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お父さんシリーズ

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我が家で起こった出来事を綴ったエッセイです。 この「お父さんシリーズ」はずーっと前、ほかのところでこっそり書いていたエッセイ。私が脚本を書くようになる前に、ひょんなことから、尊敬…
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#父

秘宝館の娘

私は 「秘宝館の娘 」である。 実家が突然、秘宝館になったのだ。 きっかけは父のガンからの生還。 彼は生から性へのさらなる飛躍をしたのである。 それは突然に訪れた。 日に日に家の中に、いわゆる「開かずの間」が増えていったのだ。 「なぜ応接間が立ち入り禁止?」と父に聞いてもニヤニヤとしているだけで決してそのワケを答えようとしない。 母においては、その話題に触れてはいけないという殺気をビンビンに放っている。 ……ということはある程度の予測はつく。 よからぬことに違いな

父、人助け。松の実と愛人さん。

小学生の頃の話。 よくお客さんの来る家だった。 田舎のせいもあって、いつも応接間にはお客さんがいて、知らない人たちが食卓にいることもしょっ中だった。 今もそれは変わりなく、知らない人が知らないうちに一緒に座って紅白歌合戦を観ていたりする。実家に帰ってだらしなく寝そべってテレビなど観てお尻を掻いたりしていると、近所のおじさんが後ろにいて、ギョッとする。 ろくなもんじゃない。 ある日、父の小さな会社で働いている男の人がやってきた。 その人の裸踊りを見たことがある

父、暴走。庭に温泉を掘る。

言い出したら絶対にあとに引かない父。 ある日、突然言い出した。 「庭に温泉を掘る」 庭に温泉……? 耳に入ってきた言葉がまったく理解不能。 何が庭に温泉だ。 いくら県庁所在地が有名な温泉どころといえ、掘ったからってすぐに温泉なんかでるもんか、いや、庭に掘るってそれなに?という感じだった。 しかし、言い出したら聞かない父。 温泉を掘り当てた後の莫大な構想をこれでもかと饒舌に語る。 24時間、湯水は使い放題。電気代もただ。 お客を呼んでひと稼ぎ。観光地にしてしまおう

父、暴走。しきたりをつくる。

とある年のお正月の話。 毎年、お正月に父は着物を着るのが習慣になっていた。 その年もわりと粋に着物を着こなしていた父。 しかし「その年」は少しだけ違った。 前年に結婚した兄嫁が初めて我が家にやって来るお正月だったのだ。 父はなんだが様子が落ち着かない。 どうしたのかと聞くと、少し薄くなった頭が着物に似合わない、どうも気になるというのだ。 母は「今さら何を」と知らんぷりしていたが、一緒におせちを用意する私に、父は「頭が……頭が……おかしくないか?」と家の中をついて回っ

父、暴走。恐怖の個人懇談。

中学三年生の時であった。 高校受験も押し迫り、生徒もソワソワ、先生もソワソワ。 お決まりの 個人懇談が行われることになった。 込み入った話もするのだろう。 当事者抜きの先生と親の受験前、最後の懇談である。 通常は母が対応していたのだが、その時はどうしても何かの用事で来られないという。 日程を変更してもらおうとしたが、なんと、父が代打で出席するということになった。 正直……それだけは、やめてくれと思った。 父がまともな対応をする人間だとは思えない。 母も、きっと