転機となる骨折③

姉と共に病院に着いたのは、22時頃だっただろうか。病院時間では就寝時間だろう。

しかし母は、その時間なのにナースステーションの一角で車椅子に座っていた。そして、中年の看護師と何やら話していた。

言葉は決して激しくはない。しかし、言葉尻に怒りが感じられた。

「……だから、今の環境は人を人間扱いしていない」
「トイレにすら自由にいけず、失禁してしまう人が出るなんておかしい」
「人間なんだから、機械みたいに流れ作業で用事は済ませられない」
「この先、ここで過ごせる自信がない。不安で眠れない」

要は、人としての尊厳が踏みにじられていると感じ、それを何度も訴えていたようだ。それで、病院としても対応に困って、家族に連絡をしてきたようである。

このような場合、私の脳内では、家族としての感情とサラリーマンとしての社会常識が駆け引きを始める。ただ、このケースでは、家族として母がリハビリでお世話になっているという引け目がまずあった。

そして実際、見ている限りそんなにひどい取り扱いをしているとは感じられなかった。更に、医療・介護の現場の人手不足は恒常的に見聞きしており、そういう中で彼女達は、できる範囲で精一杯やっていると思った。

そうなると、私としても母の側に立った発言はできなかった。一段落前で考えたことをそのまま母に伝えたのだが、その時の母の寂しそうな表情は、今でも時折思い出す。

何回かの説得の後、母は不眠時用に処方された睡眠導入剤を飲むことに同意し、やがて眠りに落ちた。

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