「はじまりは蝶」4話


「あの、ほんとのほんとに大丈夫なんですかこれ」
「あぁ? 知らねーよんなの」
 自分の髪を撫でながら言うサドさんは、ご機嫌斜めだ。どうやらご自慢の髪にまで液体をつけるのが気に食わなかったらしい。僕たちは、『とどのつまり』の近くの森に移動していた。ポウ星人は、人気のないところに拠点を持っているらしいんだ。僕たちは、皆一様に壺の中身を体中に塗りたくって相当匂いが酷いだろうから、ある意味有難かった。もはや鼻がおかしくなったのか、自分ではもう臭いを感じなくなったけどね。液体は、塗ったときこそ最初は緑色で本当に宇宙人になったみたいだったけど、時間が経った今ではほとんど無色透明になっている。不思議なもんだ。
「大丈夫、なはずだ」
 フランクさんは、緊張した面持ちで言った。なぜ、砂の城の男の子があんなものを持っていたのかは知らないけど、あの子も宇宙人だったのかもという結論でまとまった。考えようとしたら、サドに今はそんなことどうでもいいと言われたからだ。まあ、今は時間が惜しいからその通りかもしれない。
「もう少し先だ」
 フランクさん、僕、サド、タタンの順番で僕らは歩いていた。ここまで森の奥は僕も来たことがない。無言でいるのも気まずいので、僕は気になっていたことを聞いてみた。
「あのー失礼ですが、ちなみにフランクさんたちもその、こういう感じの匂いなんですか?」
「はぁ? 舐めてんのかお前。陽だまりの野原の匂いだよ、失礼極まりないわっ」
 すかさずサドさんに否定された。ほんとうかな?
「例えがわかりにくいですよねー」
「うるさいぞタタンッ」
「うぇええーん」
「お前たち、もう少し静かにしろ。敵の拠点に行くんだぞ」
 その後は、黙々と歩き続けた。歩けば歩くほど、辺りは暗くなっていった。木が多くなっているのもあるけど、日が落ちてきているのかもしれない。頭の中であれこれ考えていると、フランクさんが足を止めた。
「ここだ」
 一見すると何もなっていないけど、フランクさんが言うのだから、そうなんだと思った。
「いくぞ」
 僕は黙って頷いた。いよいよだ。
「誰もいませんねー」
 タタンさんのお気楽な声が辺りに響いた。僕らの気合の入れようとは反対に、誰も拠点にはいなかった。木が生えているだけなんだ。どんなのが出てくるのかってビクビクしてたから、ある意味ではラッキーかもしれない。
「ここら辺の辺りだと思うんだが」
フランクさんは辺りを見回した。
「今の時間は必要な人員以外は拠点を空けているのかもしれん」
とサドさん。
「じゃあ液塗ったのって、意味無いんじゃないですか?」
「そんなことはない。奴らは匂いに敏感だからな。違う大衆を放ってるやつが出入りすれば直ぐに駆けつけるはずだ」
「じゃあやっぱり意味ないんじゃ」
「あー説明が悪かったな。わざわざ液を塗ったのは、ワープ状態に入るためなんだ」
「ワープ?」
 僕の疑問に、「ああ」と珍しくサドさんは冷静に答えた。
「地球から外部の空間に繋いでいるポイントがあるはずなんだ。いわゆる異空間ってやつだな。その中の方が、地球よりか快適に過ごせる。もし自分ら以外のやつが入ったら、勝手に弾き出してくれるしな」
「へーえ、異空間か」
「でなきゃやってられっかよ、こんなベタベタしたのを塗るのなんてよ」
異空間っていうとわくわくするな。僕は、ポイントは宇宙みたいなだだっ広い感じかなと想像した。
「フランクさんたちは、ポイントはないんですか?」
「ああ。俺たちは、割と地球に適応しやすい体質みたいでな」
 だから、夢碧さんも普通に生活出来てたんだ。
「そのポイントっていうのは、どういうところにあるんですか?」
「移動しないものに繋いでいることが多いな」
「動かないものか。ここだと木とかですか?」
「そうだな。触ると空間が歪むような感覚があるからわかるはずだ」
「とにかく探してみましょう」
 タタンの声を皮切りに、僕らは木に囲まれた森を捜索し始めた。片っ端から木に触れていくけど、ごつごつした木の皮が当たるだけで、特に何も起こらない。
「うーんないなー」
 こんなところに、本当に異空間なんてあるのかな。
「これ食べますか?」
 木をぺたぺた触っていると、ニコニコとタタンが包みに入ったお菓子を渡してきた。
「これ何ですか?」
「チェリーボンボンです」
「あ、結構です」
考えるだけで酔ってきそうだ。
「えー、美味しいんだけどなー」
モグモグとタタンは咀嚼して、またバッグの中を漁った。全部中身はチョコレートらしい。
「おいお前、あんまし遠くに行くなよ」
「あ、はい」
 その後夢中になっていると、サドさんが声を掛けてくれた。お礼を言ったら、「別に」だって。思ったより面倒見のいい、良い人なのかもしんないな。と言いつつも、集中力っていうのは恐ろしいもんで、どんどん僕は奥に進んでいった。それで、一本ずつ木を確かめていたとき、
「あっ」
 僕は思わず木から手を離した。離した、というのとはちょっと違うな。触れている感覚もしないんだ。まさに、「無」という感じだ。これが、フランクさんが言う空間が歪んでいるってやつなのだろうか。僕は、もう一度手を入れた。今度はもう少し深く。
途端、手に何かが絡みついた。
「誰かっ」
と僕は叫んだ。
「小僧どうした!」
 サドさんの声だ。
「助けてっ、手が変なんです」
 右手では耐え切れずに、左手も「無」の中に突っ込んだ。
「そいつはポイントだなっ」
「サドさん、手になんか変なのがっ」
「わかってる!」
 サドさんが片手で僕の手を掴むと、僕の手のひらから、紫のシャボン玉のような色をしたものが、手に向かってチーズのように伸びくる。剥がそうとしたけど、サドさんにじっとしているように言われた。
徐々にそれは、手から腕を包み込み、顔へと侵食してきた。
「おいフランクッ、タタンッ。ポイントがあったぞ」
 と、サドさんが叫んだ。引っ付いていたものが、シャボン玉のように膨らんで、体が飲み込まれていく。
