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6団体プロデュース『1つの部屋のいくつかの生活#3』の感想メモ

4月10日~4月12日にかけて観た6団体プロデュース『1つの部屋のいくつかの生活#3』の感想メモです。

この企画、文字通り6つの団体が吉祥寺シアターに組まれた同じセットで1時間程度の舞台を上演するという試み。2団体ごとのペア上演で赤、黄、緑の3組構成。さくさくっとショーケース的に観ることができるかなとおもいきや、どの団体もしっかりと質量を持った作品で、一組観るごとに素敵に消耗してしまいました。

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 【青】
前半:Pityman『そんなこと話してる場合じゃない』
3つのコントのようにも感じつつ、同じ一つの部屋の時系列をもった連作のようでもありつつ、その大外にはそれらが演じられている場所の外の風景が差し込まれていて。
その構造の無理のなさというかしたたかさに埋もれないひとつずつの作品の面白さもあり、観る側に作り手の企みが見えた先での遊び心も感じられて、うわぁ良く出来てるなぁと思ったし、繋ぎや伏線も巧みで笑いが膨らむ。次第に嵌まり込み感が生まれとても不思議な充足感がおとずれた。
終わってみれば観る側が寄りかかってもびくともしないような戯曲の強度を感じる。これまでもなんども良き作品を観せてもらった作り手だけれど、作品の枠組みの組み方の腕が更に上がった気がする。

作・演出:
山下由
出演:
池内風(かわいいコンビニ店員飯田さん)
江原パジャマ
太田旭紀
小林涼太(ピストンズ)
齋藤亘
内藤ゆき
中山将志(エ・ネスト)
堀山俊紀
丸山港都

☆ ☆ ☆

後半:こわっぱちゃん家『ピクニックへのご招待』
前半の場の雰囲気がとても自然にテンションを持ち、でもその中にちゃんと伏線的な印象も刻み込んでいく。どこか欠落した感覚が観る側の無意識に残され、それが後半には物語の真実に翻る。観る側への隠された事実の解きかたにも洗練があって、切なくて、でも抗えない淡々とした現実を受け取る感覚にまで観る側を導く。
その展開を歩むためのシーン割りというか尺の使い方のバランスがとてもよよい。観る側にあざとさを感じさせることがない物語の仕込み方と解き方の先で「ピクニック」、すなわち死の受容の感覚に滲みなく見事に染められた。

脚本・演出:
トクダタクマ(こわっぱちゃん家)
出演」
トクダタクマ
瀧啓祐
晴森みき
中野亜美
鳴海真奈美
松ノ下タケル
山田梨佳

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【黄】
前半:PandemicDesign『犠牲と修正』
会期後半の上演時には入り口で登場人物の相関図が配られたらしいが、初日にはHPに相関図があるという説明があっただけで、まあ予習をしない生徒が怠惰なのかもしれないけれど、観ている最中はシーンの重なりが形をもって頭の中に積み上がっていかず、一方で重いテンションを空間に編み出す力量も一瞬を染める切っ先も俳優達にはあって、ブレや遊びもない。観終わった後には細微なデザインがたくさんにちりばめられた抽象的な鉛のオブジェを渡されたような気分になった。
帰宅してから、相関図を確認してある程度得心はできたのだけれど・・。観ている最中の感覚は、開演前に筋書きも読まずイヤホンガイドも借りずに観る、歌舞伎の初見の演目に似ていた。定められた上演時間との兼ね合いもあったのだろうけれど、舞台のインパクトが減じない範囲でもう少し背景を紡ぐ時間をあたえられるべきだとも思った。

