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『ことば』vol.10~記念日~の感想メモ

3月4日夜にPerforming Gallery & Café 絵空箱でBorobon企画 『ことば』vol.10 ~記念日~を。

年に1度のこのシリーズ、vol.2から観ていてまったく見飽きない。今回は非常事態宣言中ということで衛生管理もきっちり、「ワンドリンク込み」もなく、舞台との距離をとり客席の密を避けるためかこれまでとは異なる場内のレイアウトだったけれど、始まればこれまでに観た見慣れた表現の形式が新しい表情を携えて舞台に編まれていくし、プログラムの構成に観る側の感性をマルチに引き出すような企みがあったりもして。『ことば』という公演のフォーマットや味わいが毎回継承されつつ、陳腐になることなく新たな試みがなされていることの楽しさや高揚を感じる。

その中で改めて思うのは、俳優達それぞれの表現の間口の広さというか、うまく表現できないのだけれど演じる排気量の大きさみたいなもの。それが空間の一瞬ずつの洒脱さやふくよかさを支え、観る側をとりこみ委ねさせる。詩やドラマや聞き慣れたはやり歌の歌詞を取り出して台詞に語り新たなニュアンスを作ったり、連作のスキットを一瞬に立ち上げ物語へとほどいたり、その表現の瞬発力や奥行きや色のさじ加減にしなやかに取り込まれてしまう。時にダンスで編まれたり、コーラスに織り上げられたりもして、でも、この舞台のなかでは、それらも「ことば」のニュアンスにまで歩み出して観る側に残る。

今回、終盤にあやめ十八番の堀越涼さんが提供した短編『オーストラリア 晴天なり』がリーディングの態で演じられたが、この戯曲も素晴らしかった。シチュエーションが観る側に渡されるまでの時間が良く作り込まれていてとてもよい顛末の語り口のバランスで舞台にしっかり繋がれるし、シチュエーションの解け方にもたつきがなく、だから物語の構造がシンプルに思えダレることがなく、それぞれが自らを語ることにも理があって、観る側の視野がその空間からしなやかに世界へと広がる。良い俳優が演じる見応えも導かれていて、手練れが紡ぐからこそ生まれるそれぞれのキャラクターの実存感もあった。そうして描かれる時間は切なくて、ぬくもりを失うこともなくて、ビターさの残り方もすごく良い。
一方で、戯曲として今回の公演に収めるだけではなく、いろんなところで、いろんな形で演じられる懐をもった作品だもと感じる。今回の座組(?)でも俳優を受け止めそれぞれの演じる力を楽しませてくれていたけれど、一方でもっと開発途上の力がチャレンジするにも良い作品ではとも思う。あと、突飛な発想かもだけれど、この筋立てを落語にすれば、噺家には登場人物の演じ分けにきっと地力が求められ、観る側にはしっかりと登場人物それぞれの世界観がもてる、まあ「たちぎれ線香」のような大ネタとまではいかなくても、多くのキャラクターを演者も観客も楽しめるネタになるのではあるまいか。

日替わりゲストは藤崎卓也さん、舞台に様々な道具的なものが持ち込まれたときには色物の匂いも感じたが、絵本を読み始めるとそれらの道具が奏でる音が悉く物語の血肉となり、訪れるものを表現する創意となり必然にすら感じられていく。絵本自体も読めば心に残るものなのだろうと思う。でもね、絵を見ることなくひきこまれた感覚はきっとそれとは別物の素敵さで心を捉えてくれたような気がする。

なんか脇目も振らず楽しんで、『ことば』また来年も観たい。

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『ことば』vol.10 ~記念日~
構成・演出の原案 水下きよし
構成 井上啓子 演出 仲坪由紀子
@ Performing Gallery & Cafe 絵空箱
出演 井上啓子 小口ふみか 川西佑佳 杉山薫 仲坪由紀子
 蜂谷眞未 伴美奈子 山藤貴子 丸川敬之


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