「わぁあっ」
「落ち着け、正しくシステムが起動している証拠だ」
二人が駆けつけたときには、僕たちの体全体がシャボンに包み込まれていた。
「フランクッ」
 タタンさんをおぶさって走ってきたフランクさんの手を、サドさんが勢いよく引っ張った。二人がシャボンに吸収された途端、シャボンがピシャッと体に張り付く。
「うぐっ」
息が苦しいし、喋れない。次いで、どこかに引きずり込まれる感覚がした。
「うぉおおおおっ」
 とにかく物凄いスピード。バンジージャンプってこんな感じなのかもしれないと思った。おまけにプロペラみたいに体まで回ってるときた。上も下もわからない。ぐにゃぐにゃした世界の速さに耐えられずに、僕は目を瞑った。
「うっ」
どっかに落ちたみたいで、すっかり僕の動きは止まった。
「おい坊主、大丈夫か?」
 そっと目を開けると、フランクさんが隣で体を起こしていた。
「はい、何とか」
 少し酔ったけど。まだちょっとフラフラする。
「ここはワープの中ですか?」
「そうだ」
フランクさんは頷いた。
「あれ、みんなは?」
 何だか柔らかいなーとお尻を地面に押し付けると、くぐもった声が下から聞こえた。
「お前、早く降りてくれ」
 潰れたような声が聞こえる。
「えっ、ああっ」
僕が素早く立ち上がると、体に張り付いていた紫の物体が、パリパリ音を立てて落ちた。落下の時痛くなかったのは、サドさんを下敷きにしていたからだったんだ。サドさんの体がくっきり地面にめり込んで、地面に型ができてるよ。ど、どうしよう。
「大丈夫だ坊主、そいつ頑丈だから」
「なーにが頑丈だっ」
「いい加減起きたらどうだサド。坊主、地面を触ってろ」
 フランクさんの言う通り、地面を手で押してみると、押した部分が低反発のように時間差で戻ってくる。
「あれ、柔らかい」
「感心してんじゃねぇ、先に謝れっ!」
「あ、ごめんなさい」
「ふんっ」
 サドさんはそっぽを向いて離れた場所に行ってしまった。「気にするな。別に怒ってなんかいないさ」
 と、フランクさん。
「そうだと良いんですが……。ここは、ワープの中ですか?」
「そうだ」
 あながち僕のしていた宇宙のイメージは間違ってなかったみたいだ。写真や映像で見る宇宙とはまた違うんだけど、どこまでも空間が広がっているように見える。星のような点が時折瞬いたり、波模様のような光線がねじれながら動いている。じっと見てても飽きなさそうだなと思ったら、すでに立ち上がっているタタンさんが興味深そうに眺めていた。
「俺と坊主は奥に向かう。おいサド、お前とタタンはここで待機だ」
 そう言うとフランクさんは立ち上がったので、僕もそうした。
「ああわかったよ」
 ぶつくさ言いながらサドさんも起き上がって、天井を観察するタタンさんの方に向かっていった。
「いくぞ坊主」
「はい」
僕とフランクさんは、同じ景色をずっと進んでいった。同じ、といっても光ったり模様が動いたりするから少しずつは変化しているのだけどね。
「あれは?」
 と僕はフランクさんに言った。白い階段が目の前に現れたからだ。
「分からない、が」
「怪しい?」
「ああ。罠かもしれないが、何か得られるものがあるかもしれん。行ってみよう」
 白い階段を上っていくと、何の装飾もされてない、白くて細長いケースが登りきったところに置いてあるのが見えてきた。上まで駆け上がって、僕たちは表面のガラスの中を覗き込んで、はっと息をのんだ。中に夢碧さんが横たわっていたからだ。棺桶の中に横たえさせているように見えて、僕はぞっとした。
「そんなはずはっ、お嬢様っ」
咄嗟にフランクさんが、端にある赤いスイッチを押して箱を開けようとした。
「あぁっ!」
バチっと電気がフランクさんの体を走ると、フランクさんの体に透明のリングのようなものが飛んできて体を拘束した。その勢いで状態を崩して、フランクさんが階段から転げ落ちていく。
「フランクさんっ」
駆け寄ろうとすると、夢碧さんの入った箱が滑るように奥に動き出した。
「夢碧さんっ」
「うう、くそっ」
「フランクさん大丈夫ですかっ」
呻くフランクさんに、僕は声を張り上げた。
「俺は平気だ。先に行っててくれ、坊主。直ぐに追いつくから」
 良かった。声は辛そうだけど、怪我はないみたいだ。
「わかりました」
 僕は、僕は白い地面をひたすらに走って、箱を追いかけていった。夢碧さんを載せたまま、箱は音も立てずに移動していく。いつの間にか、風景は白一色の景色に変わっていた。しばらく進むと、見たことも無いほど大きな白い木があった。樹齢何百、何千というくらい太くて、僕が何人も周りで手が繋げそうだ。けれど、表面はプラスチックのようにつるつるの白色で、まるで作り物に見える。夢碧さんを乗せた箱が木の前までやってくると、何の前触れもなく床に着地した。夢碧さんとの距離は三メートルくらいと言ったところか。怖いくらいに静かだった。嵐の前の静けさってやつだと僕は思った。
「そこにいるのは誰だっ、夢碧さんを返せ」
 と僕は叫んだ。この広大な空間に、自分しかいないとは、とてもじゃないけど思えなかったんだ。まるで誰かの前まで呼び寄せられたような、そんな予感。ただの勘だけど、木の裏側から誰かが見張ってるような気がした。
 
ブゥウウウウーーーーッ

 と、辺りに不気味な声が響いた気がして僕は身を固くした。
「だ、誰だ!」
 やっぱり声がするけど姿が見えない。
「言われた通りに来たぞ、出てこい!」
 いつくるか、いつくるかと僕は身構えた。
「はぁー、やっと見つけた。こんなところにいたのね、尾長さん」
 左肩を叩かれて振り返った。
「う、宇佐美先生?!」
なんでこんなところに先生が? でもこのよく磨かれた赤眼鏡、間違いなく宇佐美先生だ。木の後ろから誰も出てこないことを確認してほっとして息をつく。
「びっくりしたー。どうして先生がここに?」
と、僕は宇佐美先生に質問する。
「尾長君だめじゃない、心配をかけちゃ」
「へ?」
 何が?
