しりあがりのドラえもん

初めて顔合わせをした職場内スタッフとの打ち合わせが済んだときのこと。
書類を入れようと相手が取り出したクリアファイルに、いやおうなく目をひきつけられました。

ファイルの全面に、殴り書きのようなイラストが描かれていたのです。
(ええっ?)と頭の中は「?」だらけ。
初対面の相手なので、何も言わずにスル―するのが大人の対応。でももう見なかったことにはできません。

「Tさん、それ、なんですか・・・?」
恐る恐る聞いてみると、
「それ?」
Tさんは私を振り返り、私が指さしたクリアファイルに目を向けます。

「ああ、これ、ドラえもんのクリアファイルです」

画像1

!!!

「うわあ・・・」
そう思いたくなかったのですが、色合いはあまりにもドラえもんカラー。

「そのドラえもんは、なんですか?」
日本語覚えたての人みたいになっています。

「これ、六本木ヒルズで『ドラえもん展』をやった時に買ったんです」

数年前に大々的に開催されたのは、知っています。
押し寄せたファンを満足させられるほどたくさんのドラえもんグッズが売られたのでしょう。

その中から、Tさんはこれを選んだの?
お上品で物静かな雰囲気の人なので、意外すぎます。

こうして突然話題に上がっても、特に恥ずかしがるわけでも、笑ってごまかすわけでも、熱く語るわけでもなく、穏やかに私に微笑みを向けるTさん。
こちらの方が動揺を隠しきれず、明らかな温度差を感じながら、なんといっていいものかと迷います。
だって、ぺらっとした紙のようなドラえもんですよ!

さすがにそうは言えず、
「ええと、しりあがり寿の絵みたいだなって思って」と絞り出すと、Tさんは

「誰かの絵だってどこかに書いていたような」とクリアフォルダを凝視し、
「ありました。当たりです!すごいですね!」と言われました。

ということは、Tさんはしりあがり氏を知らず、単純にこの絵を気に入って買ったんですね。

そして気が付けば、私の方がしりあがりファンのような感じになっているではありませんか。
いいえ、むしろ苦手なタッチなので、ピンときたんでしょう。でもそんなこと相手には伝わりませんね。

しりあがり寿の描いたドラえもん。すごかったです。
子供は泣くレベルじゃないかと思います。
デフォルメ半端ないのに、なぜ手にはオリジナルにない5本の指をしっかり描き込んでいるんでしょうね?

画像2

裏も強烈です

好き嫌いはともかくとして、
・ 彼以外には描けないだろう衝撃的なイラスト、
・ 一目で(あの人の絵だ!)とわかるオリジナリティ、
・ 見る者の心をとらえて離さない圧倒的パワーにびっくり。
絵を見てぐったり脱力した後には、反動なのか、なぜか元気になれます。

そんなに影響力のある絵を描ける人って、なかなかいませんね。
決して好みではないのに、なんとも形容しがたい吸引力。すごい力を持つ人なんだなあと、あらためて感じました。
インパクトが強すぎて、これからもTさんと会うたびに、しりあがりドラえもんを思い出しそう。
私も一度くらいは、人の心をいっぱいにする忘れられないイラストを描いてみたいものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?