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第27班『ゴーストノート』の感想メモ

3月10日昼に下北沢劇小劇場で第27班『ゴーストノート』を観劇。

開場後比較的早めに時間に劇場に入ったら、舞台上にはすでに俳優達がゆるゆるとしっかりと空気を編み始めていて。それが本編の物語の一部ともなっていたのでぎりぎりに行かなくてよかった。

ここから先にはがっつりとネタばれがあります。もし作品をごらんになるようでしたら観劇後にお読み頂くことをおすすめします。(3月14日まで掲示)

舞台中央にドンとドラムセットが据えられていて、それが単なる舞台美術ではなく、楽器としてはもちろんのこと見立てでの小道具ともなりSEの道具としても使われる。そしてドラムセットの存在が絡むたびにシーンにぞくっとするようなメリハリや切れが生まれる。
実は主人公でもあり狂言回しともなる男がドラムセットを購入してから売るまでという物語の外郭があり、観る側はその中で冒頭舞台上にいた3人の男達の関係を追い、それに交わる男女の関係の顛末にも自然に取り込まれていくのだが、不思議なことにドラムセットが絡まるとそれらのエピソード達がバラけずすっと自然に観る側に収まる。言い争う男女のリズムを支える使われ方に舌を巻き、焼き肉屋のテーブルと換気扇の態となって場の臨場感が生まれ、飲みに行く金もない男女がコンビニで買った酒を飲みながら言葉を交わすときの踏切の警報音と電車の通過音を奏でてその場を染めるひとときの色を醸す。それらのシーンの重なりには時間の前後もあるのだが、ひとつずつがドラムセットから訪れる「装飾音」に繋がっていることで、やがてエピソードたちに記憶が浮かび消えるような感覚がうまれ、物語が描く日々の顛末に血が通い、打ち鳴らしやがて滅失していく貧乏にまつわる行き場のない想いとなり記憶となり感慨となる。

戯曲の編み方の強かさも感じたが、それをドラムセットとともに操る演出の冴えにも感嘆。また俳優にもその演出を舞台に映えさせる力があった。二人の女優にはそれぞれにその名前を覚えたいと思わせるほどのロールへの肉付けへの確かさがあったし、男優達の冒頭の風情にそれぞれの呼吸を与え想いのありようの実存感を観る側に渡す力にも自然にぐいっと惹かれた。演出家が楽器屋の役回りから踏み出してドラムを動かし操るという趣向も作品の面白さを更に引き立てていたように感じる。

作り手ならではのずっとテンションと洒脱さを失わない舞台の語り口に取り込まれ、いろんな要素がしなやかな舞台の切れの感覚へと束ねられ残った。
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第27班 若手演出家コンクール最優秀賞受賞記念公演
『ゴーストノート』
2021年3月10日~14日 @「劇」小劇場
脚本・演出 
深谷晃成
出演
出演:鈴木研 佐藤新太 大垣友 深谷晃成 河合つくし 古川さら


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