「お母さんから学校に連絡があったわよ。尾長君が家から飛び出したきり戻ってこないって」
「ええっ、そんなに遅い時間なんですか?」
「もうとっくに帰る時間よ」
「ええっ、どうしよう」
 あの時行き先も言わずに飛び出して来たんだった。だって、まさかこんなことになるとは思わなかったんだもの。ワープの中だと、時間の感覚なんてわからないや。
「そういえば、先生はどうやってここまで来られたんですか?」
「あそこよ」
 そう言って、宇佐美先生は現れた方向を指さした。よく見ると、大人一人が通れそうなくらいの穴がワープに空いている。渦模様が見え隠れしているから、直ぐに森と繋がっているみたいではないことがわかった。よく耳を澄ませてみると、そこから唸るような音が聞こえた。さっき僕が声だと思ったのは、この隙間風だったんだ。
「閉じる前に、早くここから出ましょう」
「あ、でも」
「夢碧さんなら大丈夫、私がなんとかするから」
 
 ヒュンッ!
 
「わぁあああっ」
「坊主から離れるんだ」
 僕と先生の間を、黄色い光線が走った。光は僕たちを通過すると、白い木に当たって消滅した。
「フランクさんっ」
 フランクさんは、巻き付いていたリングを無事に取ったみたいだ。今まで一番真剣な表情をしながら、フランクさんは宇佐美先生にネルヴァルの時と同じ銃を向けている。
「フランクさん、この人は僕の先生ですよ?」
「チッ」
「宇佐美先生……?」
 先生は、僕が叱られたときなんかとは比べものにならないくらい、怖い顔をしていた。
「フランクさん、先生は僕を探しに来てくれたんです」
 階段をゆっくりと上ってくるフランクさんに向かって、僕は言った。
「なるほど、な。坊主、おかしいと思わないか?」
「えっ?」
「なぜ担任の先生がこんなところにいるんだ。いや、なぜ入ってこられたんだ?」
「それは……」
 フランクさんは、宇佐美先生から目を逸らさずに僕に言った。
「人間の彼女が、なぜここに来られる?」
 そうか。僕たちはポウ星人の体液を体中に塗っているから、ポウ星人の作ったワープの中に入る事が出来たんだ。もしポウ星人以外のものが入ろうとすれば、ワープから弾き飛ばされるはずだもの。それに、だ。先生はさっき確かに夢碧さんと言った。先生は、夢碧さんがここにいるなんて、知るはずもないのに。
「じゃあ先生は」
「フッフッフッ」
 宇佐美先生のつやつやした髪が途端に蛇に変わって、そのうちの一匹がフランクさんの腕に嚙みついた。
「うぅっ」
フランクさんが呻いて銃を離した。宇佐美先生の姿は、昔本で見たメドゥーサみたいだった。
「フランクさんっ」
「くそっ」
 フランクさんは噛まれた右腕を押さえつけた。幸い血は出てないみたいだ。宇佐美先生は不敵に笑った。
「別に毒なんてないから安心して」
「先生は、宇宙人だったんですか?」
「フフ、そうですよ尾長さん」
 僕はショックと怖さで、二、三歩後ずさりした。自分の担任の先生が宇宙人で、こんなにも簡単に相手を傷つけるようなことをする人なんて、思ってもみなかった。
「何を企んでいる貴様っ」
「そうカッカしないで護衛係さん。ねえ知ってた、尾長さん? 夢碧さんのこと」
「宇宙人だって、こと?」
「それもあるけど、彼女自身の事よ」
 どういうこと?
「夢碧さん、このままだと危ないのよ」
え、と僕は咄嗟にフランクさんを見た。フランクさんは俯いて何も言わない。
「ねえフランクさん教えてよっ、夢碧さんが危ないって何?」
「お嬢様の命が……」
 フランクは言葉に詰まった。
「なに? 夢碧さんの命ってどういうこと?」
「もう、お嬢様は地球にいられる限界を超えようとしているんだ」
「我々宇宙人は目的がないと長く地球に滞在できないの、尾長さん。正規の調査員以外はね。調査員の彼らが調べるのは、地球の情勢、食料や軍事力まで様々。時々期間を延ばすこともあるわ。そのために、一年に一度しかる場所に行って許可を貰いに行かなければならないの。地球でいう、パスポートの更新みたいなものよ」
「そんなっ。じゃあ夢碧さんは」
「そう、別に彼女は地球の調査団でもなんでもない。そして更新も済んでいない。そうでしょ?」
 フランクさんは、苦虫を嚙み潰したような顔で、「そうだ」と頷いた。
「お嬢様は、どういった方法を使ったのかはわからないが、どういうわけか二年分は更新できていたようなんだ。だが、流石に三年目はない。例え調査団だとしても、一度は必ず星に帰らなければならないんだ。しかし、お嬢様はそれを拒否した」
「拒否すると、どうなっちゃうの?」
「三年が近づくと、時々眠気に襲われるようになる」
 僕は、夢碧さんが時折眠そうにしてたのを思い出した。でもそれは、単純に夢碧さんが珍しく夜更かしをしたとか、そういう類のものだと思っていた。
「徐々にその感覚は短くなり、宇宙人は力を蓄えるために自然のあるところにいくんだ。我々チュン星の場合は、花から生命のエネルギーを分けてもらう。やがてそれさえもできなくなると、目を瞑ったまま冬眠状態のようになる。実質それは死んだことと同義だ。そのうち体が動かなくなれば、自然と体は消えていくのだから」
「そんなっ」
「残酷かもしれないが、これが事実だ。最後には自然に帰り、残った自分の体を養分に変えて自然に恩返しをするんだ。俺たちは、そういう生き方をしている。けど、お嬢様にはまだ早すぎる」
 そんなの当たり前に決まってる。夢碧さんは、少しも先がないようなそぶりを見せなかった。
「だからこんなことで失ってはならないと俺たちは、とにかく必死だった。しかし、もう起き上がれないほどタイムリミットが迫っているとは……」
 何にも僕は知らなかった。フランクさんたちの生き方も、フランクさんたち宇宙人のルールも。夢碧さんの現状でさえも。
「ねえ、どうやったら夢碧さんを助けられるの?」
「それは……」
「一体どうなってる?」
 フランクさんの言葉を遮ったのは、サドさんだった。
「お前っ、どうして持ち場を離れた」
「お前らがあまりにも遅かったからだろうがっ」
 負けじとサドさんも声を張る。
「お仲間さんかしら? ちょうどいいわ、交換条件をしましょう?」
「なんだと?」
「私なら、彼女を助けることができるわ」
「夢碧さんを助けられるの?」
 僕の問いに、宇佐美先生は頷いた。
「そんなこと信じられるかっ」
「あら、チュン星のあなた方が我々の力を疑うというの? 我々の星には軍事力はもちろん、技術力もあることもあなたたちは理解しているはず。大切なお嬢様が助かるのよ?」
 フランクさんたちは否定しない。宇佐美先生の星は、きっと凄い力を持っているんだろう。宇佐美先生の堂々とした声が響き渡る。
「長い間、ポウ星人とチュン星は敵対同士にあった。互いに傷つけあってきた。表面上の平和はまやかしに過ぎない。だが今、我々は歩み寄らなければならないのです。そのための条件よ」
「条件は、なんだ?」
「おいフランクッ」
「それは、このお嬢様がわが星に帰属すること」
「何っ」
「どういうこと?」
「簡単にいうと、お嬢様が向こうの星のもんに嫁ぐってことだ」
 なんで、どうして夢碧さんはこうも本人のいないところで話を勧められなきゃならないんだ。
「そんな条件をのむとでも、貴様は思っているのか。そうなれば、お嬢様は二度とチュン星の大地を踏めなくなるんだぞ」
「そうね。でもそうすれば彼女の命は助かり、脅威である我々も恐れる必要はなくなる。それってウィンウインじゃない?」
「もし、その条件を断ったら?」
「そうね……」
「うゎあああ、蛇だ」
 と呑気な声を上げて現れたタタンさんを、宇佐美先生は蛇で掴んだまま空に高く上げた。
「あーーーーっ」
「「王子っ」」
 と、フランクさんとサドさんが叫ぶものだから、僕はびっくりしてしまった。
「王子だって?!」
あ、あのタタンさんが?
