転機となる骨折④

歩行訓練のプログラムをこなし、母の退院が見えてきた。そのため、既述の通り母の入る老人ホームは訪問介護でお世話になったケアマネの推薦のところと決め、契約も交わした。

その入居について、母にどう話せば良いかをケアマネに尋ねたところ、
「あまり前もって詳細に説明しない方が良いですよ」との答え。

一緒にいた姉と顔を見合わせながら、おずおずと私は訊ねた。
「施設に入る前に、最後に家を見せようと思っていたのですが……?」

ニッコリとしながらケアマネは言った。
「いや、そのまま施設に向かって下さい。一言『これからは、施設で生活することになったので』と伝えるだけでいいです」

病院での生活による不満から一騒動起こした後だけに、それだけの説明だとまた抵抗されるのではないかという不安がジワジワと胸を満たす。それは姉も同じであったのだが、ケアマネは
「大丈夫ですよ」とだけ答えた。

半信半疑ながら退院の日を迎えた。車で病院に向かい、看護師達に退院の挨拶をして精算も済ませた。車を玄関に回して母を乗せる。そして
「これからお世話になることになった施設に行くからね」とのみ伝え、そのまま施設に向かう。

この時の運転ほど、心臓に悪いと感じたことはない。

いざ老人ホームに着いて、施設長の出迎えを受けると、特に抵抗なく居室に入り、姉と私の心配は全くの杞憂であったことが分かった。

私たち姉弟は、ケアマネの経験と慧眼に舌を巻いた。そして、母の老人ホーム生活が始まった。

読んで頂いただけでも十分嬉しいです。サポートまで頂けたなら、それを資料入手等に充て、更に精進致します。今後ともよろしくお願い申し上げます。