2人の病の狭間

中2の夏休みのほとんどを長女の家で過ごす中で、長女と次女は姉妹と思えないほど似ておらず、真逆な性格だということを感じた。


行きつけのブティックのような所へ連れて行き、着せ替え人形のように自分好みの服を当てては私に試着させた。毛皮のショートコート、ミニスカートやタイトなパンツ、柄のついたストッキング、ロングブーツという格好をさせて連れて歩くのが次女は好きだった。私が出先で褒められると、次女は満足そうな笑みを浮かべた。

私自身が好きな格好や、当時学校で流行っていた格好をすると決まって「そういう格好好きじゃないな」と言って一瞥し、着替えるまで不機嫌だった。丁寧に整えられた髪や爪、決して派手ではなく美人という訳でもないけれど、夜の世界で身についた自信なのか、妖艶さが次女にはあった。それが恐ろしくもあり、美しくもあった。自分好みの格好をさせ、連れて歩くこと、それは決まってタクシーで、お金に余裕があるお姉ちゃんらしくあること、それが次女で、高圧的だった。

障害者年金で暮らしていた長女は、電車と歩くことを好んだ。タダだからだ。電車を乗り継ぎ、私を色んな古着屋さんへ連れて行った。「安くて可愛い服はたくさんあるんだよ」と言って私が手に取る服を否定することなく、いつも肯定してくれていたように思う。顔を含めた右半身が不自由で麻痺があり、個性のある長女だったけれど出歩くのが大好きで、陽気で、子供のような小さなすきっ歯を剥き出しにして笑う可愛い人だった。その明るさが眩しくて煙たいことさえあった。長女の距離感は友達に近く、その親しみやすさがとても楽だった。

けれど、独特の無神経さと面倒見はいいけれどお金が絡む家族のことには一切関与せず、そういう話をすると連絡が取れなくなったり、同情を誘うような話し方をしたり、勝手に財布の中身を見たり、抜いたりする手癖の悪さがあった。長女は母によく似ていた。

私と長女が仲良くしているのが気に入らない次女は、あの時のように実家へ電話で抗議してから悔やんだのか、長女の家にいる私の携帯へ電話をかけてきた。

グズグズと泣いていた。
「あとでリクは怒られるかもしれない。もう家の面倒(役所関係やお金の類)は引き受けないからって言って電話切っちゃった。ごめんね。お姉のこと嫌い?長女の方がいい?」


長女も次女も私を取り合うわりには、長期間一緒にいると疎ましく思うようで、そこだけは似ていた。当時周りにいる大人達は全員勝手で、とことん都合のいい人達だった。子どもらしく甘えない、頼らない私をどうにか甘えさせ、頼らせた上で荷が重くなり突き放す、そんなことの繰り返しだった。

ある日、長女の一言に言い返した時。


長女にはパニック障害と多重人格があった。私の言動と態度が原因で、私が知らない間に発作が出たことを告げられ、遠回しに帰って欲しいと言われた。次女にも多重人格があった。彼女達はお互いの事をあれは嘘だの、あれは演技だのと言って私に聞かせたけれど、何が本当で何が嘘かなんて私には分からないことで、どうすることもできないのだから、そんなこと知りたくもなければどうでもよくってどうしてほしいのか、どうするのがあなた達にとって正しいのかを教えて欲しいと思ってた。


家族に対する捨てきれないあれこれを奥底へと追いやって溜まっていく感覚はいつも私をイラつかせた。


そんな中での唯一の希望みたいなものは大人になったら温かい家庭を持つことだった。

見えない、わからない将来には期待出来た。
反面教師にする大人に恵まれた自分なら、そんな家族や家庭を持てるんじゃないかと思えた。

空想に近いそれが私にとっての支えだった。

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