「王子を離せっ」
「卑怯だぞポウ星人っ」
「卑怯? 私はただ返事を待っているの。時間がかかるのが嫌いだから、早く話を進めようとしているだけよ」
「仮にも王子だぞっ。これががどういうことかわかってるのか」
「そう、これがねぇ」
「すごい高いよぉおおおお」
タタンさんの声が、上空の遥か遠くから聞こえてくる。隣のフランクさんは、眉間を抑え込んだ。
「ねえ、タタンさんって王子様だったの?」
 と僕はぼんやりと上を見上げるサドさんに聞いた。
「あ、ああ。あれは、いやあの方はいつもああで、オレは王子っていうことをてっきり忘れちまうがな」
「はぁ」
 僕が二人に会ってから、一度だってタタンさんに対しての尊敬を欠片も感じなかったけど、怒られそうだから僕は黙っといた。でも、王子っぽくないっていうのは何か納得できるな。
「さっさと条件をのんでくれるかしら?」
「いやっ、それは無理だ。絶対にダメだ」
 フランクさんは胃を撫でながら、自分に言い聞かせるように言った。
「うん、どうしたってダメだ。俺たちには、王子を結婚させなければならないという義務がある」
「諦めれば?」
「そりゃっ、できることなら俺だってそうしたい。いっそのこと、地球に置いていって知らぬふりをしたい!」
 力強く言い放つフランクさんに、僕は王子様がなんだか気の毒になってきた。
「でも無理なんだ。チュン星の未来が、王子の結婚にかかってる。だからあのポンコツには、支えてくれるしっかりとした方がいなければならない。そう、そうだ! わかったか、お嬢様は返してもらわねばならないのだ、ハハハ」
 フランクさんは、正気を失ったように笑いだした。僕は、心の底からイライラしてきた。例えるならば、何も無いとこで転んだり、食べかけのアイスを落としたり、勘違いされて怒られたりして、誰にもそれが伝えられなくて、全て積もり積もって爆発しそうになってる状態さ。
「そう、そういうことならば。うっ」
 突然、宇佐美先生が立ち眩みをしたように体制を崩した。急にどうしたんだ? 先生は苦しそうに顔を覆って声を漏らした。途端に、蛇たち一匹一匹が大蛇のように大きくなって、一斉に色んな方向に暴れ出した。
「あ、あああああーーーーっ」
タタンさん、もとい王子が僕たちの前に落ちてきた。
「王子っ」
「お怪我はありませんか?」
「あれー、あんまりお気に召さなかったのかな?」
 本人は至ってケロッとして、一人の世界に入りながらあれこれ呟いている。
「蛇が完全にコントロールを失ってるぞ」
 サドさんが辺りを見回しながら言った。
「まずい、一匹来る!」
王子が手に持っているものを見て、僕ははっとした。
「王子、もしかしてチョコレートボンボンを蛇にあげたんですか?」
「うん? そうだよ。この美味しさを布教しなければならないと思ってね」
「まだ残ってたりしますか?」
「あるよ、ここに」
と言って、王子はウェストバッグを開けた。しめた、まだ沢山あるぞ。
「僕、多分蛇の弱点がわかりました」
「え、何て?」
「これ貰いますっ」
 今は説明してる時間はない。僕は、掴めるだけチョコレートを掴んだ。
「坊主っ、危ないぞ」
フランクさんの忠告を無視して、僕は蛇に向かって走っていき、思い切りチョコを投げつけた。蛇は、チェリーボンボンを物ともしないで丸呑みする。蛇は、チョコを食べると、そのまま大口を開けて向かってくる。僕の勘違いだったか。蛇の動きが、やけにゆっくり見えた。
「おい坊主っ」
蛇は、僕を飲み込もうとする直前でくねるように方向を変えると、パタンと倒れてそれきり動かなくなった。やっぱりだ! 僕の考えは間違ってなかった。
「蛇たちの弱点は、チョコに入ってるお酒です。王子のあげたチョコで酔ってるんですよ」
「そうか、それであんなに暴走してるのか」
 サドは納得したように頷いた。
「よし、俺たちは蛇退治。坊主は、今のうちにお嬢様を頼む」
「任せてください」
 僕は、蛇と戦うフランクさんたちから離れて、夢碧さんが入っている箱まで一直線に走った。途中何度も蛇が襲ってきて体を掠ったり、ある時は上から落ちてきたりしたけれど、僕は箱から一度だって目を離さなかった。
箱につく頃には、すっかり息が上がっていた。前にフランクさんがやったみたいに、スイッチを押す。一気に距離をとったものの、電流は走らなかった。蓋がスライドすると同時に、僕は夢碧さんを抱え起こした。体がとっても冷たい。冷蔵庫に入れられてるみたいだ。心配になって数秒固まったけど、スース―と胸が規則正しく上下しているのを見て少しほっとした。
「夢碧さんしっかり」
 聞こえているかはわからないけど、励ますように言った。夢碧さん、僕来たよ。君はもしかしたら助けてほしくはないかもしれないけど、やっぱりほっとけないんだ。背は僕と変わんないけど、可愛くてちょっとお茶目な女の子。君は宇宙人かもしれないけど、僕にとってはみんなの憧れで、大好きな女の子なんだ。
「今出してあげるからね」
僕は、夢碧さんを抱き上げようとした。ちょっとだけよろけてしまって、しゃがんだまま夢碧さんを抱きしめ直す。少しでも僕の熱で温かくなってくれるように。夢碧さんは、今までどんな思いで過ごしていたんだろう。たった一人で、こんな世界と戦っていたんだろうか。こんなに顔色が悪くなるまで、ずっと。どんな思いだったか予想する事しかできないけど、きっと夢碧さんは今も戦い続けているんだ。だから、僕は思った。僕も一緒に戦うんだって。そして僕が、君を守るよ。
