石油給湯器、灯油ボイラーの交換・買い替えマニュアル

東北にある某田舎町で設備屋をやっている鈴木だ。今回は「石油給湯器、灯油ボイラーの交換をする際に押さえておきたいポイント」について紹介しようと思う。

石油給湯器の寿命・耐用年数や交換時期についての話は意外と知られていないし、石油給湯器の値段なんてのも案外知られていない。相場を知らない人間が多いから、そこに付け込む悪徳業者は増えていくだろうし、それに騙されてしまう人が多いのだろう。

ここでは「石油給湯器の交換、買い替えをするうえで失敗しなくても済むようなポイント」を幾つか紹介していきたい。そして、これを読んだ読者の中で、悪徳業者の被害者が1人でも減ってくれればと思う。


【参考記事】

石油給湯器の正しい選び方|給湯器交換の要点、重要事項を解説する


石油給湯器の種類を把握する

車にもマニュアルとオートマがあるように、パソコンにもWindowsとMacがあるように、石油給湯器にも幾つかの種類が存在する。

・直圧式 or セミ貯湯式

・屋内設置型 or 屋外設置型

・据え置きタイプ(床置きタイプ) or 壁掛けタイプ

・4万キロ or 3万キロ

・フルオート or オート or 標準

・高効率型 or 従来型

家を建てる時に、ユーザー自らが給湯器の種類に対して口を出す例はあまりない。せいぜい「オール電化にしたいから、給湯器は電気温水器(あるいはエコキュート)で」くらいのものだ。

「石油ストーブを利用するから石油給湯器にしたい」という要望くらいはあっても、その流れで「燃焼能力は4万キロで、湯張り機能はオートタイプにしてほしい」というような感じで、細かい要望を伝える人はいないのではないかと思う。

そんな流れで決めた給湯器なんだから、いざ故障してしまって交換が必要になったとしても「今までと同じようなタイプで…」となってしまうことは全然おかしくない。しかし給湯器にも様々なタイプが存在するのだから、「今まで使ってきた物よりも、もっと自分にあった種類が存在するかもしれない」くらいは思ってもらいたいのである。

以下では、給湯器の種類別で簡単な説明をしていく。


水圧重視なら直圧式、井戸水使用ならセミ貯湯式

まずは石油給湯器の大きな種類「直圧式とセミ貯湯式」の解説だ。これは人間でいうところの「男性か女性か」というくらい大きく違う特徴である。

簡単に言えば「水圧が強いか弱いか」であり、「シャワーの水圧が強くないと嫌だ!」というユーザーには直圧式をおすすめしたい。そして主流も直圧式となっていて、ある一部のユーザーを除いては圧倒的に直圧式が支持されている。


一方で、セミ貯湯式を支持しているユーザーについてだが、主に「地下水(井戸水)使用のユーザー」はセミ貯湯式を選ぶしかないという人が多い。その理由として「直圧式は利用する水質によって耐用年数が大きく左右されてしまい、セミ貯湯式は耐久性が強い」という特徴があるからだ。

地下水はミネラル等が豊富で、人間の身体にとっては良い効果が期待できるうえに美味しいという特徴があっても、機械に対しては総じて悪影響になってしまうことが多い。

もちろん給湯器にも悪影響になるケースが多く、ほとんどの石油給湯器では地下水利用の場合に製品保証が付かないし、場合によっては使用から間もなく漏水等の故障に繋がってしまうこともある。


「直圧式の石油給湯器なら2年で壊れてしまうが、セミ貯湯式の給湯器なら5年は使える」という状況になれば、いくら水圧が弱いと言ってもセミ貯湯式を採用するユーザーが多いのではないだろうか。

それに同程度の性能同士で比較するのであれば、直圧式よりもセミ貯湯式の方が本体価格も大幅に安い。「水圧が強い」というメリットを取るか、それとも「安くて丈夫」というメリットを取るか…。

ちなみに後述しているが、給湯器には壁掛けタイプと床置きタイプが存在し、直圧式ならどちらも選べるが、セミ貯湯式に壁掛けタイプは存在しないため、この辺りも注意が必要である。


