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フェイクニュース時代を生きる―「Nature」誌掲載 ジョン・マドックス賞受賞リリース

フェイクニュースや誤報とは言いきれないまでも、ミスリードで無責任な科学報道が溢れかえる今、真実を知るために必要なのは「原典のチェック」と「取材」。それは本来、プロの書き手の仕事だけど、書き手が手を抜くのなら読み手がそれをやるしかない。「ネイチャー」なんて読まない、英語なんて読めないという人も、2018年の始まりにこの翻訳を読んでみませんか?

女性の健康の守護者 村中璃子医師
2017年 ジョン・マドックス賞受賞

(出典:Women's health champion, Dr Riko Muranaka, awarded the 2017 John Maddox Prize for Standing up for Science, Nature

困難や敵意にも関わらず、公共の利益に資するサイエンスとエビデンスを広めた人物に与える国際賞、ジョン・マドックス賞を日本の村中璃子医師が受賞した。ジャーナリストでもあり京都大学非常勤講師でもある村中氏が、子宮頸がんワクチンに関する一般的な議論(パブリック・ディベート)にサイエンスと科学的エビデンスを持ち込んだ功績に対するものである。
子宮頸がんワクチンは、子宮頚がんやその他のがんを防ぐ鍵であるとして科学界・医学界において広く認知され、世界保健機構(WHO)にも推奨されている。しかし、日本ではこのワクチンへの信頼を損なわせる誤った情報キャンペーンが行われ、70%だった接種率は1%以下に落ち込んだ。
村中氏のワクチンの安全性に関するエビデンスを社会に伝えようとする仕事に対し、訴訟で沈黙させ、専門家としての評価を傷つけようとする力が執拗に働いた。しかし、村中氏は、科学的エビデンスに裏づけられた情報が日本の家族の手に届くよう、そして、世界の公衆衛生のために努力し続けた。
今年で6年目を迎えるジョン・マドックス賞は、世界をリードする国際的科学誌「ネイチャー」と、慈善団体「センス・アバウト・サイエンス」による共催で、コーン財団の支援のもと、毎年1人か2人の人物に贈られる。
今年は25カ国から100を超える推薦があった。審査委員会は、社会にサイエンスを伝える言論活動の置かれた状況の多様さだけでなく、推薦者たちが直面している極端で孤立無援の状況にも驚愕した。今年も昨年も、審査委員会は、サイエンスを社会に伝える人たち対する組織や制度としての支援(institutional support)が無いこと、そして、彼らがパブリック・ディベートにおいて個人的に厳しい状況に直面した際に、所属する組織や団体の制度そのものが問題になっている場合すらあることに気づいた。
そのため審査委員会は今年、受賞者だけでなく他の候補者を発表することを通じ、所属団体や政府機関、支援機関や学術団体などに対し、どのようにして彼らを支援し、彼らの示すエビデンスに社会がアクセスし続けるようサポートできるかを考えるよう促すことにした。 
受賞者はロンドンの授賞式にて、11月30日午後7時(グリニッジビレッジ標準時)に公表される。

♦受賞者コメント
村中璃子: 優れた編集者であり書き手でもあったジョン・マドックス卿を記念した名誉ある賞を受賞したことを、驚きと喜びをもって受け止めている。私には公衆衛生を脅かす危険な主張を無視することができない。私には人々に真実を伝える必要がある。それが私の書き続ける理由だ。

♦審査委員コメント
フィリップ・キャンベル、「ネイチャー」誌 編集長:村中璃子医師、受賞おめでとう。エビデンスを守るため敵意に立ち向かおうとする科学者たちに対し、組織的・制度的なサポートの重要性を強く感じる。

トレイシー・ブラウン、「センス・アバウト・サイエンス」理事長:今年の候補者の顔ぶれを見れば、ジョン・マドックス卿のこだわった、恐れることも肩を持つこともなく、研究や科学についてパブリックに話し合うことの重要性は明らかだろう。この意味において、村中氏の受賞は非常にふさわしいものだ。村中氏は、サイエンスを社会に伝えるための勇気と優れたリーダーシップを発揮したが、彼女を孤独にもした。この孤独は多くの科学の書き手、伝え手たちが知るところであり、私たちは、団結がなぜ必要なのかを改めて自らに問い直す必要がある。

コリン・ブラックモア、ロンドン大学先端研究所 神経科学・哲学教授: 審査員たちは、数々の科学者、医療者、ジャーナリストたちの、偏見と既得権益に立ち向かう勇気、不屈の精神の物語に改めて感銘を受けた。中でも、専門家としての評価を傷つけようとする誹謗中傷、訴訟、強迫にもかかわらず、日本と広い世界に向け、子宮頸がんワクチンのベネフィットに関して情報発信した村中璃子氏の決然たる努力は際立っていた。

マーティン・リーズ・オブ・ルドロウ、ケンブリッジ大学: 世界的に見た場合、学術機関・学術団体による社会貢献が評価されつつあることは好ましい傾向である。しかし、学術機関。学術団体は、困難なパブリック・ディベートに遭遇した研究者をどうサポートするかについて真剣に考え、行動したことがあるのだろうか。たとえば、訴訟を起こされたというような場合に。

ナターシャ・ローダー、「エコノミスト」誌: 既得権益や利益団体に真実をつきつけることほど重要なことは無い。しかしそれは困難で、時に大変な代償を伴う。今年、ジョン・マドックス賞の審査委員たちは、何人もの候補者に賞を贈りたい気持ちになった。しかし、村中氏の勇敢さと強さは数々の素晴らしい候補者の中で抜きんでていた。彼女は、誤まった情報キャンペーンが成功をおさめる中、日本人の少女たちが子宮頸がんワクチンにアクセスできるよう戦い続けている。

ブレンダ・マドックス、ジョン・マドックス賞パトロン: 私の亡くなった夫ジョンは、科学的知識と豊かな表現力の両方に恵まれた類まれな人だった。誰かが、彼にこう尋ねたことがある。「ネイチャーに掲載された話のうちどのくらいが間違いだったと思うか?」ジョンはすぐに答えた。「全部だ。それがサイエンスだから。サイエンスとは、常に新しい知識が訪れ、古い知識を修正していくものだ」

木下勝之 日本産婦人科医会会長、村中氏の推薦者: 村中氏の2017年ジョン・マドックス賞受賞を心から祝福したい。誹謗中傷、訴訟、専門家としての評価を傷つけるようなあらゆる攻撃にも関わらず、子宮頸がんワクチンの安全性を社会に示そうとした彼女の勇気ある挑戦は、ジョン・マドックス賞の精神そのものである。彼女の受賞は、日本の厚生労働省による子宮頸がんワクチンの接種勧奨に関し大きなインパクトを与えるだろう。さらに言えば、この受賞が子宮頚がんワクチンの大きな公衆衛生学的ベネフィットに対して疑いを持つ、医療関係者やジャーナリストに科学的な理解を促すことを期待している。

【他の候補者の話については力尽きたので今日のところはここまで】

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