「よし上出来だ坊主。お嬢様を抱いて、そのままこっちに来い」
 フランクさんが、蛇を倒しながら僕に言った。
「その前に一つ約束してほしいことがありますっ」
 僕は渾身の力を込めて叫んだ。
「こんなときに何だっ」
「夢碧さんを結婚させないでください」
「はい? あのな坊主、何度も言ってるがお嬢様は王子と結婚させると決まっているんだ」
「なら、フランクさんのところには連れていきませんっ」
「何言ってんだお前、今はわがまま言ってる場合じゃないんだぞ!」
と、サドさんが言う。
「わかってます、だからこそです」
 緊迫した状況っていうことは、当然理解しているよ。それでも僕は、フランクさんにも、サドさんの怒号にも負けるわけにはいけなかった。
「夢碧さんは、嫌がってました」
「嫌でも嫌でなくとも関係ない。これは決定事項なんだ、坊主。お嬢様は王子と結婚する。これが全てだ」
 「あー袋ごとこの子食べちゃってるよ」という王子の声をかき消すように、フランクさんは言う。
「確かにうちの王子はポンコツかもしれんが、決して悪い部分しかないわけじゃない。お嬢様は頭がいい。言い聞かせればわかってくれると信じている。なに、時間はたっぷりある。そのうち愛することもできるさ」
 違う、全然そういうことじゃない。
「王子は金もあるし、一星を従えれば民にも尊敬されるようになる。夢碧さんは王子を支え、民に感謝され、結果として宇宙をも救ってくれる存在になるんだ」
「なんでっ、なんで夢碧さん自身のことを考えてくれないんですか?」
「だから考えてるじゃないか。俺たちはお嬢様の幸せを願ってるからこそ、言ってるんだ」
「嘘だっ、夢碧さんのためなんかじゃない、フランクさんたちの幸せじゃないかっ。フランクさんは、フランクさんたちはっ、自分の立場を失うのが怖くてっ、それを守ろうとしてるだけだっ」
「なんだと貴様っ」
「だってそうじゃん。彼女は幸せじゃないと思っているから、こんなにも拒否してるんじゃないかっ」
 チリチリと痛いくらいに空気が震える。空間が熱湯のように熱くなったのを肌で感じた。
「いづれにしても、お嬢様はもう地球にいることは許されない。それが我々のルールだっ」
「ルールだ規則だってさ、夢碧さんのことをまるで考えてないよっ。決まりがあったら守らなければいけないかもしれないと僕も思うさ。けどさ、もっと夢碧さん意思を尊重してあげてよ」
夢碧さんは、最初は僕と一緒にいたいって言ってくれたんだ。それが嘘だったなら、本当の目的が何なのかに耳を傾けて欲しいんだ。僕は言葉を続けた。
「自分の命を懸けるくらいだよ? よっぽどの理由がなきゃこんなことできないよ。夢碧さんに、本当にここにいたい理由、ちゃんと聞いてあげてよ」
 僕は怒りで感情がぐちゃぐちゃになって、とにかくぶつけることしかできなかった。最後の方は、もうわけがわからなくて、思いついたままのやけくそだった。
「お前の言いたいことはわかったから」
「イヤだ。フランクさんたちが頷いてくれるまで夢碧さんは渡さないよ」
「坊主……」
 話にならないと言うように、フランクさんがため息をついた。
「それなら、私たちの星に渡してくれない?」
「宇佐美、先生」
「な、お前っ」
 宇佐美先生はふらりとしながら、こちらに歩いてくる。
「イヤです」 
「どうして? 私たちの星に来るなら、彼女の好きな子を選ばせてあげるわ」
 微かに微笑している宇佐美先生が、憎らしかった。本当に何もわからないの?
「僕は、夢碧さんを、彼女を巻き込まないでって言ってるんです。僕、大人の事情なんて知ったこっちゃありませんっ。夢碧さんは普通の子なんです。そりゃ宇宙人だったり、他の女の子より別格にかわいかったりさ、違うところはあるけどもだよ。夢碧さんは感情を持った一人の女の子なんだっ。彼女は自由なんですっ。どんなことだってできる、これから何をするか、どう生きるのか、決めるのは、全部が全部彼女に権利があるはずですっ」
 涙がぼろぼろと零れてきたけど、気になんてしなかった。
「ほんとのこと言えば僕だって、夢碧さんに地球にいて欲しいよ。でも死んじゃうんでしょ? だから宇宙に帰ってもらうんだ。僕は彼女が、夢碧さんのことが大好きだから」
僕は泣きじゃくった。こんなに泣いたのは、いつぶりかわからない。ごしごし目を擦ってしまったから、きっと真っ赤になってるに違いないんだ。
「僕、ほんとは夢碧さんとまだ一緒にいたいよ。結婚なんてどうでもいうんだよ。先ずは夢碧さんの命をみんなでなんとかしてよ、僕より、長く生きてるんだからさっ……」
 声も震えまくってて、きちんと僕の言ってることが伝わっているのさえ怪しかったけど、もうどうでも良くなっていた。何にも伝わりっこないんだ、大人になんて。だから、これは自分だけの感情を整理する作業。でも、必死に訴えてるのに何にも届かなくて、悔しくて、悲しくて、ムカついて、余計にごちゃごちゃしただけだった。
「尾長君、ありがとう」
 僕は一瞬幻聴かと思った。思わず手を緩めると、夢碧さんが僕の首元に埋めていた頭を動かして、目を合わせてもう一度同じ言葉を繰り返した。
 夢碧さんが、生きている。笑ってる。自然と新しい涙が出た。
「そろそろかしらね」
 宇佐美先生が夢碧さんに言う。
「はい。ありがとうございました、先生」
 夢碧さんは、宇佐美先生にはっきりとそう言った。
「え?」
 ありがとうございましたってどういうこと?