【参考記事】

石油給湯器を買う時に直圧式かセミ貯湯式かで悩むユーザーへアドバイスを送る


屋内設置型 or 屋外設置型

給湯器には「屋内設置型と屋外設置型」が存在する。屋内設置型は煙突が必要になるが、屋外設置型なら煙突が不要なため、いくらか安く手に入る。

ちなみに屋外型の給湯器だと雨風に対して野ざらしになるから壊れやすいと感じるユーザーがいるかもしれないが、実際はそこまでの差がない。確かに外装がボロボロに錆びてしまって、雨風がガンガン侵入してしまうという場合は話が変わってくるが、沿岸付近の家でもなければそこまで心配する必要はないだろう。


屋外設置なら家の中に設置スペースを考えなくても良くなるメリットがあるが、ちょっとした水漏れなどの不具合に気付きにくくなるというデメリットがあり、屋内設置はその逆である。

例えば「今は洗面所に給湯器が設置されていて、少しでも洗面所を広く使いたい」という場合なら屋外に移設することを検討してもいいかもしれないが、基本的に屋内と屋外を変更する例はあまりない。


【参考記事】

給湯器の屋内タイプ/屋外タイプのメリット・デメリット


据え置きタイプ(床置きタイプ) or 壁掛けタイプ

石油給湯器には、据え置きタイプと壁掛けタイプが存在する。ハッキリ言って据え置きタイプにはあまりメリットがなく、壁掛けタイプにはメリットが多い。壁掛けタイプのメリットを幾つか挙げてみよう。

・燃焼音が小さい、燃焼音が低い

・設置している部屋のスペースが有効活用しやすい

基本的にはこの程度だ。燃焼音の大小は割とメリット・デメリットが大きく、これまで床置きボイラーを使用していた人が壁掛けに変更した際に「燃焼音がしなくなった!」と感激する例が多いため、燃焼音がうるさいと感じている場合には有効だと言える。

あとはボイラー室などではなく、洗面所や台所に給湯器を設置しているというケースでは、壁掛けタイプの方がデッドスペースが少なく、スペースの有効利用がしやすい。

壁掛けボイラーなら、その下に洗濯機や収納BOX等を置くことも可能だが、床置きの場合は煙突が邪魔になるから上に物を干すのも難しい。加えて小さい子供がいるのであれば、煙突に触らないような配慮も必要だろう。


【参考記事】

給湯器の「据え置きタイプ/壁掛けタイプ」のメリット・デメリット


1人暮らしとかでもなければ燃焼能力は4万キロが無難

石油給湯器には燃焼能力が2パターンあり、4万キロか3万キロのどちらかになる。シェア率から見ると「直圧式は断然4万キロの方が人気が高く、貯湯式はイーブンくらい」という印象だ。

燃焼能力の違いは「複数個所で同時にお湯を使おうとした時」に差を感じることが多く、お風呂を沸かしている時にお湯を使おうとしたりするケースが多いなら、燃焼能力が高い方が望ましい。

例えば家族の中にお風呂の時間が長い人物がいるとか、時間帯的に台所でお湯を使うタイミングとシャワーを使うタイミングが被りやすいなら、黙って4万キロを選択した方が無難だろう。

「1人暮らし」とか「老人の2人暮らし」とかなら3万キロを選択しても不便はないだろうが、そもそも4万キロと3万キロで本体価格がそこまで大きく変わるというものでもないし、後述している「お湯張り機能」が絡んでくると「3万キロだとお湯張り機能がない」というパターンも存在するから、その辺は注意してもらいたい。


フルオート or オート or 標準

石油給湯器にはお湯張り機能を表すグレードとして、主に3タイプ(フルオート、オート、標準)が存在する(ノーリツ製の場合はプレミアムという上位機種も存在するが、ここでは割愛する)。

・フルオート:湯張り、追い炊き、保温、足し湯まで全てが全自動(追い炊き配管自動洗浄機能あり)
・オート:湯張り、追い炊き、保温までが自動

・標準:湯張り機能なし、保温機能のみ

本体価格は「フルオート>オート>標準」となっていて、機種にもよるがメーカー希望小売価格の時点で約5万円くらいの金額差になっていることが多い。

特にオートと標準の間にある壁が大きく、ボタン1つでお湯張りをしてもらえるか、自分で蛇口を開けてお湯を貯めなきゃいけないかの違いは大きいと言えるだろう。それ以外にも「標準タイプは追い炊き配管が汚れやすい」とか「寒い地域で標準タイプを使用する場合、浴槽には常に水を貯めておかなければならない」などのデメリットも存在する。


