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沖縄滞在日記〜おばぁ編〜

『あの世で女を連れて浮気してないかね?!』

一昨日、久しぶりにおばぁの家へ行くと、

首にかけたタオルで、

半分笑いながら涙を拭う祖母がいた。


私の祖母は、

今は亡きおじぃのことが大好きだ。


一昨日発した、

『あの世で女を連れて浮気してないかね!?』

という言葉は半分冗談で、半分本気である。

急な言葉に、思わず私は吹いてしまった。

私の祖父は1年半前、

89歳という年齢で天寿を全うし、

この世を去った。

祖父がこの世を去ってから、

10歳年下のおばぁは私が来る度、

おじぃを思い出してよく涙する。

私のおじぃは、誰から見ても、

どの角度を切り取っても

イケメンという部類に入る人物だ。

亭主関白でどっしりと座っているというよりは、

品行方正で家族みんなのためにテキパキと働く、

優しくて頭の良い人だった。

何より、甘えることが得意で

言い訳ばかりするワガママなおばぁを

生涯ずっと支えていた。

そんな我が家族の自慢であるおじぃは昔、

アメリカ軍基地で仕事をしていたので英語が多少話せる。

シルバー時代、動物園の警備をしているときに

来園している外国人へ英語で案内していたほどである。

そんな75歳のおじぃのことを、

若いスタッフさん達は「リーダー」と呼び、

外国人観光客もおじぃを頼りにしていたらしい。

裕福な家庭に生まれ、

戦前の学校では周りのお弁当がお芋だったのに対し、

1人だけ白米だったり、

当時、1人だけランドセルや靴を持ったりと、

かなりのお坊ちゃまだったそうだ。

面白いのが、

その白米やランドセル、靴のことを

本人は当時『恥ずかしい』と思っていたところだ。

そういうところ、やっぱりおじぃの性格だなと、愛おしく思う。

そんな家庭に生まれ、

沖縄戦をくぐり抜け、

30歳の時に祖母と出会った。


私の祖母はと言うと、

ワガママで甘え上手、

常に言い訳ばかりをするような人だ。

『誰かがやってくれるからいいさ』

って本気で思っている人なのだ。

道を歩いて車が来ても避けず、

『車が避けてくれるからいいさ』

なんて言って堂々と道の真ん中を歩くのである。

子どもの頃は、

私たち孫が気を遣うほどだった。

そんな祖母は、

19歳の時に祖父に一目惚れし、

ストーカーをするほど猛アタックしたそうだ。

幼少期、私たち孫が来ても

祖父にピッタリとくっつき

指先で『すーき』と背中に書いたり、

『お父さん愛してるよ』

と寝室に行こうと席を立った祖父の足に抱きついたりと、

過度な愛情表現をしていた。

昔は祖父が夜遅く帰ってこないのに嫉妬し、

浮気を疑ってシクシク陰で泣いたり、

喚き散らしたり

私の母はとにかく祖母に手を焼いたそうだ。

今で言う、『メンヘラ』だ。

一応書いておくと、

私の祖父は上品かつ真面目な人なので、

浮気なんてするはずがない。


一昨日おばぁは、おじぃのことを

『この世でもモテたのに、あの世でも絶対モテてる』

と、涙を拭きながらぶっ飛んだ発言をしたわけだが、

どうやったらそんな発想が生まれるのだろうかと

私は笑いが止まらなくなった。


しかし、このような言葉を聴いた私は、

笑い半分、何だかやるせない気持ちにもなった。

なぜなら、仏壇に供えられているお水やお酒、お茶は

私が行く度空っぽだったからだ。

さらにはお供えしていた葉っぱさえも

枯れているのだ。

祖母の家へ行くと常に

『お父さん好きだよ、愛してるよ、寂しい、戻ってきて』

なんて言ってるのにも関わらず、だ。

私はズッコケてしまった。

『おじぃを想うなら、ちゃんと弔ってよ』

と心の声が出そうになったが、

そんなこと私が言えるはずもなく、

慣れない手つきてせっせと私が仏壇を触った。

母は祖母が何もしていない姿を見て、叱っていたのだけれど。

一件、微笑ましく思えるこのおばぁの言葉を

私はどうしても美談には出来ない。


そうだった、私の祖母ってこんな人だった。

めんどくさがり屋で何もしない人なのだ。

そんなおばぁような人を

沖縄の言葉では『ふゆなー』と呼ぶ。


『おじぃごめんね。かわいそうに。喉乾いてたよね。』

とか心の中でおじぃに話しかけながら

久しぶりに目の当たりにしたおばぁの矛盾に呆れ、

私はお湯を沸かし、お茶を作り、お酒やお水を補充したりするのであった。


そんな祖母も今年で80歳だ。

苦労してきてないからか、とても80歳には見えない風貌だ。

マクドナルドのアップルパイが大好きで、

よくステーキやKFCを食べる。

食べ物に関しても、欲や感情を抑えられない人なのだ。

ある意味、ボケないだろうと思っている。

このように、祖母には呆れることが多いのにもかかわらず、

帰省の度、なぜか私はそんな祖母に会いに行きたくなる。

矛盾ばかりのおばぁだが、

人間らしくていいかなと最後は許してしまうのかもしれない。

12人の孫に囲まれ、今年で曾孫が6人になった。

そんなおばぁの最近の楽しみは、

曾孫の成長を見ることだそうだ。

ぜひ長生きしてもらいたい。



足りないところがあってこそ人の魅力になるわけだけど、

私の祖母は魅力以上に周りに迷惑をかけながら生きている。

しかし私は、そんなおばぁを嫌いになれないのである。

そう思った沖縄滞在記でした。



読んでくださり、ありがとうございます。
今回は身内エピソードでした。
沖縄のおばぁは、色んな意味で最強です。

また更新します。

RikuChil

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