「ごめんね尾長君、これまでのこと先生にも協力してもらってたの」
「ま、そういうことね」
「「「「えぇえええええっ」」」」
 僕たちの大絶叫が重なった。夢碧さんがひょっこりと僕の腕から立ち上がって、僕に手を差し伸べた。僕は、反射的に手を掴んで立ち上がった。夢碧さんの手はもうすっかり温かい。
「え、あの体は大丈夫なの?」
「眠いけど、別にまだ大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
 夢碧さんは目じりを下げた。夢碧さんが話してる、それだけで、僕の泥沼のような心が、スッと凪いだように静かになっていった。
「お嬢様、これは一体っ」
「フランク、すっかり私の作戦に引っかかってくれちゃって。ねー、先生」
「ねー」
 あんなに怖かった先生が、ころっと優しくなっている。
「ねえ、尾長君。私、地球にいてもいい宇宙人かな?」
 夢碧さんは、少し不安そうにの僕に問いかけた。
「そ、そんなの当たり前じゃないかっ。ずっといてほしいよ」
 僕は必死で言った。夢碧さんは、安心したように微笑んだ。
「良かった……」
「夢碧さん、良かったわね」
「はい」
 そう言って、夢碧さんは僕から離れて、こっちを向いて倒れていた蛇のところに歩いていった。蛇の前にしゃがみ込むと、夢碧さんは蛇の左の目を取った。
「それとって大丈夫なものなの?」
 あまりにも普通に撮ったものだから、僕は心配になって宇佐美先生の方を窺い見た。
「心配しなくて大丈夫よ尾長さん、それカメラだから」
「カメラ?」
「尾長君、先生がメドゥーサとでも思ってた?」
「え、まあ。違うんですか?」
 宇佐美先生はおかしそうに笑った。
「やーね。これは最近ポウ星で開発された、子供用玩具なのよ。まあ、色々あってお流れになっちゃったけど」
 これは、頭に装着して遊ぶものなのよ、と言って宇佐美先生は頭に手をかけた。パカッと輪っかを外すと、すっかりいつもの宇佐美先生になった。
「使ってみる?」
 宇佐美先生に差し出されたが、反射的に首を振った。
「いえ、いいです」
「そう?」
輪の周りに付いていた蛇は、すっかり縮んで小さくなってしまったけれど、目を覚まして噛みついてくるかもしれないもの。
「でも、そのおもちゃのカメラが何の役に立つの?」
 と僕が聞くと、したり顔で夢碧さんが言う。
「これでね、私の地球滞在の延長を申請するの」
「このカメラで?!」
「そう。信頼できる地球人が、パスの切れる宇宙人の滞在を心から認めてくれた証言を得ることができれば、パスが延長できるの。そのためには、一度宇宙センターまで申請に行かなければならないけどね」
 夢碧さんは、きちんと撮れているのを確認しているのか、片目を瞑って蛇の目のカメラを覗き込んだ。
「フランクは私を回収する事で頭がいっぱいで、そんな方法は頭から抜け落ちちゃってたみたいだけど」
「そう、だったんだ」
 じゃあ、僕は夢碧さんを助けることはできたのかな。夢碧さんは、カメラを確認しながら言った。
「うん、ちゃんと残ってる。もう大丈夫だよ」
 ああ良かった。夢碧さんは僕に向き合った。
「尾長君、酷く傷つけちゃって本当にごめんなさい」
夢碧さんは、僕に深く頭を下げた。
「あのときね、私ネルヴァルに声が出ないように尾で刺されてしまったの。だから一時的に声が出なくて、何とか声を出したかったんだけどできなかった。だから俯くしかできなかったんだ。私、尾長君と一緒にいたいの。今頃言い訳しても、許されないことだけど……。尾長君、怒ってるよね?」
「確かにさ、好きって言い合った後だったから、傷ついたし酷いなとも思ったよ」
夢碧さんは、唇をぎゅっとさせる。僕はもうそんな顔はして欲しくなかった。
「でもね、あんまり感情が上手くできなくて、怒ってるっていうよりも、好きだった子に否定されてとにかく悲しかったんだ。でもそれももういいんだ。夢碧さんは、他の誰でもじゃなくて、僕といたいから地球に残りたいって思ってくれてるんだよね?」
「そうだよ。私は尾長君が好きだから」
真実がわかって、僕はひどく安心して、肩の力が抜けていくのがわかった。
「僕嬉しいよ、やっと夢碧さんから本当のことが聞けて。だからもう、怒ってない」
「尾長君」
僕は両足を揃えてから、かかとをちょっと浮かせてまた地面につけた。
「僕、夢碧さんが好きだよ」
 僕は、心から夢碧さんに笑いかけた。僕は、夢碧さんの本気をフランクさんたちに伝える計画のためだったなら、このくらいなんてこと無かったと思えた。
夢碧さんはフランクさんたちの方に向いた。僕も一緒にその方向に体を向ける。
「フランク、私は星には帰らない。なんて言われようと、私はやっぱり尾長君が好きなの。私、尾長君たちとここで生活したい。だからこのまま地球にいさせてください、よろしくお願いしますっ」
 夢碧さんに倣って、僕も一緒に頭を下げた。
「お嬢様、私はお嬢様が幸せになるようにと……」
 フランクさんが呟くように言った声で、僕たちは再び頭を上げた。
「うん、わかってるよ。フランクが私を大事に想ってくれてるってこと。でも、今の私の幸せは、地球で尾長くんと一緒にいることなの。フランクが不安に思う気持ちもわかる。わがままだって思うけど、でもっ、私は自分の力で幸せを手にしたいの。ね、フランク」
 縋るような目で、僕たちはフランクさんを見つめた。そうしてしばらく見つめ合った後、絞り出すようにフランクさんは言ってくれた。
「わかり、ました」
「「やったーーーーっ」」
 僕たちは、嬉しくて抱き付き合ってジャンプした。フランクさんはそう言ったきり、思考を失ったように動かなくなってしまったけど。ショックだったと思うけれど、仕方ない。夢碧さんの作戦が、実を結んだ瞬間だ
「良かったわね、二人とも」
 微笑む先生に、僕たちはお礼を言った。
