pixivであげてた乙女ゲームの妄想駄文

薄桜鬼「夜桜散歩」(山南 千鶴)

夜も更けてきた頃、千鶴の部屋に尋ねてきた人。

それは変若水を飲み羅刹となってしまった山南敬助だった。

「雪村くん、夜分遅くにすみません。明かりがついていたものできてしまったのですが。」

千鶴は襖を開けて山南さんのことばに耳を傾ける。

「よろしければ、少し散歩にでも行きませんか?」

山南さんの言葉に千鶴は少し驚いたが山南さんの瞳の中の寂しさを感じとってしまった。

「私でよろしければお供させて下さい。」

千鶴の言葉に山南さんは少し驚いていた。

断られるのを覚悟できていたからだ。

「ほんとにいいのですか?私とですよ。」

思わず自分で誘っておきながらこんな質問をしてしまっていた。

「はい、わかっています。」

「私は羅刹なのですよ・・。」

「はい、知っています。でも、山南さんは山南さんですから。」

千鶴の言葉に山南さんはどこか嬉しく思った。

「君の立場もあるのであまり遠くまでは行けませんが近くに見事な桜木がありましてね、そこへ行こうと思うのです。いつも一人で行くのですが、今日は誰かと供に行きたくなりましてね。明かりがついていたので君を誘って行こうと思ったのです。」

山南さんの言葉に千鶴は笑顔で答える。

「私を誘って頂けてとても嬉しいです。」

千鶴の笑顔を見て山南さんは、ほっとしたような表情になり言う。

「では、行きましょうか。あまり遅くなってもよくありませんしね。ほんの少し歩いた場所なので。」

「はい。」

千鶴の返事を聞くと山南さんは千鶴を連れて外に出かける。

「雪村くん、危ないので嫌でなければ手を繋ぎませんか?」

「えっ?私とですか?!」

「はい。足元も暗がりで不自由ですしね。こけて怪我でもされては困りますから。君は以外に気が抜けたなところがありますからね。」

山南さんの言葉に千鶴は少しふくれたが優しく差し伸べられた手に自分の手を重ねた。

「雪村くんの手は温かいですね。私の手が冷たいからでしょうか・・とても心地がいいですよ。」

言う山南さんの瞳には陰りが見え隠れする。

「山南さん、どうかされたんですか?とても辛そうに見えるんです。」

そう言う千鶴の方に山南さんは悲しそうな優しい笑顔を向ける。

「雪村くんは不思議な子ですね。人の心が読めるようですね。」

そういって空に浮かぶ月に目を向ける。

その横顔をみて千鶴はとても悲しそうな顔に見えてしょうがなかった。

「ああ、雪村くん、あそこの桜木ですよ。綺麗でしょう。」

千鶴は山南さんが指指すほうに目をやる。

その桜木は橋の袂に1本だけたっていた。

綺麗な満開の花を咲かせてぽつりとそこにあった。

「この桜は私に少しにているように思えてならないんですよ。」

そういうと山南さんは橋の欄干に腰をかけて桜木を見つめながら千鶴の手を引き横に座らせる。

そうして、何かを思ったのか、語り始めるのだった。

山南さんは千鶴に静かに語りだす。

「私は、変若水を飲んだ事を後悔はしていないと前に貴女に言いましたね。」

「はい・・。」

千鶴は1度山南さんが変若水を飲んですぐの頃に屯所の桜木の下でそんな話をした。

山南さんは続ける。

「私はね、雪村君。後悔はしていないのですが、思う事があるのです。血に狂い始めたら私はきっと皆にうとまれるのではないかと・・。いえ、まぁ、今でも疎まれているとは思いますが、ね。」

「山南さんっ!!」


「あぁ、すみません。羅刹になる前から私は皆に厳しくしていましたからね、そういう意味ですよ。最近は、本当に昼間に起きているのが辛くなりました。もう、昔の様に皆と過ごす時間も持てなくなりましたしね。どこか、一人ぼっちになってしまった様なきがしてならないんですよ。この桜木のように、ね。」

