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Mrs.fictions『15 Minutes Made in 本多劇場』の感想メモ

2/23日夜に観たMrs.fictions『15 Minutes Made in 本多劇場』の感想メモ。

第一回こそ見損なったのだが、第二回からはほぼ欠かさず見続けている6団体のショーケース企画。前回の開催は2017年だったとのことで約5年ぶりである。
ここで知って追いかけている団体もひとつやふたつではない。また、既知の団体であってもその力を再認識したり新たな側面を発見したりもした。短編演劇のおもしろさもたんと知ることができた。私が舞台を観るうえでの道標のひとつでもあった。

下北沢の風景を移す3Dのピースも差し込まれた映像を見ながら開演待ち。主宰が登場して前説を始める。これまでと同じ手順で始まることにもわくわくする。

では、それぞれの演目の感想を・・・。

・ロロ『西爪橋商店街綱引大会』

女性が鼻に詰めたものが抜けなくなるという冒頭のちょっと非日常な風景の中で、登場人物たちの変わり映えのしない日常の空気に取り込まれる。綱引きを対面で見せず上手と下手の両端から綱を出して引き合うのも見事な工夫で、相手がかつて劇団の公演にも登場したエイリアンっぽいものというのも、綱の引き方がその平穏な日常をさりげなく変えてしまう一言で変化することにも、その結末やエイリアンが変化するものにも、作り手のしなやかで豊かな寓意を感じる。終演後には団体の以前の芝居に登場したそのエイリアンっぽいものの記憶を反芻したりも。
振り返って、その距離や過ごした時間を観る側の感覚に共振させる俳優たちが醸す空気にも、その絶妙な変化にもたっぷりに心捉えられていた。

・演劇集団キャラメルボックス
『魔術』(原作/芥川龍之介「魔術」)

一時休止していた団体を再び観ることができてとても嬉しかったし、改めて空間に物語を編んでいく地力というかその表現の研がれ方に息を呑んだ。冒頭の缶を叩く音が空間のリズムとして刻まれる。やがてしっかりと強く鮮やかに物語が紡がれ始めると、自然に心が前にのめりその先へと心が動きだす。複雑な展開ではないのだけれど、3人の台詞が時間全体を膨らませ、温度を醸し、積み上げられる一瞬ごとが質量となり、観る側にその顛末を求めさせる。終演時にはふぅっと息を吐く。その呼吸が戻る中での充足があった。
たくさんの公演を積み重ねた団体の蓄積は少々のお休みでは失われないことを実感。

・ZURULABO『ワルツ』

トルソーに掛けられた衣装、さりげなく悲劇の匂い、物語はどこか懐かしいドラマや少女漫画を読むような世界から始まり、憂いを湛えた展開が語られるのかとおもいきや、あれよと踵を返し色を変え、観る側が受け身を取ることができないようなあからさまさが塗り重ねられ、更には下世話さを通過して生命や人が根源に抱く想いへと至る。
少々愕然としつつ、でも舞台から手放されることなく見入る。受け取る美しさから生々しさまでのヒエラルギーを斜めにわたっていくような感覚があって、その表層の美学と作り込まれた身も蓋もなさの混在に作り手ならではの才を見た想い。終演後はとても良い意味で心がざわざわしていた。

本多劇場ロビー

・ブリーツアーツ『真夜中の屋上で』

声優たちの団体とのこと。舞台には人数分のマイクが立ちリーディングと俳優の出捌けで物語が構成されていく。耳から訪れる表現はアニメとか映画の吹き替えとかで馴染みあるものなのだけれど、それが彼らの姿とともに目の前にあることで、日頃慣れ親しんでいる視覚と聴覚の主客が逆転し、映像のイメージを纏う彼らの俳優としての戦い方があることにも気づき、その鍛えられた表現力に圧倒され魅了される。歌舞伎座で歌舞伎が、能楽堂で能楽が、大劇場で商業演劇が、小さな劇場でたとえば現代口語演劇が育まれてきたように、多分私が気づいてなかっただけなのだろうけれど、映像という舞台で育まれてきた表現のメソッドが新たに劇場というフィールドを得たように思えた。

