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こっせつ

金曜日の夜。椅子の上で正座をしていた。寒かったものだから。お茶を飲み終え、さて、お風呂にでも入るか、と思って立ち上がった。足が痺れていた。一歩踏み出したところで、まずい、と思った次の瞬間、ガリゴリッと音がして、わたしは台所の床に倒れていた。激痛。泣きそうだった。

起き上がれない。床が冷えていて、身体中がブルブルと震えた。だが立てない。足が痺れていたため、つま先が伸びず、足の甲で着地したまま、全体重をかけてしまったのだ、と理解するまでに時間がかかった。折れたとは思わなかった。しかし、あまりの痛さで立ち上がれない。しばらく床に倒れ込んでいた。

どうにかこうにか布団に潜り、ムスメが保冷剤を手拭いでぐるぐる巻きつけて冷やしてくれたが、眠れないまま一夜が明けた。

翌朝、病院に連れて行ってもらった。レントゲンを撮った。「わからん」と言われた。エコー検査で「あ、ここか。欠けとる」と整形外科医は言った。「これは難しいね」その理由は3つ。
その1、足の甲の骨(名前を聞いたが忘れた)を剥離骨折しているが、ギプスで固定すると、歩くたびに一番痛いところを刺激してしまう。
その2、安静にしていないと、悪化する。
その3、これ以上、ひどくなるかもしれないが、今は様子を見るしかない。

そんなわけで、ギプスの固定もなく、「なんもすることないよ。痛み止め要るなら出すよ」と言われただけ。「歩くときはね、こう、踵で歩くんだよ。すぐ慣れるから」と歩き方を教えてくれたが、松葉杖を使えとは言われなかった。まじか。なんの支えもなく歩行できるのか不安だ。

それでも月曜日、どうにかこうにか出勤した。わたしは無理をしている。休みたい。安静にしていたい。歩きたくない。と思っていたが、「大丈夫ですか」と聞かれたら、人は「大丈夫です」と答えてしまうものだ。

地下鉄の駅でエレベータから車椅子に乗ったおじさんが降りてきた。生まれて初めて、「車椅子、いいなあ」と羨ましく思った。「それ、乗せてもらえませんか」とさえ思った。車椅子の生活は大変そうだと思っていたけれど、自分の体が思うように動かせなくなると「便利そうだ」と思ってしまう。いや、車椅子じゃなくてもいい、電動キックボードだっていい。せめて杖でもいい。なんか補助が欲しい。だって痛いもの。

結局、翌日はタクシーで出勤した。ところが、あろうことか職場の手前で通行止め。金欠のわたしが思い切ってタクシーに乗ったのに、最後の最後で痛みの増すガタガタ道。わたしはふーふー言いながら、ヘンテコな歩き方で通り抜けた。なんだろう。この罰ゲーム感。

そして一週間が経った。毎日仕事に行ってはいるが、まったく捗らない。最初ほどの痛みはないが、治っている感じもしない。体が痛いと、小さなことでイライラしたり、ムシャクシャする。仕事の行き帰りに、大量のチョコレートや菓子パンを買い込む。気を紛らわせようと、ムシャムシャ食べてしまう。

イマココ。

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