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山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第六十五回 バースデーソング特集


どうもどうもどうもどうも。

先日、年下の友人(童貞)が誕生日を迎えたので、みんなでハッピーバースデーを歌ったのち、『今年一年の抱負は?』と伺ったところ『セックスするっすね』と即答していて爆笑しました。

しかし誕生日、という概念は考えてみるとなかなか不思議なもんですよね。日本は戦後まで誕生日を祝う風習は基本的にありませんでしたし(現在88歳の祖母に話を伺ったところ、夕食が普段よりほんの少しだけ豪華とかそのぐらいだったみたいです)、そもそもが『数え年』というシステムが採用されていたため、生まれたときは1歳からスタートし、正月になると皆一律に歳を取るものとしていました。誕生日を祝う、というのは舶来の文化なワケですね。そして自分の誕生日というのは、全世界の人間が知りえているものではありません。

サウジアラビアでは戸籍に生年月日を記載する義務がないため、己の生年月日を把握していない人が多くいますし、ジプシーなどの遊牧民は“日付”という概念が希薄であるため誕生日や記念日といった習慣を持ちません。アメリカでさえほんの100年ほど前には、自分の誕生日がわからないという人が数多くいました。

しかし、どんな人間であっても誕生日は確実に存在します。暦という体系は、貨幣と同じく便宜的につくられたシステムに過ぎませんが、それでも、あなたがこの世に生を受けた瞬間、人生でさいしょに呼吸をした瞬間というのは必ず存在しています。それはいわば座標の原点です。我々は原点から出発し、X軸を移動する点Pです。

原点が存在し、区切りがあるからこそ、我々は思索を巡らし、行動することができる。『今年こそはやってやるぜ』とか『オレももう30だし』とか言えるのは、与えられたシステムの上で生きているからです。まっさらな時間を生きていた原始人には、きっと未来の希望も、過去の悔恨もなかったに違いありません。未来への希望も過去の悔恨もない世界があるけどお前来る? って誘われたら僕は『行かない』って言います。

まあまあダラダラワケわかんないことを書いてしまいましたけど、ワタシは誕生日という概念が好きです。当事者にとっては『なんとか一年生き延びたぜ』ってガッツポーズする日ですし、家族や友人にとっては『生まれてきてくれてありがとう。君に出会えてよかったぜ』って伝える日でもあります。

先日、誕生日を勘違いしてしまった大切な友人や(本当に申し訳ない)、もうすぐ誕生日を迎える悪友たちへ。誕生日おめでとう。少し遅いけど。誕生日おめでとう。少し早いけど。君たちがいなかったらマジマジのマジで今の僕はありません。運命に、遺伝子に、歴史に、そして何よりもその才能に心から感謝します。生まれてきてくれてありがとう。君たちに出会えてよかったぜ。いつか動かなくなるその日まで、一緒に楽しく踊ろう。

というワケで山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第六十五回は“バースデーソング特集”と題して、選りすぐりのバースデーソングを皆さんとともに耳を傾けていきたいと思います。




一曲めはイノセンス・ミッションで『ハッピー・バースデー』。



カレン・ペリスドン・ペリス夫妻を中心に、1980年代から活動するアコースティック・バンド、イノセンス・ミッションの2007年作。一度聴いたら忘れられない歌声と、繊細なギターが実に穏やかで心に染み渡ります。このバンド本当に素晴らしいです。

この楽曲の歌詞は以下のようなものです。ワタシの拙い意訳ですが、ぜひ聴きながら目を通してみてください。


あなたが目を覚ますと太陽が輝く

私たちは曇り空の下にはいない

町でバルーンを上げようよ

ぜんぶのベルを鳴らそう

誕生日おめでとう きれいだね

今日はすべての鳥が 歌を歌うよ 歌を歌うんだ

列車の夢があなたを運んでゆく

桜の花が咲いている州立公園を通りすぎる

そしてあなたが目を覚ますと

世界が始まるんだ

誕生日おめでとう きれいだね

きょうは路上で

歌を奏でるよ 歌を奏でるんだ



二曲めはジョー・サイモンで『ハッピー・バースデー、ベイベー』。


地元の黒人教会でゴスペルを歌いながら歌手の道を志し、1963年にデヴュー。若干ハタチにしていきなりビルボードR&Bチャート13位を飾ったソウルシンガー、ジョー・サイモンであります。

それからもヒット・チャートに数々の名曲を送り込み、メロウ・ソウルの名手としてその名を轟かせることとなるのですが、転機は1975年に訪れます。ディスコ・ブーム前夜に完全フロア仕様のダンス・ナンバー『ゲット・ダウン、ゲット・ダウン(ゲット・オン・ザ・フロアー)』をリリースしたことにより、メロウ・ソウルの名手からディスコ・シンガーへ転身を遂げます。

そしてディスコ・ブーム真っ盛りの1979年にアルバム『ハッピー・バースデー、ベイベー』をリリース。多幸感に満ちたアッパーなディスコ・ナンバー満載のこのアルバムは当時のディスコで盛んにスピンされ、中でもこのタイトル曲は新宿二丁目の某ソウルバーの『勝手チャート』で長らく1位に君臨し続ける大人気曲となりました。

誕生日おめでとう、ベイベー! 君の夢はきっと叶うよ! 俺には君が全てなのさ! 

