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山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第四十二回 胃もたれ必至のアウトサイダー・ミュージック特集


これはね、ご本人の沽券に関わる大変デリケートなことですから一部イニシャルでお話しさせていただきますけど、あのね、ミュージシャンでO山田K吾さんっていらっしゃるじゃないですか。

あいつ絶対ヅラだろ!!!!!

“ヅラっぽく見えるけど実はヅラじゃないんだよ”っていう巧妙なラインを狙ったヅラだろあいつ!!!!!!!

ウチのお母さんは、ことヅラを見抜くことに関しては超一流といっていい審美眼を持ってるんですけど、お母さんにO山田K吾さんの動画見せたら2秒で『ああ、ヅラね』って言ってたもん。間違いないですよこれは。

よく音楽評論家の方とかが、『俺は誰にもおもねったりしねえ、自分が思ったことをありのままに書くぜ』って肩で風切ったりしてますけど、なんでそういう人たちはO山田K吾さんのヅラ問題には頑なに触れようとしないの?

昔ロッキンオンジャパン読んでて、誰だったか忘れたけど、『レコード会社の人からシャレにならんから絶対に止めてくれと言われているが俺は書く』って息巻いてる方がいらっしゃいまして、『一体何を告発するのだろう?』と思って読み進めたら『岡村靖幸さん、どうしてあなたはそんなに太ってしまわれたのですか?』って書いてあって仰け反った記憶がありますけど、ポップ批評とかロックジャーナリズムってそんなに窮屈なモンなんですか?

真面目な話、スライ・ストーンとかデヴィッド・ボウイとか、まぁウォーホルも入れちゃっていいですよ、あの人たちがカツラを着用していたっていうことは、あの人たちの作品を読み解く上でひとつの重要なヒントになり得るじゃないですか。だから音楽評論家の方がそろそろ誰か指摘してもいいと思うんですよね。ああいうスタンスでああいう音楽をやってらっしゃるO山田K吾さんがヅラを着用してるっていうのは結構『なるほどね』って感じしませんか? しませんか。そうですか……はい、すみませんでした(涙を拭きながら)。

いやちーがーうーって!! 俺アンチとかじゃないから全然!!

俺はあの人が関わった音盤は一通りちゃんとフィジカルで買い揃えてるし、あの人が表紙の雑誌ウチに何冊あるかわかんないもん!!!!! そんぐらい大ファンなの俺は!!!!!!

だからこそね、沈黙を続けるO山田K吾さんにも、ことをタブー視して頑なに口をつぐむ音楽評論家諸氏にも拘泥たる気持ちをずっと抱いてきたのよ!!!!!

大体さ、若い頃あんだけ若手も大御所もクソミソに言う芸風だったO山田K吾さんがさ、今さら自身のヅラを指摘されたぐらいで怒るワケないじゃん!!

言う勇気持っていこう!! 

2020年だぞ!!!??

そろそろみんな言う勇気持っていこうよ!!!

まぁ三ヶ日も終わりましてですね、そろそろ新年に向けて活動を始めるという方も多いと思うんですけど、お正月におせちだのお雑煮だの満願全席だの食べすぎちゃって胃が重たい。って御仁もいらっしゃるでしょう。その胃もたれを取り払うんじゃなくて、むしろ加速させましょう。二日酔いを迎え酒で治すかのごとく、わざと胃もたれするような重たい音楽を聴いていきましょう。

胃もたれする重たい音楽。それは何か。

ヘヴィ・メタル? ノン。

デトロイト・テクノ? ノンノン。

スラッジ・コア? ノンノンノン。

胃もたれを起こす重たい音楽といえば、奇人変人たちによる規格外の音楽、アウトサイダー・ミュージックです。言いたいことも言えないこんな世の中ですが、やりたい放題やっている彼らの音楽を聴いていると冗談抜きで癒されます。

というワケで、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第四十二回は“胃もたれ必至のアウトサイダー・ミュージック特集”と題して、天衣無縫なブッ飛び音楽を皆さんと共に聴いていきたいと思います。みんな、ついてきてね!!




一曲めはLEGENDARY STARDUST COWBOYで『Paralyzed』。



レジェンダリー・スターダスト・カウボーイ。

この名前を聞いて『ああ、あいつね』とほくそ笑む方はなかなかのアウトサイダー・ミュージック・メイニアでしょう。

テキサス出身のレジェンダリー・スターダスト・カウボーイ、本名ノーマン・カール・オーダムは、自作の宇宙横断許可証を持ち歩き、デヴィッド・ボウイ『ジギー・スターダスト』の元ネタにもなった(これマジです。ボウイ本人が語っているインタヴュー映像も残っています)、伝説のスペース・カウボーイにして、カルトでマッドなカントリー歌手であります。

デヴィッド・ボウイが語る、彼との邂逅エピソードは大変面白いです。

ある日、ボウイがロンドンの街を散歩していると、街角で妙な青年を目撃しました。その青年はカウボーイの格好をしており、道路の真ん中で地図を広げて何やら考えこんでいる様子。