そう言うと唯ぽつんと1本だけ立つ桜木を見つめる。

その横顔を月の光が淡く照らす。山南さんの瞳が寂しさをいっそう帯びて見えた。

千鶴はゆっくりと口を開く。

「この桜木は一人ぼっちなんかじゃないです。この桜木は山南さんと一緒で皆にちゃんと認めてもらっています。だから毎年花をさかせる事ができるんだと私は思います。」

千鶴の言葉に山南さんは少し驚いたように彼女に視線を向ける。

「人に愛されてるからこの桜木は花を咲かせるんです、きっと。たった1本しかなくてもそこにあるんです。山南さんは羅刹になったとしても皆の心の支えになってると私は思うんです。皆、山南さんを好きなんですよ。だから、山南さんは一人なんかじゃないです。この桜木と同じように皆の心を支えてくれてるんですよ。」

「雪村・・君・・・。」

「山南さんはちゃんと生きてます。ちゃんとこうやって手にも触れる事ができます。ちゃんと話す事ができます。この桜木だってちゃんとここにいて皆に綺麗な花をめでさせてます。この桜木もちゃんと生きてます。山南さんは羅刹になっても生きてる、ちゃんとここにいます。私も山南さんの事大好きです。」


千鶴は言い終えると気恥ずかしくなったのか頬を朱に染めて俯く。


山南さんは千鶴の言葉を聞きながら少し考えていた。

何かを納得したかのように千鶴の顔を下からのぞきこむ。優しい笑顔を称えながら。


「雪村君はやはり不思議な方ですね。ありがとう、雪村君。」


山南さんの言葉に千鶴はふっと顔をあげる。

「君の言葉は本当に不思議な力があるのかもしれませんね。前にも君の言葉で心が救われて、また今回も君の言葉によって私は救われたような気がします。貴女は自分自身が知らない間に人の心を読んでしまう力があるのかもしれません。」

「そ、そんな大層な事ではないと思います。私はただ思った事、思う事を口にしてるだけだと思います。嘘ではなくて本当の言葉でですけど・・・。偉そうですね私。すみません。」

千鶴の最後の言葉に山南さんはクククっと笑い出す。

「いえ、君は素直で優しい気のつく女性だと思いますよ。ちっとも偉そうだとは思いません。」

「気がつく女性だなんてとんでもないです。」

「おや、そうですか・・・クククッ・・・。」

山南さん笑いながら優しく千鶴の頭に手を乗せて軽く撫でてから言う。

「月に照らされて今夜も綺麗な桜が見れました。君と供に見れた事を私はよかったと思います。ありがとう供に来てくれて。」

「いえ、こんな風に山南さんと桜が見れて私も嬉しいです。」

千鶴の言葉に山南さんはまた優しい笑顔で答える。

暫く無言で二人で桜木を眺めていた。

どれくらい眺めていた事だろう。その間二人は言葉を交わす事無くただただ桜木の美しい花たちを眺めていた。


「さて。雪村君、帰りましょうか。」

「はい。」

山南さんは千鶴に手を差し伸べる。

千鶴もその手に自然に手を重ねる。

二人で帰りの道をゆっくりと歩きながら今日昼間にあった事を語る千鶴。

その話を優しい笑顔で静かに聞く山南さん。

そこには優しい時間が流れていた。

屯所に着くと山南さんは千鶴を部屋まで送り届けてくれた。

「今夜は本当に私の我儘に付きあってくれてありがとう。」

「いえ、また、誰かといきたくなったら私を誘っていただけますか?私、山南さんと話せてとても嬉しかったです。」

「そうですね、また、機会があれば。雪村君、ありがとう。おやすみなさい。」


山南さんはそう言うと千鶴の頭を軽く撫でて優しい笑顔を残して去っていった。


自室に帰る途中で山南さんは月を眺めながら思うのだった。


”雪村君。君のこれからがどうか、幸あるものでありますように。そして、私の想いはあなたには伝えずにおきましょう。心の中に静かにしまいこむことにします。貴女をいつまでも想う事だけは許して下さいね。どうか、どうか、君に幸せで安寧の時が早く訪れる事を願います。”





END





駄文、設定無視ですが優しい時を過ごす山南さんと千鶴を書いてみたかったんです。


では・・では・・・。

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