「さ、そろそろ種明かしをしてもいいんじゃないかしら?」
「あっ、そうですよね」
 まだ頭がスピードに追い付ききれない中、夢碧さんは計画のネタバラシを始めた。
「私は、フランクがなんと言っても結婚したく無かった。何より地球に行きたかったの、だからまず……」
「あたしが地球に派遣されたってわけ」
白い木の裏から声が聞こえた。そちらに目を向けると、
「ええ美沙っ?!」
 どういうこっちゃ? なんで美沙が出てきたんだ。
「お嬢様が地球に行きたいっていうから、あたしはまずお嬢様がいつでも来られるように、地球に乗り込んできたわけよ。それが三年生のときね」
まじか。それで美沙が小学校に転校してきたわけか。ん、ちょっと待った。
「美沙も宇宙人なの?」
「そうだけど何?」
「えぇええええっ」
「何? あたしが宇宙人だとなんか問題でもあるわけ」
「いいえ、ございません」
 逆に腑に落ちたよ、とは怖くて言わなかった。あの馬鹿力、絶対におかしいって思ったものね。美沙はキッと僕を睨みつけてから、話を再開した。
「で、ある程度状況を整えてからお嬢様を地球に呼んだの」
「そうそう。それからは尾長君が知っての通りだけど、私は地球で学校生活を送っていたんだ。だけど、フランクたちがしつこくてねぇ」
「ほんと、誤魔化すのが大変だったんですからね」
「へへ、ごめんごめん」
「まあいいんですけど」
 大の男三人は、気まずそうに縮こまっている。
「で、どう切り抜けようかと困ってたときに現れたのが」
 夢碧さんが、宇佐美先生に視線を合わせる。
「私だったってわけね。あのときはびっくりしたわ、いきなり『先生、ポウ星人ですか? 私も宇宙人なんです』なんて言うんだもの」
「まあある意味賭けだったんですけどね。乗ってくれて良かったです」
「そりゃ面白そうじゃない。一星のお嬢様の訳あり逃亡劇、もうワクワクしちゃうっ」
 以外と宇佐美先生も茶目っ気のある人なんだな。ちょっとイメージ変わったかも。
「だけど、夢碧さんの星と先生の星って仲が悪いんじゃなかったの?」
 僕の問いに、ぶんぶんとフランクさんが頷いた。
「ああそれね。夢碧さんたちにもお話ししたけど、近々同盟が結ばれるはずよ」
「え、そうなの?」
「ええ、先生はポウ星の外交担当なのよ?」
 宇佐美先生は、得意げにウィンクした。
「夢碧さんが力を貸してくれたお陰もあってね、何度も私が同盟をかけあったら、上も理解を示してくださったわ。夢碧さん、今度約束したお店行きましょうね」
「もちろんです、打ち上げにピッタリのお店がありますから」
「楽しみにしてるわね」
「長年の外交問題が解決、だと」
フランクさんは、まだ混乱しているようだった。
「それでね、宇佐美先生が協力してくれることになって少ししてから、美沙からフランクたちが地球に来た情報を得たの。そこからは大忙し。『ドドン・フー』の皆さんに妨害役を頼んだり、寝る間も惜しんだんだから」
 「まさかあそこで派遣費を請求されるとは思わなかったけど」と、夢碧さんは笑った。あの後、僕たちを追いかけてきたサドさんたちの、足止め役をしてくれてたみたい。
「一つ問題があったのは、『とどのつまり』。マスターがチュン星人だから、フランクが入り浸ってるって言うのはわかってたんだけど、まさかあそこにネルヴァルがいたのは誤算だった。マスターも演出だと思ってたみたい。完全に私の伝達ミスだった」
「美沙、一生の不覚です」
 美沙が項垂れる。こんなに弱弱しい美沙は初めて見た。
「そんなに落ち込まないで美沙。私は大丈夫だったんだから。えっとそれでね、本当はここで宇佐美先生が私を連れ去る予定だったの」
「そ、到着したらびっくり仰天ってね」
「もしかしたらね、尾長君はあんなことになって助けに来てくれないんじゃないかって私思ってた。でも、ちゃんと尾長君は来てくれたね」
 僕はどうしようかと思ったけど、本当のことを伝えることにした。
「実際のとこはさ、迷ったりしたんだ。かっこ悪いけど」
そんなことないよと言ってくれるように、夢碧さんは首を横に振った。
「フランクさんが凄く必死だったんだよ。夢碧さんを助けてって。だけど、そこから逃げたりしてさ。でもね、最後は自分で気づいたんだ。やっぱり夢碧さんが好きだって。夢碧さんが望んでなくても、助けたいと思ったんだ」
「尾長君、本当にありがとう」
「僕だってありがとうだよ」
「僕、決めました」
と、それまで口を挟んでこなかった王子が急に言葉を発した。僕はこの期に及んで夢碧さんを取るつもりか、絶対に渡さんぞと体に力を入れた。
「ぼくと結婚を前提にお付き合いしてください」
「王子ぃいいいっ」
 フランクさんが叫んだ隣で、耐え切れずにサドさんが気絶した。王子がそう言って手を差し伸べたのは、宇佐美先生だったのだ。
「あら、かわいいじゃない♡」
そこからはあっという間だった。
「よろしくね、王子さん」
宇佐美先生は、王子の腕を取った。
「はい」
王子は、宇佐美先生の手の甲にキスをした
「いやしかし王子、彼女はポウ星人ですよ」
フランクさんが、声を震わせる。
「それがどうかしたの?」
 意識が戻ったサドさんが、掠れた声で言う。
「我々の星では、同じ星同士のものが結婚することが通例になっているんですよ」
「僕がその初めての例になればいい」
 自信に満ち溢れた声だった。
「ほらいくよサド」
まだ状況が飲み込めずに倒れ込んでいるサドさんを、王子は立たせようとした。
「あぁ……」
王子の変貌ぶりに精神が追いつかなかったサドは、声にならない声を出して、また意識を失ってしまった。わからんでもないな。確かに今の王子は、今までとは別人のようだ。だけど、僕は王子のことが好きになった。彼の言動、行動の全部がキラキラしていたんだ。
王子は、フランクさんと美沙には再び彼女を見守るように指示をした。