一方でフルオートとオートにはそんなに大きな差がなく、自動でやってくれる機能があるかどうかというだけだ。オートでも自動でやってくれないだけで、手動でボタンを押せばやってくれる機能は付いているから、個人的には「オートで十分」だと思っている。

そして標準タイプのユーザーも、オートに変更することで劇的に便利になるだろうから、是非ともオートタイプをおすすめしたい。なお、初期費用の面だけで「オートから標準タイプにダウングレードしたい」ということは絶対におすすめしない。


【参考記事】

給湯器はオートで十分!オートとフルオートで迷ったら読んでほしい


エコ給湯器(エコフィール)にはデメリットも多い

エコタイプの石油給湯器、エコフィールについても軽く触れておく。エコフィールは燃費効率の良さをPRする商品として、今から10~15年前に登場した高効率石油給湯器である。

ハッキリ言って「燃費が良くて、年間1万円弱の灯油が節約できる!」というセールスマンの説明だけを聞いてしまうと、単純計算でも「10年使えば10万円の得だ」となってしまい、エコフィールを選択する人が増えてもおかしくないという理屈も分かる。

だが、実際にそんなにお得にはならないケースが多い。そしてエコフィールには意外とデメリットも多いのだ。


まず年間の灯油節約量についてだが、年間の灯油節約量を増やすためには「ある程度の灯油を使用していないと節約効果は薄い」と言える。10kg痩せると言われて、元から100kgの人が痩せるのと元々40kgの人が痩せるのとでは意味合いも変わってくるだろう。

だからこの前提条件は、かなり無理があると感じる部分が少なくない。エコジョーズについても安い都市ガスではなく、あえて高いプロパンガスで試算しているというのは恐らくそういうことだ。

それに加えて「配管が増える、専用の排気筒が必要になる、時間経過で必ず部品交換が必要になる部品が搭載されている」などなど。従来型と比べて中身が複雑化している分、故障率もいくらか高くなっているだろうし、その分を差し引きして本当に家計に優しいかどうかは、どうしても怪しいと感じてしまう。


【参考記事】

石油給湯器のエコタイプ「エコフィール」のメリット・デメリット


石油給湯器を交換する際の業者の選び方

続いて、石油給湯器を交換する際の施工業者の選び方についてだ。ハッキリ言ってこの業界には、とんでもない悪質な業者もいるし、悪質とは言わないまでも「腕の悪い業者」が多く存在している。

ユーザーからすれば「A社の方がB社よりも3万円も安かった!だからB社はぼったくりだ!」と言いたくなるかもしれないが、この場合でもし「本来は交換が必要な煙突をB社は再利用していた」という事実があったら、その時も同じようなことが言えるだろうか。


業者を選ぶ際にチェックしたい項目は、主に以下の3点である。

・販売価格、取り付け作業料が一般業者のそれとかけ離れていないか

・何にいくら必要かという細分化された見積もりを出してもらえるかどうか

・施工実績はどのくらいか、評判は悪くないか


給湯器の販売価格、取り付け費用が適正かどうかの判断

適正価格かどうかを判断するには、候補の数を増やすしかないと思う。給湯器の場合は、カタログに掲載されている金額はまずアテにならないし、チラシや広告を見たって、これから交換しようとしている機種と同じじゃなければ意味がない。

じゃあどうするかというと、複数の業者から同じ条件で見積もりを取る他ない。一刻も早くお湯を使いたいという状況で、複数の業者から見積もりを貰う余裕はないかもしれないが、仮にぼったくられたとして取り付けを依頼した後であれこれ言うのは筋違いだろう。

スーパーでキャベツを買うにしても「A店では200円で売っていて、B店では100円で売られている」というケースは山ほどある。キャベツの場合は日常的に販売価格を目にすることが多いから、適正価格を理解している人が多く問題になるケースはそんなにないが、結局は「いろいろな売り場を比較して検討しないと気付かない」ということだ。

給湯器の買い替えや交換で、絶対に損をしたくないというのであれば、複数社から見積もりをもらうことは鉄則といえるだろう。


見積もりを貰うなら、出来るだけ細かいものが望ましい

見積書を貰う際は、出来るだけ細分化されているものを書面で貰うのが望ましい。施工業者からすれば「あれこれ書いてもユーザーは分からないし、逆に困ってしまうだろう」と考えて、簡略化された見やすい見積書を出してくれるかもしれないが、ちゃんと検討したいならここは釘を刺しておこう。

