【書評】アフター・リベラル:吉田徹
ポップカルチャーに親しむと、自ずと現代の政治に対して意識的にならざるを得ないことは、あまり異論の余地がない言説であると思う。
なぜなら映画・ドラマシリーズ・音楽・小説などのクリエイターは、自らの作品に政治的眼差しを入れ込むことが多いし、
さらに言えば彼らの制作欲求の出発点がそこにあることすらあるからだ。
わかりやすい例として、マーベル・シネマティック・ユニバースの2021年4月に公開されたドラマシリーズ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』が挙げられる。
物語中盤から後半にかけて、
アメリカ社会において黒人がどのような存在だったのか。そのことを今、黒人はどう感じ、それを受けてどのように生きるのか。という文脈が描かれている。
これは2020年に再度勢いを増したBLMの動きを、フィクションしかもヒーロームービーにどう反映させるのか、という取り組みの結果であると思う。
そしてポップカルチャーとともに生きる一人の人間として、
今の政治の流れや、なぜトランプ政権が誕生し、バイデン政権になった後もグローバルで分断が続いているのかという問いに対して、自分なりの答えを求めて本書を手にした。
戦前から戦後、1968年を経て、冷戦の終結。そこからのグローバル化の流れの中で、
リベラルという概念がどのように世界の中で立ち位置を変えていったのか。
またそれを語る上で欠かせない、
中間層がどういった経緯で経済的・政治的に変化していったか。
これらを各種データをもとにした分析とともに知ることができるのはとても有意義な体験であった。
右派vs左派という流れから、
リベラルデモクラシーが起こる経緯。
そしてその中で中間層が没落していき、
リベラルと権威主義という対立が起こっている、というのがざくっとした筋であると思う。
これを把握した上で、
新型コロナウイルスの蔓延によって起こるであるろう、
更なる格差の拡大やローカリズムの促進を目の当たりにすると鬱々とした気分になる。
バイデン政権が誕生してもこの大きな流れが止まる感覚が全くわかないし、
ましてや日本は格差だけでなく政府への不満があらゆる層で可視化された2021年において、
トランプ的ポピュリズム政権が生まれる下地ができてしまっていることの脅威は間違いなくあるだろう。
良くも悪くも、
そこまで大きな影響を発揮できるプレイヤーが今の政界に存在しないことは、もしかしたら救いなのかもしれないが。
リベラルな価値観(ここでは政治的リベラルを指している)が10代を中心に日本でも広がっていくことは間違いないと思う。
そこで生まれるのは世代間のギャップであるだろうし、
日本の特徴的な人口動態を鑑みると、
どんどんとその溝が深まっていく未来が想像できてしまうのはどうしもないのだろうか。
もちろん世界はいったりきたりだ。より戻しは確実にある。
自分なんかが想像できないような新しい世代のパワーで、暗い未来を打ち消してくれることは大いに期待するし、自分も何かしらの貢献をそこにはしていきたいと思う。
まずは自分ができること。自分のスタンスを自分の中で明示し、意志を持って生きる。可能な限りの視野と客観性を持って。
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