無色透明の赤子

その場所自体には見覚えこそあるものの、どこだかわからない。駅や古いデパートなんかの女子トイレによく似ていて、個室トイレが並んだ一つに私は腰掛けていた。その場の全体を斜め上からの俯瞰で見ているような状態から、トイレに腰掛ける私へとゆっくりズームされる。

頬や首筋に髪がへばりつくほど汗をかいていて息は少し荒く、慈愛に満ち満ちた笑みを浮べる私らしき女が抱いていたのは、無色透明の赤子だった。


それは一般的な赤子の2回りくらい大きい。
素材はガラスのようで、型押しされたような目鼻口は産声をあげているような表情で動いてはいるけれど、声自体は出ていない。手は何かを掴んだり離したりするように動いている。


無色透明の赤子の中身は透けていて、水のようだった。小さな気泡がお腹付近から頭へと上がっては消えるを繰り返し、赤子が動く度に中身はちゃぽん、ちゃぽんと音を立て揺れていた。

起きた時の私は夢の中と同じように汗をかいていた。気味の悪い夢だったけれど、とても幸福だった。

あんなにも優しく母らしい顔(この言葉に多少の違和感はあるのだけれど)で、それは私のようで私ではないけれど、言い表せない幸福感に起き抜けの身体はふわふわしていて、完全に起きる頃には冷静だった。

普段妊活に関して思い詰めないように、考えすぎないようにしているけれど、月のものが来る度消えたくなる私への皮肉を込めた贈り物だと思うことにした。束の間の夢の中だけでなく、起きたても幸せだったことだけを思うことにした。

夫とは今年と来年自然に励んでみて、それで授かれなければ、別の方法と選択を話し合いながら考えようと話している。

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