老人ホームに母を見舞う②

母は戦前派でありながら、高卒である。当時としては高学歴に属する。

足を骨折して入院するまでは、理路整然と話をしていた。入院中、環境に不満を感じてそのことを看護師に訴えていた時も、感情を露わにすることなく、キチンと筋道立った話し方をしていた。

それがこのようになってしまうのか、と愕然とした。

不慣れな環境により痴呆が進むことはあるとは聞いていたが、現実にそれを目の当たりにして、私自身も少なからず動揺したのである。

母が私の現況を聞いてくるのだが、サラリーマンの私に「店の具合はどう?」と聞いてくる。関西出身の先輩が「辻君、最近商売はどないや?」と聞いてくるのとは明らかに違う。本当に店を持っているかのような聞き方なのだ。

しばらくやり取りをしていて、どうやら母の実家の店のことを気にしていることが分かった。分かったけど、それはそれで困惑してしまう。

「それ、お母さんの実家の話だよね? 俺、会社勤めだよ。商売はやっていないよ」と母に伝えると

「あれ、会社入ったんだっけ?」

という答えが返ってきた。痴呆を確信した瞬間だった。


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