作・演出:
日野祥太
出演:
葉月ひとみ
近澤智
真綾
新野七瀬
根岸拓哉
西川智宏

☆ ☆ ☆

後半:劇団競泳水着『月にいるみたい』
昔から作り手の編む世界に馴染んでもいて、その世界の吸引力を改めて実感。それぞれのキャラクターの次第に観る側に浸透してくるような色の作り方や時間の遠近感がもう一段研がれ、さらには従前よりも物語を語る落ち着きのようなものも感じられた。なんだろ、記憶を共有できるような感覚。ひとりずつの登場人物が舞台から訪れたもののと共に息づかいをもって時間を過ごしていくような。遠近感を持った時間の膨らみに、訪れる者と去って行く者の印象が紡ぎこまれ、その巡りへの感慨が満たされていく。
俳優達が編むキャラクターの風貌にひとつまみのデフォルメがあって、それが物語を混沌とさせず、登場人物全ての物語を観る側の印象に残すのも、相変わらず上手いなぁと思うし、この肌触りで訪れるクリアな曖昧さや、日々を生きる感覚のリアリティは、従前の彼の作品に触れた時のようにやっぱり癖になる。

脚本・演出:
上野友之
出演(五十音順)
市原文太郎
今治ゆか(モラトリアムパンツ)
大川翔子
小川結子
小島あすみ(アナログスイッチ)
後関貴大
竹田百花
七星束子(青年団)
東出薫
佛淵和哉
宮田祐奈
山日涼夏
声の出演:
吉田電話(クロムモリブデン)

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【赤】
前半:劇団晴天『獣道すらないぜ、令和』
あからさまというか、あっけんからんと下ネタもあり、素直な気持ちであろうが歪んだ想いであろうが全力投球で投げ込まれていく勢いがあって。開演後暫くの展開には観ていてとまどいたじろいだりもしたが、なんか滓がないというか、気がつけば俳優の紡ぐ言葉をまっすぐに受け取っていく心地よさに引きこまれていた。野球などで腕がしっかりと振れているとかバットを振りきっているとかいう言い方があるが、おなじような演技の芯が俳優達の台詞の紡ぎ方にあって、感情の出し入れがしっかり温度になり、それぞれのこじらせ方も薄っぺらくならず、晒される本音や、建前を崩す正論の明確さにも惹きつけられる。めんどうくさい人物たちなのだが、それがなんか気持ちよい。
観終わって、不思議な爽快感とぬくもりとビターさがひとつに寄り合わさって、観る側が得心のいくちょっと良い話になっていた。そこにはこの俳優たちのこの語り口でなければ表現できない空気の編まれ方が間違いなくあって、それを受け取っての高揚感も残った。

脚本・演出:
大石晟雄
出演:
つかてつお(東京ジャンクZ)
以下、劇団晴天
荒木広輔
近藤陽子 (劇団AUN)
佐藤沙紀
白石花子
鈴木彩乃
角田悠

☆ ☆ ☆

後半:ハダカハレンチ『ショートケーキまじまじ』
なんだろ、今ではちょっと古風にも思えるバラけた語り口というか物語の組み方なのだけれど、観ているうちにステレオタイプな今の閉塞感に浸されていくような感覚に捉えられる。とても洗練され研がれたチープさに見入りながら、どこかありふれて行き場のない今がシーンごとの後味に残る。
三澤さき・井本みくにといった俳優の彼女たちならではの存在感の強さもよく舞台を支えていて、その作り出す歪みのようなものがすっと行き場のない今を生きる感覚を導き出す。上手く言えないのだけれど、恣意的に雑っぽく組み上がった舞台の緻密さから、浮かび上がる時間が観客の毎日のなにかと共振しているように感じる。
タイトルにも使われたショートケーキの落ちもなんかコロナの日々にそめられた当たり前感を上手く切り出していた。

脚本・演出:岡本セキユ出演:
榊原美鳳
井田雄太
岡本セキユ
(以上、ハダカハレンチ)
井本みくに
上岡実来(しあわせ学級崩壊)
加糖熱量(裃-這々)
黒澤風太(guizillen)
中馬瑠香
はぎわら水雨子
平川千晶
三澤さき

☆ ☆ ☆

完食して、お世辞抜きに6団体の異なる面白さに満たされた。なにかそれぞれの団体のコロナ渦の中で演劇を作ることへの気合いのようなものも感じた。

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