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秋の鬱①

老人ホームに入居する母は、秋になるとメランコリックの度が上がる。私がせっかくホームに顔を出しても、「生きていてもねえ、何の楽しみもないし……」などと言い出す。

今の世の中、何か良からぬことが起これば管理責任を問われる。ゆえに、老人ホーム側としては、そのような発言が続くと放置できない。

かくして、秋のホームから私宛への電話の内容は、十中八九これに関わるものである。ホーム側は「お母様の気分が塞いでいるようなので、精神科に診てもらいたいと思う。ご家族として同意頂けるか?」と言うのである。

不同意などあるはずもなく、ホームは母を精神科に受診させる。そこで抗鬱薬を処方され、それを飲むように指示されて施設に戻る。これが恒例化している。

もっとも家族としては、詐病ではないものの、母はかつて何でもできた自分と比較して、何もできない(と思い込んでいる)今の自分との落差を受け入れきれていないだけではないか、と理解している。

そして、それをストレートに訴えられないがゆえの表現が、「生きていても……」になってしまうのだろう。かつてあった能力の喪失感を紛らわせ、心の隙間を埋めるために注目を集めたい気持ちは分からなくはないけれど、あまり良い方法とは思えない。

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