じれったい待ち合わせ

「人を待つのってすごくじれったいでしょ?
          そのじれったいのが好き」

一度見ただけでも鮮烈な印象を残す映画『娼年』の中のこの台詞は、特に私の中に色濃く影を残している。私はそのじれったいのがかなり苦手な方だからだ。

もうすぐ相手は来るとわかっているけれど、まだ姿が見えないとき、自分の内側にもくもくと煙が噴き出ているみたいに落ち着いていられなくなる。初対面の相手ならまだしも、何回も会っていて親しい人でもこうなる。そわそわしないのはよっぽど昔から知っていて心を許している友人とか一緒に暮らしている家族だけだ。

何に対して心が動揺しているのかは全くわからない。相手の姿が見えた瞬間に心の煙は一気に吹き飛び、さっきまで強張っていた身体からも力が抜けていく。因果関係のわからない緊張と対峙するのは本当に心の据わりが悪くなる。

普通は約束の時間に間に合わないことの方が不安を掻き立てるだろうけど、私の場合、約束の時間より早く着きすぎることに対しても不安になってしまう。
もちろん人を待たせてはいけないから、できるだけある程度の余裕を持って到着できるように計算するけれど、ギリギリになったり遅れることもしばしばある。

それはただ単に、時間がないのにのんびり支度してしまうとか、時間の逆算が下手くそとか、私のタイムマネジメント能力の無さに起因しているだけだろうけど、あのじれったいのが苦手、というのももしかしたらあるのかも……というひとつまみの言い訳もこっそりと添えておく。

今度はできるだけ遅れないように、でもじれったさに内心そわそわしながら、またどこかで誰かを待つ。

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