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老人鬱②

見舞い先の入院者も、内心では失敗したと思っているのではないか? と思った。単なる「構ってちゃん」だっただけのように感じたから。

「生きていたって、何も良いことがない」を何度も言っていたら、周囲が心配して精神科への受診を勧められ、家族も同席した中で医師が診察し、入院加療となった。これが、彼女の入院経緯である。どこまでが本気だったのだろう?

異臭に困惑しながらも、彼女の隣にパイプ椅子を置いて座り、話をする。先程顔を見た同室の老女のすすり泣きが定期的に起こり、別の老女の独り言が聞こえる環境の中で、今の治療状況を語る彼女は、他の入院者よりもはるかに精神状態が安定して見えた。

(やっていることが投薬だけであれば、敢えて入院する必要はないのではないか? 何より、この場所にいた方が、明らかに悪化するだろうし)

そう思った私は、その家族に連絡を取りその旨を伝えた。家族も、見舞いに行ってそう感じたようで、医師により更に2週間程度の経過観察を経た上で、無事に退院したとの連絡を受けた。

多分、彼女は二度と希死念慮を口にすることはないだろう。そして、残ったあの部屋の老女達は、どうなったのだろうか? と気にはなる。

自分が年を取った時に、軽々に死にたい等と口にしてはならないことを、その経験から学んだ。

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