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出会い【12/1】

赤い靄がどこまでも続いている。ここは虚空領域。息をするだけで死に至る靄は、世界に爪痕を残し、そして――

靄を切り裂き、”人間の形”が躍り出る。重機関砲が鈍く唸り、”敵の形”を捉え、無に変えていく

「未識別機動体、全敵影消滅……この領域は確保した」

ボイスレコーダーに声を刻む。味方はいない。敵もいない。そう、この孤独が彼にとって、もっとも心地よい。僚機はもういない。そして、敵は少し、この世界には”騒がしい”

未識別機動体……謎の現象だ。敵の姿は一般的に見られる兵器に酷似している。しかし、その機動性、火力、装甲、何もかもが規格外だ。無敵の兵器と言われる人型発掘兵器……「グレムリン」でなければ、対応できない

「12月1日。ここは静かだ。何もない。誰もいない。さらに深く移動する」

彼には使命があった。夢もあった。それも、今では思い出せない。僚機を失ったときから。その日から、彼の日々は酷く……静かなものになった

音を取り戻したいと思ったことはない。何もかもがノイズとなり、彼の心を刻んでいく。失った半身を思うたびに、身体が引き裂かれそうなほどつらい。

あの日、彼は重機関砲に弾薬のドラムを13個詰めていった。それに、一生後悔するとも思わずに。

僚機は靄の向こうにずんずんと突き進んでいく。彼もまた、次々と未識別機動体を破壊していく。重機関砲の弾薬はおよそ半分。楽に勝てるはずだった

「なぁ……この靄の先に、何があるか見に行かないか」

僚機の声。次の瞬間、靄の向こうから現れたのは巨大な影……機動破壊兵器と呼ばれる、過去の遺物。二人は必死に戦った。重機関砲は低く唸る。それでも、機動破壊兵器の装甲はなかなか破れなかった

目の前で機動破壊兵器のアームに捉えられる僚機。必死にトリガーを引く。あと一歩、あと一歩なのに。重機関砲の残弾が尽き、何もできないのにトリガーを引き続ける。何もできないまま、僚機はばらばらになり、その時から、彼は……静かな世界に生きていた

「ここは静かだ。何もない。さらに先へと進む」

彼は静かに進み続けた。いつか自分が散るときまで。バラバラになるまで突っ切り、静かになりたかった。不意に声が聞こえる

「なぁ……この靄の先に、何があるか見に行かないか」

ぎょっとして目の前を見る。濃い靄の塊がある。残弾7回分。あの時と同じ

「行くさ、どこまでも」

靄を割いた先に現れたのは、見知った機体! あの時の……僚機

「まさか、そんなはずは」

可能性。それは、未識別機動体という現象。過去の記憶が、再び現れる現象

次の瞬間、本能的に回避行動を取る。いま自分がいた海面を過ぎる、粒子砲の軌跡。重機関砲で応戦する。僚機の思い出とは比べ物にならない装甲。間違いない。残弾6回分

「お前は、何を見たんだ?」

回避しつつ重機関砲で応戦する。粒子砲の光、靄を切り裂く重機関砲。残弾4回分。

「あの靄の先に、お前は――」

穴の開いた操縦棺。その中には、黒い靄のような人影が見える。

「頼む、俺を連れて行ってくれ。俺は――」

粒子砲はどこまでも苛烈に攻めてくる。何回か被弾し、泡立ち、焼き切れる装甲。あと何回持つか分からない。唸り続ける重機関砲。残弾、1回分――

粒子砲の銃口と重機関砲が交わる。

「俺は、お前がいなくては――」

粒子砲が、放たれることはなかった。重機関砲が最後に吼え、未識別機動体を破壊する。最後に、黒い靄は、彼に向かい……

手を振っていたように見えた

「なぁ……この靄の先に、何があるか見に行かないか」

「何もないか、敵の影だけだ」

「いや、その先さ」

「その先にきっと、夢の世界がある。俺たちが見たかった、青い空が――」

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