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room42 『ラブ・ストーリーは特戦隊』の感想メモ

2021年6月10日にOFF・OFFシアターで観たRoom42、『ラブ・ストーリーは特戦隊』の感想。

内容とタイトルに齟齬はない。ラブストーリーだったし特戦隊ものだった。ただ、ヒーローたちは会社員として悪と戦ってスポンサーから利益を得るという設定で、オフィスのシーンが一番多くその中に社内恋愛も紡ぎこまれるという趣向。設定にのっかって冒頭からのくすぐりもあり、ステレオタイプなオフィスドラマの態もちりばめられて、開演してしばらくは気軽に楽しめる軽めのコメディのような印象があった。で、そのテイストは最後までのこるのだけれど、設定から訪れるチープさもあるのだけれど、それだけでは客を帰さない戯曲や俳優のクオリティが後半にがっつり作り込まれていて、終演時には良い意味で想定外の充実感に満たされてしまう。

物語の前提をサクっと俳優が手持ちのスクリーンに投影して観客に説明してしまうのが意外と効果的。戦闘中のバトル時にもスポンサーのロゴが目立つ決めポーズみたいな小ネタに始まって、舞台は下世話でありつつ不思議と凡庸になることはなく、たとえば資生堂パーラーが作る金平糖のごとくに目立たずさりげなくきちんと作り込まれた高級な駄菓子感があり、オフィスシーンとヒーロー、あるいは中間管理職とヒーロー、不倫とヒーロー、ベテランOLの恋心とヒーローといったアンマッチてんこもりの舞台に描かれるものたちの構成がしなやかにまかりとおり観る側を飽きさせない。ベタなだけではない舞台の味わいや物語の歩みがちゃんと観る側を捉え続ける。それは作家にとっては手慣れた作業なのだろうだけれど、ひとつずつのシチュエーションや関係性が破綻なく意外性をもって物語の血肉へと踵を返すことにはわくわくするし、観た回には序盤にちょっとした照明機材のトラブルもあり、それに動じない俳優達にも感心したけれど、そのことがなんとなくシーンの積み重なりの中でメリハリを加える表現に翻ってしまうような作品の間口の広さや確かさがあって、物語においていかれたり滞りを感じることなく着々と取り込まれてしまう。
俳優たちも前半こそ作品設定のチープさに準じてシーンを重ねているものの、後半から終盤に至ると要所でギアをすいっと上げて一瞬への解像度をあるまじきクオリティで場に差し入れる。ここ一番のヒーローの危機を蹴飛ばしてQ本かよから漏れ溢れるベテランOLの女性としての想いが息をのむように艶めかしく、密度を持ち緊迫した舞台に異なる次元をねじ込むに十分すぎるほど際立ち、観る側がどうしてよいか分からないほど(超褒め言葉として)場違いで、たとえて言うならばプラスチックの装飾品の中に天然石の輝きが混じり込んだようにも感じ、その違和感がしっかりと物語の舵を定めるのが凄い。小島望の不倫相手に対する感覚も、ヒーロー物の世界から一歩踏み出した俳優の手練に裏打ちされた解像度とともに作り込まれていて、ヒーロー物の流れには収まりきれない女性の揺らぎとしてしなやかに伝わってくることにも感心。伊与勢我無が担う課長職には物語の屋台を支えるに十分な、盛りをすぎたヒーローの悲哀や矜持とベテランOLの想いを同じ空間で乖離させない演技のバランスとしたたかさがあり、物語を束ね生まれた深さが不思議とあざとく感じられないように舞台を導く。栂村年宣は管理職の風貌や部下との不倫への禍々しさを絶妙なステレオタイプさでうまく描きつつ、それらは会社勤めを経験した者には直感的に思い当たるオフィスあるあるでありつつ、そうありつつもまったく別腹で踊りのステップの確かさがあってそちらにも目を奪われてしまう。安来節(?)を踊らされ止まらないという設定に対して、なんだろ、一言でいえば恐ろしく達者、上手い。身体の使い方というかステップごとの安定感や切れがすごくて、それが場の可笑しさをなげっぱにせず、シーンを繋ぎ、物語全体の密度を守る。野村亮太には物語に時間の経過や奥行きができてもそれをみる側に迷子にさせない実直でしたたかなキャラクターの貫きがあり、顛末が解けたとき観る側を心地よく得心に着陸させる。難波なうのお芝居の腰の据わり方もすごく良い。ヒーロー物としての舞台を担保するような強さが紡がれる一方で、物語を濁らせない存在感の切れがあり、戯曲の構造を守りつつキャラクターのヒールから仲間に至る中での個性や舞台上での温度感のようなものをブレずにしたたかに作り上げる。気がつけば、彼女の演技の先で舞台上は不思議に厚みをもったでもチープさを失わない世界への歩みを進めていた。

まあ、ある出演者の方がツイッターでつぶやいているように、この舞台を丸めてしまえば「ヒーローが怪人とスポンサーに板挟まれながら不器用に愛を紡ぐ話」なわけで、でも、そうなのだけれど、その設定や筋立ての面白さだけではない、物語のお題や表層が持つ薄っぺらさとそれを紡ぐ俳優の技量と力量さらには戯曲の骨組みのクオリティに、確信犯的に、やりたい放題に、作り手のドヤ顔が思わず浮かぶほどにアンマッチであることへの驚きがあって、そこから溢れてくるふくよかなギャップの可笑しさこそがメインディッシュだったようにも感じる。松坂牛で牛丼を作ってつゆだくで供するような贅沢さ、それにさりげなくしっかりと値打ちをつける星付きシェフの腕や、さらにはそれを吉野家の牛丼の態で出す狡さを感じながら、カーテンコールではとても満たされて拍手をしていた。
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Room42
「ラブ・ストーリーは特戦隊』
@下北沢OFF・OFFシアター
2021年6月9日(水)~6月13日(日)
脚本/演出:
白坂英晃(はらぺこペンギン!)
出演:
野村亮太(やまだのむら/room42)
伊与勢我無(ナイロン100℃)
Q本かよ
小島望
栂村年宣
難波なう

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