って歌です。泣けまくる。言われてえ。いや、言いてえ。

誕生日おめでとう、ベイベー! 君の夢はきっと叶うよ! 俺には君が全てなのさ!



三曲めは、和田加奈子で『誕生日はマイナス1』。

和田加奈子さんの1987年作。これめちゃくちゃ良いアルバムです。シティ・ポップ/ジャパニーズAORブームに乗って、去年の末にはタワレコ限定でリマスター盤がリリースされるなど再評価の機運高まる名盤でごぜーます。

で、この曲、ものすごい良い曲なんだけど、歌詞が非常に難解というか、はっきり言って壊乱しています。かなり意味不明です。曲が良すぎるから気づかないんだけど、かなりブッ飛んでます。

どんな内容かっていうとですね、あくまで僕の憶測ですけど、一個年下の彼氏がいて、その彼氏とは誕生日がおんなじだから、毎年誕生日には一緒にケーキを食べている。

でも一個下だから友達には弟だと思われてて、とても彼氏だとは言い出せず、そのことを思い悩んでいる。

そこで優しい彼氏が、彼女のキャンドルを一本減らして、僕らはタメだよ、大丈夫だよ。っていうっつー歌なんですけどね。

まあはっきり言ってにわかには信じがたい状況ですよね。

五歳下とか十歳下ならわかるけど、一個下で弟だと思われるか、普通? 

そんな思い悩むようなことか? 

あと彼女のキャンドルを一本減らすってのもおかしかねえか? 

お前が年下であることで悩んでるんだからむしろお前が歩み寄れよ。お前が逆サバ読めよ。

つーかそもそも『誕生日はマイナス1』って何だよ。意味不明すぎるだろ。

ですけれども、この曲は本当に素晴らしいです。むしろこの驚異的な言語感覚があったればこそ、この曲は80sシティ・ポップの中でもとりわけ異彩を放つ名曲たりえたと思います。誕生日はマイナス1!



四曲めは、アー! フォーリー・ジェットの『ハッピーバースデー』。



この曲が、というかこの詞が後世に与えた影響は凄まじいと思います。

現代は病みに病みまくっている一億総メンヘラ時代ですから、そういったメンヘラ表現を取り扱ったポップスやマンガや映画などが我が国には無数に存在していますけれども、この楽曲がリリースされた2000年にはそういったものははっきりとメジャーなものではなかったし、精神疾患も今ほどカジュアルなものではありませんでした。

2000年というのは、世界全体が、本気で平和を夢想していたような時代です。

そんな状況下において歌われたこの曲は時代を完全に先取っています。作詞は、当時パニック障害に苦しみ電車に乗ることさえ困難だったという菊地成孔さんが手がけています。聴き取りになりますが、以下のような歌詞です。


なんで泣いてるんだ ベイビー
『世界の終わりが来ないからよ』なんて
君の嫌いな 今夜は バースデー
『老化は病気なの』なんて いつも言ってるね

恋人のあの教授は出て行っちゃったの?
乳首にサルトルのポートレート貼られちゃって
体中にバースデー・ケーキを塗りたくられたヌードが
縛られてひとり泣いてるなんて
これが君の恋なの?

ベイビー 僕でいいならキスをしようぜ
電話くれてありがとう
だからベイビー 僕でいいならここにいるよ
なんて夜だろう ハッピー・バースデー

星が綺麗だよ ベイビー
彼のトラウマを引き受けたかったなんて
キスがヘタクソだな ベイビー
紙切れの結婚なんてナンセンスなんでしょ

初恋のパパからまだ手紙来るの?
ゲイの恋人と家を出てから
余計なお世話だけど返事は出した方がいい
『今でも愛してる』って書けばいい
それが君の恋でしょう?

ベイビー 僕でいいなら抱き合おうぜ
毛布かけてあげるよ ジョークも
笑ってよ ベイビー
ひとつはっきりしてるけど
君はキュートだ ずっと前から
ほらごらん ベイビー
僕らが住むこの星は 捨てたもんじゃないでしょ?
ビューティフル ほらごらん ベイビー
僕らが見るあの月が こんな綺麗だ


目眩がするほどのロマンティークと、ひりひりするような青春性。メンヘラ、性倒錯、LGBTQ、加齢恐怖など現代的なテーマが詰め込まれた切なくも美しいストーリーライン。まるで岡崎京子さんのマンガのようです。この楽曲をあなたとあなたとあなた、そして何よりかけがえのないあなたに、心の底の底から捧げたいと思います。感謝と、驚きと、尊敬と、愛と、愛と、愛と、愛と、愛と、愛を込めて。


というワケでいかがでしたでしょうか、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第六十五回は“バースデーソング特集”、そろそろお別れのお時間となりました。誕生日おめでとう、少し遅いけど。誕生日おめでとう、少し早いけど。生まれてきてくれてありがとう。君に出会えてよかったぜ。次回もよろしくお願いします。


愛してるぜベイベーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!


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