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「風吹く街の短編集 第四章」の感想メモ

少し前になるのですが、2月6日の午後に下北沢OFF OFFシアターで観た
グッドディスタンス「風吹く街の短篇集 第四章」の感想メモ。3つの中編が上演され、そのうちの2作品を観ることができました。

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・『ジャングル』
作:大岩真理/演出:柏木陽
出演:泉正太郎・石田迪子

冒頭から少しずつシチュエーションが解けていく。二人の間のできごとや記憶を、俳優達が実直に、それぞれの彩やテンションをしたたかに出し入れしながら、場をその時間ごとの質感に染めて描き出し、それが舞台への吸引力となり、描かれ語られるひとときのありようから目が離せなくなる。また、ふたりだけの物語だけはなく、その会話からそこにもう一人の女性の存在が織り込まれていくことでの広がりにも捉えられる。ただ、ふつうなら、ここまでに重ねられた舞台上の時間は、絡み合い、ひとつの物語として丸まっていくのだけれど、そこには作り手の語り口の企みがあって、ルーズに繋がってもどこか重ならず、解けずに、全体像に組み上がることなく、それぞれの時間のあいまいさとして残る。それは、登場人物たちの心のなかに刻まれた事象の不思議な遠近感を渡されているようにも感じる。
観終わって「ジャングル」というタイトルに得心。出来事の断片や感触の色が生い茂るその様は、淡々とそれぞれの幹から垂れ下がり、絡まり、そこにあり、だからこそ人が抱く生きる記憶やなりゆきのつかみ所のない立体感とも感触のリアリティともなり揺蕩い続けた。

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・『自画像-HINOEUMA’66-』
構成・演出:越光照文/音楽:寺田英一
出演:松岡洋子

作り手の圧倒的に練られ、磨かれ、仕組まれた企みに観る側が取りこぼしなく巻き込まれるような、見事に構成された一人芝居だった。最初に三部構成の物語の枠組みが示され、観る側を語りの筋立てに囲い込む。生い立ちが紡がれ、演劇との関わりが編まれ、それが彼女の舞台を観た記憶とも重なり、最後に語られる彼女自身の想いに呼吸を与え、鼓動を授け、血を巡らせ、その熱の満ち干となり観る側を捉えていく。
とても骨太な繊細さに支えられ緩急の冴えをもった俳優の語り口があり、女性が日々を歩む生々しさも想いの移ろいも浮かび上がらせる。でもその先で解け崩れることははなく、女優の演じることへの実存感や存在感を観る側に渡し、しなやかに揺らぎ倒れることのない歩みの確かさを、何より俳優の俳優たることへの矜持を際立たせ、観る側のかつての彼女の舞台の記憶を新たなふくよかさとともに裏打ちしていく。
終演後、醸された舞台の質量に圧倒されて暫く動けなかった。一人芝居とは思えないほどの、そして一人芝居だからこその、見応えがあった。

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このクオリティの2作品を体験して、もう一編の『人という、間』を観ることができなかったのがとても残念に思えたことでした

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