例えば「給湯器本体40万」ではなく、何の給湯器なのかという型番を記載してもらい、それのメーカー希望小売価格がいくらで、ここからどれだけ値引きをしてもらえるのかまで書いてもらえればベストだ。


実は給湯器の本体はネットで安く購入することも出来るし、型番さえ分かれば「商品だけネットで購入し、取り付けだけ業者にお願いする」という選択肢も出てくる。

それに技術料に関しては「安ければ安いほど適当な仕事をされるのでは?」という不安も残るが、本体価格を安く販売してもらうことに関しては「安ければ安いほどありがたい」となるのではないだろうか。複数社の見積もりを比べるうえでも、まずは本体価格からどれだけ値引いてくれているかは大きな差と言える。


それに「部材を再利用するのかどうか」という点でも、細分化された見積書を見ることは有効だ。例えばA社の見積もりには煙突が計上されているのに対し、B社の見積もりには煙突が計上されていないという場合、これではB社の方が1万円~2万円安かったとしても「それは本来交換すべき煙突代が発生していないだけなのでは?」ということになりかねない。

煙突は安全上交換が必要であるから、ここを再利用するというのは一般的な施工業者ならまずやらない行為である。万が一、煙突に穴が空いて一酸化炭素中毒事故に繋がってしまうようなことがあれば、責任を取れないからだ。

煙突の他にも「リモコン、配管カバー、排気カバー」など、交換する場合と交換しない場合とで金額は大きく差が出てくるだろう。これらは煙突と違って、場合によっては交換しなくても済む部材ではあるが、事前に説明があるのと無いのとでは意味合いが変わってくる。

「見かけの金額を安くするつもりで、最初から交換するつもりがなかった」という場合は、そんな業者に依頼したくないと感じるユーザーも少なくないと思うのだが、いかがだろうか。


「施工実績はどのくらいか、評判は悪くないか」は重要?

個人的には「ネットで施工業者を探すという場合は、それなりに詳しい人でなければ逆に損をするんじゃないか」と思っている。特に「給湯器 施工業者 おすすめ」とかで検索するのは愚の骨頂だ。

施工実績や評判も重要だとは思うが、それはリアルな人の声があって初めて信頼できるものである。顔の見えない相手が「この業者は安く迅速にやってくれる信頼のできる業者だ」と書き込んでいたところで、なぜそれを真に受けるのか理解できない。

ネット上ではいくらでも自作自演が可能だし、自分のブログサイトで業者を紹介し、読者がそれを読んで申し込んだ場合にキャッシュバックがある仕組みも用意されている。そうなってくれば、適当な業者をおすすめ業者として宣伝することをする人間も山ほど出てくるのではないだろうか。


理想は近所の信頼できる業者を頼るのが1番いい。ネット業者なら都合が悪くなったら名前を変えることも簡単だが、地元の設備屋の場合はそうもいかないし、悪い噂は一気に広まってしまう。

しかし最近は近所付き合いも希薄になっていて、自分の家の近所にある設備屋が全然わからないというユーザーも少なくない。そういう人は、市役所のホームページから水道業者を探してもいいだろうし、自治体の水道局のホームページから業者を探してもいい。そのうえで、ネットの業者と比較してみてはどうだろうか。

施工実績もあるに越したことはないが、簡単にでっち上げることが出来る数値だし、インターネットで検索できる程度の評判は、金をかければ簡単に捏造できる時代だ。もちろんネット業者のすべてが悪いというわけではないから、数ある候補の中の1つとして検討してみることをおすすめしたい。


最後に

給湯器は毎日使用するものだし、約10年近くに渡って生活を共にする機械であるから、もう少し関心を持ってほしいと思う。特に交換が必要になってから急に慌てるのではなく、普段から気にかけてもらえると嬉しい。

洗面所に設置されている場合は視界に入るユーザーも多いだろうが、家の外にあったりボイラー室にあるという場合でも、たまには外観をチェックしてみるだけで、故障の早期発見に繋がるケースも珍しくない。この辺りは人間と一緒なのである。

他にも「給湯器のこれってどうなの?」という疑問がある人は、筆者のブログを覗いてくれると幸いだ。細かい情報を書いているから、給湯器の故障などで悩んでいる場合は力になれると思うぞ!ぜひ、参考にしてくれ。


【参考ブログ】

すずき設備が給湯器やガスコンロ、水回りの悩みを徹底解説