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ほりぶん『これしき』の感想メモ

2021年7月29日に花まる学習会王子小劇場で観たほりぶん『これしき』の感想メモ

ブレーンな舞台。床には線が2本引かれていて、後方には書き割りのような自動販売機。
前方に置かれた濃い灰色のような小さな箱が目に入る。
やがて主宰的俳優が登場してご挨拶、。コロナの影響で公演が二度中止になったこと、その間に作品も新たに変化を遂げたこと。その上で5人の女優が並び舞台の幕あけとなる。

すれ違った女性どおしのちょっとした口論から世界が歩み始める、そこに仲裁の女性が現れるは、路傍にへたり込んでいた女性が絡むは、その女性におにぎりを恵もうとする女性が登場するはの前半は、俳優達がそれぞれの表層を取り繕いつつこだわりを捨てきれないその姿も面白く、そこはなとなく感じられる不穏な和解がやがて後半へと仕込まれた空気にも燃料にもなっていく。後半、それぞれが抱える秘密が晒されていく中では、なんだろ、俳優ごとの演ずる筋肉の底力が鋼のバネのように舞台に効いて、熱を帯び、ドライブが掛かり、箍が外れ坩堝に観る側もとりこまれてしまうのだけれど、冒頭の物語を語る枠組みが最後にも効いて、それらが記憶の俯瞰に収まるような感覚がおとずれて。そこに作り手の語り口の確かさや洗練を感じる。

洗練を感じるという点では、この舞台のいろいろに、さりげなくいろんな美しさが、物語の恣意的なうすっぺらさを支えるように仕掛けられていたように思う。たとえば、女性たちの衣装に目を奪われる。もれなくそれぞれにさりげなく個性的なレトロさがあって、なかなか今のセンスで着こなすのが難しそうなワンピースの色使いなのだが、女優達が演じる力とともにその個性で纏うことで、衣装のデザインの美しさが際立ち、ひとりずつの存在感や感性や頑迷さや逡巡もビビッドに舞台に映える。なかには役柄の必然からつぎはぎだらけのものもあって、でもそれを顔や手を汚した姿で着ていても、そこに俳優のコアにあるセンスというか洒脱さが垣間見えることに目を奪われる。
差し込まれたスコットジョップリンの曲が醸すつかの間の平穏など、音の作り方も上手い。そのメリハリが後半ここ一番での外連をがっつりと引き立てる。観ていて嵌る。立ち回りの自販機の商品取り出し口から転がして見せたりといった工夫も、舞台のど真ん中で置かれた箱を開き後ろ向きに化粧をしてみたりの所作も、歌舞伎での仕掛けを晒しての見せ方とどこか共通するような企てられたあざとさというかインパクトの強さがあって掴まれる。

終わってみれば、ここ一番での俳優達の力技はたっぷりに見応え十分で、でもそのクライマックスに至るまでの空気の揺らし方の緩急やいろんな精度がみせどころの力技を単なるドタバタだけに濁らせず、終わってみれば俳優達の描くキャラクターの個性が埋もれることなく、混濁することなく、描かれた日々が記憶に翻るような距離をもって残る。観終わって、作り手ならではの作風に浸され満足もする一方で、作劇の研がれ方というか従前の作品たちからの一段の進化にも新たに惹かれたし、そのために必要な今回の俳優達の足腰の強さや人物造形の確かさや表現ごとの繊細さや奥行きだったとも思う。
たっぷりと楽しみつつ、その先の作り手の作品がどのような新たな歩みを見せてくれるのか、新たに期待が膨らんむ。
余談だけれど、当パンをみると、「ほりぶん」の次回公演は年末に紀伊國屋ホールとのこと。あの名門ホールに作り手の表現の研がれ方がどのような風貌や息遣いを持つのか、今からもう楽しみでならない。
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ほりぶん第8回公演 『これしき』
2021年7月27日~8月1日@花まる学習会王子小劇場
作・演出 : 鎌田 順也(ナカゴー)
出演 : 川上 友里 上田 遥 川口 雅子 木乃江 祐希 新井 雛子
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共催 : (公財)北区文化振興財団(舞台芸術創造支援事業)


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