まさか
まさか、まさか
走る。ひたすらに、狭い通路を。時には転び、はいつくばって、起き上がり、走る。逃げなくてはいけない、そう、生き延びるために
「ウェスト・ストリート・ゲート放棄!」
「生存者は直ちに退避せよ!」
「退避! 退避!」
「放棄だ!」
「戦うな、逃げろ!」
「敵未識別機動体、シュヴァルベ・ドライ……100機を確認!」
「まだ増えている、150機? いや……」
胸元の通信機がひっきりなしに叫ぶ
俺は、グレムリンテイマーとして、タワーを防衛していた。突然、モニターの光が消える。緊急手動開閉装置を使い、グレムリンから這い出すと、周りの機体もまた同様に機能を停止していた。まさか……不安は的中した。通信で入ったのは、テイマーズケイジ消滅の知らせ
なにが起こっているんだ
俺は必死に走る。仲間は皆死んだ。俺は情けなくも、こうして逃げまどっている。狭い通路に響くのは、上空を飛び回るドライの駆動音
ちくしょう……
恐怖、そして混乱。俺はこんな、何も分からない状態で、死ぬのか? 戦って死ぬことすら許されず、無意味に……
「おっと、手を貸してくれ」
突然の声。手を引っ張られた先には、1人の男がいた。なんとなく分かる。傭兵だ
「戦えそうなフレームを見つけた。起動を手伝ってくれ」
連れられた先。錆びた倉庫に身体を折り曲げるようにして、錆びたグレムリン・フレームがある
「あと20分で出撃する。パーツ組み立て手伝い、頼む」
「本気で言っているのか」
傍にはグレムリンパーツが押し込められたトラック。クレーンがついている。この男は、今からグレムリンを組み立てて、戦おうというのだ
「無茶だ、敵は150以上……」
「俺が150機倒す」
俺は……何かを言おうとしたが、言葉にならなかった。この男は戦おうとしている!!
目をぬぐい、必死で組み立てた。錆びたフレームは新品とは言い難かったが、男の持ってきたパーツとよくなじんだ
俺の願望が生み出した幻かとも思った。戦士が立ち上がり、戦おうとしている。俺は……組みあがった機体で出撃する男を見送り、倉庫の隅に座る。そして通信を聞きながら、ゆっくりと眠った
「友軍反応確認! 傭兵か? しかし、数が多い」
「50……? いや、100機を超えている!」
「170機を超える機体が……参戦しているだと!?」
「見間違いじゃないのか!?」
「いや、確かに……ドライが次々と撃破されている!」
「まさか、まさか……こんな、奇跡が」