない。
多くの書籍は、
著者の権威性が意図しても、しなくても出てしまうものであると思っている。
それは書籍だけではない。
noteでも。
Twitterでも。
何かを発信する際に、カッコつけずに自分の素をだすということはとても難しい。
自分も時々こうやってブログを書いているからこそ痛感する。
『うもれる日々』はそうしたカッコつけがない、稀有な作品だと思う。
読むと本を読みたくなる。文章を書きたくなる。電車に乗って、地方の本屋に遊びに行きたくなる。
等身大の自分。みたいなフレーズは好きではない。
それは自分で言葉にしてしまった時点で、
なにかしらのよく見せたい。このカテゴリーにみられたい。という意図が入るものだと思うからだ。
自分自身を出した文章。
それを書くことの難しさ。
書くことができたときの魅力。
『うもれる日々』にはそれが詰まっていると感じる。
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