好奇心に負けたボウイは『何してるの?』と青年に声をかけました。

青年はボウイの方を見ることもせずに答えました。

『宝探し』。

ロンドンの街中で地図を広げて宝探しをするカウボーイ。この異常事態にテンションが上がりまくったボウイは青年に名前を尋ねました。青年はゆっくりと答えました。

『俺の名前はレジェンダリー・スターダスト・カウボーイだ』。

そして青年は、自作の宇宙横断許可証を差し出しました。彼の魅力に完全にヤラれてしまったボウイは、そのあと何時間もその青年と話し込み、晴れてマイメンになったそうです。そしてその社会から逸脱しまくった異形のパーソナリティをモチーフに、異星から来たスーパースター『ジギー・スターダスト』のキャラクターを作り上げたそうです。

そんな彼が1968年にローカル・レーベルからリリースした『パラライズド(痺れちゃったぜ)』は、人々の情緒をかき乱すアウトサイダー・ミュージック永遠のクラシック。清々しいほどに狂った饒舌なヴォーカル、ぐじゃぐじゃに壊乱したリズム、場違いすぎるトランペット、突如として爆裂するドラムソロなどなど、とにかく何もかもがブッ飛んでいます。必聴です。



二曲めはLUCIA PAMELAで『Waking on the moon』。



これは人類史上初めて、月面でレコーディングされたアルバムです。しかもこのアルバムはアポロ11号が月面着陸した1969年7月20日よりまえにリリースされているので、人類で初めて月面を踏んだのはニール・アームストロングとエドウィン・オルドリンではなく、このルチア・パメラということになります。

だってルチア・パメラ自身がそう言い張ってんだからそうなんだろうがよ!!!!!

このアルバムに収録された13の楽曲はすべて、ルチア・パメラが月世界で体験した出来事に基づいて書かれています。ルチア・パメラは金星でもレコーディングを敢行しようとしたそうですが、『レコーディング環境が良くなかった』という理由で頓挫しています。ルチア・パメラは音楽活動を引退したのちもちょくちょく月面旅行に出かけていたそうですが、2002年、98歳でこの世を去りました。

地球から一歩も出てねえクセしてアセンションだの宇宙の法則だの抜かしてるスピリチュアル共は、ルチア・パメラを聴いてイチから出直しやがれ!!!! ロッケンロー!!!!!



三曲めはNapoleon XIVで『They're Coming To Take Me Away, Ha-Haaa!』。



1966年に起きた、音楽史に残る珍事。日本では『狂ったナポレオン、ヒヒ、ハハ……』という邦題で知られているこの楽曲はビルボードチャート3位を記録し、100万枚以上のセールスをあげた、アウトサイダー・ミュージック史上もっとも売れたシングルのひとつであります。

レコーディング・エンジニアのジュリー・サミュエルズがお遊びで録音した曲が仲間内でウケ、リリースするに至ったノベルティ・ソングで、愛犬を失った男が精神疾患を起こし、精神病院へと連れ去られていくさまを描いた悲劇的な曲なのですが、救急車のサイレンの音が鳴り狂う中、マーチングドラムやハンドクラップに載せて語りかけるように歌われるヴォーカルは『ラップの元祖』と評価する向きもあり(完全な過大評価だと思いますが)、とにかくアウトサイダー・ミュージックを語る上では絶対に欠かせない歴史的な一曲でございます。

これB面もヤバくて、タイトルが『Yawa Em Ekat Ot Gnimoc Er’yeht !Aaah-Ah』っていうんですけど、A面を逆回転して収録しただけなんですよ。ヤッバいですよね。

ラッパーのビズ・マーキーデッド・ケネディーズジェロ・ビアフラがカヴァーし、あのカニエ・ウエストもサンプリングしたこの世紀の珍曲、ぜひ耳を傾けてみてください。飛ぶぞ。



四曲めはLINCOLN CHASEで『Wooshp, Oom, Sff ... Ahhhh !』。

ドリフターズシャーリー・エリスに楽曲提供し、数々の名曲をヒット・チャートに送り込んだソングライター、リンカーン・チェイスの唯一といっていいソロアルバムの一曲目です。

リラクシンなR&Bサウンドに挿入される、鼻を啜る音と吐息はコカイン吸引をネタにしたえげつないジョークで、これが何度も執拗に繰り返されます。言語化できない意味不明なタイトルも、おそらくコカインを吸入した際の呻き声を模したものだと思われます。帝王マイルス・デイヴィス『ユア・アンダー・アレスト』でこれと同じコカインネタを上機嫌で披露する、12年まえの出来事です。時代先取りすぎです。

何やらムニャムニャ唸っていたかと思えば、突然爆笑したり奇声をあげるヴォーカルはいま聴くだにフリークアウト感ハンパなく、『俺は一体何を聴かされているんだ……?』と困惑すること請け合いです。ブラック・ミュージック史に残る大変な珍盤ですね。



というワケでいかがでしたでしょうか、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第四十二回 胃もたれ必至のアウトサイダー・ミュージック特集、そろそろお別れのお時間となりました。次回もよろしくお願いします。

愛してるぜベイベー!!!!!!!!

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