・オイスターズ『またコント』

団体については、去年王子小劇場で『ちちんち』という父親が違和感なく家に滞留し増殖していくという芝居を観ていて、それがやたらにおもしろくて驚きもしたし終演後には魔法に掛けられたような気分にもなった。そして今回その魔法の杖が再び振られたように感じた。
笑いを掘り起こされてしまっておいていうのもなんだけれど、未だにそのルーティンが何故面白いのかと問われると答えようがない。でも、王子小劇場で観た『ちちんち』がそうであったように、理性の網をすり抜けるなにものかがするっと引き出され何度も揺らされるうちに自然に観る側の得心に落ち着いてしまうような感じがあって嵌る。
最後には登場人物全員のその場にいる背景を晒すことで、描かれた状況にも感じた可笑しさにも必然が与えられてしまう。その作劇のしたたかさにも舌を巻いた。

・Mrs.fictions『上手も下手もないけれど』

何度も観ている作品なのだけれど、観るたびに新たに傑作だと思う。冒頭の語り口の芝居がかった薄っぺらさが場に時間を留める箍を外し、ひとつずつのセリフや所作が日々を歩ませ、一瞬遅れて観る側の気づきとなり、観る側が抱くその移ろいへの感慨や共振となり、愛おしさにも、悔いにも、痛みにも、充足にも翻り、心へと積もっていく。
それは、たくさんの異なる輝きを持った宝石をみているようにも感じられる。舞台上を流れる刹那ごとに光は色を変え、その歩みを焼き付け、最後の暗転の中に切なくふくよかな余韻が残る。初めて作品を観た時と少し印象が違ったのは、観る側が歳を重ね彼らの半生を眺める視座が変わったからかもしれない。
またこの作品をみる僥倖に恵まれた時に舞台は観る側の新たな立ち位置からどのような想いを引き出してくれるのだろうか。少し時を隔てて是非にもう一度見たいと思った。

今回は初めての本多劇場開催、観終わって企画がたわわに熟した感もありつつ、これまでこの企画からもらった様々を今回もまた新しく受け取ることができたように思う。回ごとに劇団の選び方や上演作品にトレンドを感じる企画でもあるのだが、今回はそこに熟達した良きバランス感覚を感じたりも。

また様々に企んでいただける予感もあって今後の開催も実に楽しみである。

本多劇場 入口階段付近

(出演団体 詳細)
・ロロ『西爪橋商店街綱引大会』
脚本・演出 :三浦直之
出演 :亀島一徳、望月綾乃

・演劇集団キャラメルボックス
『魔術』(原作/芥川龍之介「魔街」
脚色・演出 :成井豊
出演 :畑中智行、山本沙羅、三浦剛
パーカッション指導 :ガシャ G(SOONERS)

・ZURULABO『ワルツ』
脚本・演出 :小野寺ずる
出演 :植田崇幸、木原実優
声の出演・演奏 :宮本沙羅

・ブリーズアーツ『真夜中の屋上で』
脚本 :真柴あずさ(演劇集団キャラメルボックス)
演出 :緒方恵美
出演 :中村悠人、関根翔太、奈良原大泰、
伊藤梨花子、島倉肌隼、緒方恵美
声の出演 :儀武ゆうこ、須藤叶希
演奏 :木目とーる

・オイスターズ『またコント』
脚本・演出 :平塚直隆
出演 :安田遥香(アホロートル)、菅沼翔也(ホーボーズ)
佐治なげる

・Mrs.fictions『上手も下手もないけれど』
作・演出 :中嶋康太
原案 :岡野康弘
出演 :岡野康弘、豊田可奈子

上演時間 約2時間


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