「じゃあ、幸せになるんだよ」
 と、王子が夢碧さんに優しく言った。
「あの、すいません。私……」
「ああ気にしないで。ぼくは、彼女みたいな人がタイプなんだ」
 王子は、宇佐美先生を見て微笑んだ。二人は既に立派なカップルだ。王子は、自分の意思でぴったりの人を見つけたんだ。
「ただ一つ、きちんと一度星に帰って申請を済ませること。わかったね?」
「はい、王子」
安堵したように、夢碧さんは言った。
「あ、そうだ」
 と、王子は気絶したサドさんをおぶりながら言った。
「それと、今度大人に伝えたいことがあったら、作戦のスケールは、もう少し小さめで頼むよ」
 王子はユーモアたっぷりに、僕たちに告げた。
最後に、王子は僕を見た。
「君、尾長君と言ったよね」
「あっ、はい」
「彼女のこと、よろしく頼むね」
「はい!」
 そして最後に振り向きざま、こう言ってくれたんだ。
「もう少し落ち着いたら、彼女と一緒にチュン星に遊びにおいでよ。僕がそのとき案内するからさ」
 もうそこに、メソメソしていたタタンさんはいなかった。誰もが認める立派な王子様だ。堂々たる佇まいで、きっとチュン星をいい方向に導いていけるに違いない。とってもかっこいいなって、僕は思った。
「じゃあまた会おうね」
 またがある。それだけで僕は十分に嬉しかったけど、夢碧さんの生まれた星に行けるだなんて、さらに最高だと思った。しかも王子自ら誘ってもらえるなんて、とっても光栄なことだ。
宇佐美先生には、また週明けから学校に来るように言われた。僕たちは揃って元気に返事をした。タタン王子と宇佐美先生は、寄り添ってワープから出ていった。学校に行ったら、先生に王子とのことをぜひ聞きたないなと思っている。
「尾長ぁ、じゃああたしら先行くから」
 そう言って、美沙は放心状態のフランクさんの肩を叩いた。フランクさんは、この状況を把握するなり、「胃が……胃が痛い」と呟いた。
 美沙からの、「お嬢様に何かあったらあたしがお前を殺る」という確固たる視線を一瞬感じたけど、僕はもう怖かなかったね。いや、やっぱ慣れないや。震えながらも、その場に立っていられるくらいにはなったと思う、多分。
二人を見送りながら、僕は周りの景色が変わったような気がした。どうやらさ、背が伸びたみたいなんだ。こんな短時間でって言うかもしれないけどさ、マジなんだよ。今身長を測ったらさ、この前の身長測定のときより少なくとも数ミリは伸びてんね。間違いないよ。それにさ、もし背筋きれいコンテストってのがあったら、僕優勝できる気がする。
 ワープには、僕と夢碧さん以外誰もいなくなった。
「何だか、嵐みたいだったね」
「うん」
 こうしてまた夢碧さんと一緒にいられるのが、夢みたいだ。
「夢碧さん」
「なーに?」
「聞きたいんだけどさ、夢碧さんは僕……あ、いや俺のことなんで好きになってくれたのかなーって」
 しまったよ。あんなにひた隠しにしてきたのに、すっかり忘れて一人称をずっと「僕」で話してしまってたんだ。
「フフフ、もういいんだよ? 無理に変えようとしなくても。私、尾長君のそのままの口調が好きだよ。頑張って変えてたの、私知ってるんだからね」
「え、俺は。ええっ?」
 ば、ばれてたの。 だとしたら、今までの僕の努力はさぞ滑稽だったんだろう。
「ま、そうやって強がってるとこもかわいいけどね」
「なっ」
僕は恥ずかしくなって口を閉じた。可愛いだなんて、複雑だけど、夢碧さんに言われるなら悪くないかもしれない、なんてね。
今まで、ずっと疑問だった。特別夢碧さんが転校してきたから接点という接点もなくて、みんなが羨むようなとこも正直ない。それなのに、どうして夢碧さんは僕のことを見ててくれるのか。高嶺の花の夢碧さんが自分を好きなってくれたなんて、未だ世界の七不思議なのだ。
「ねぇ尾長くん、私の本当の姿を見てくれない?」
「えっ?」
「尾長君に、知っていて欲しいの。ダメ、かな? やっぱり怖い、よね?」
 僕は、少しの間黙ってから、一つ一つの言葉をゆっくりと話した。今度こそ、夢碧さんにしっかり伝えられるように。
「正直なことを言うとね、ちょっと、いやかなり怖いんだ。その、言いにくいけどネルヴァルとか見ちゃってるからさ」
「うん」
 夢碧さんが真剣に僕の目を見つめた。夢碧さんが、僕の話をちゃんと聞こうとしてくれているのが伝わってきた。夢碧さんだって、本当は僕より以上に怖いかもしれない。だから、ちゃんと向き合わなきゃ。
「宇宙人とかはよくわからないけど、僕は宇宙人とか人間とかそういうんじゃなくて、僕は夢碧さんが好きなんだと思う。ボツボツの鱗付きでもどんな姿でも僕は夢碧さんが好きだよ」
夢碧さんは安心したように微笑んでくれた。
「でもびっくりしちゃうかもしれない」
 と、僕は付け足す。
「それは仕方ないもん」
 夢碧さんは話を続ける。
「私ね、初めて地球に来た時に、言いつけを破って遠くまで行っちゃったことがあったの」
「うん」
お転婆の夢碧さんらしいかも、と僕は思った。フランクさんの焦りようが目に浮かぶ。
「そのときにね、助けてくれた人がいたね」
「助けてくれた、人?」
一体誰が?
「そう、それが尾長くん。あなただったの」
「え、僕?」
「あのとき、助けてくれたよね」
「人違いじゃないの?」
「ううん、尾長君だよ」
 全く覚えがないのに、夢碧さんは確固たる自信で言い切るんだ。すると、夢碧さんの体が光り出した。みるみるうちに、夢碧さんが手のひらで包めるくらいの光の玉になった。僕の頭より上の高さで、太陽のように光り輝いている。太陽だったら直接見てらんないけど、これは似て非なるものだよ。物凄く明るいはずなのに、眩しくない暖かい光なんだ。
「あ……っ」
 僕は、思わず声を出した。光が収まって現れたのは、なんと蝶だったのだ。それは、僕が生まれて初めて見て、そして二度と出会うことが無かった蝶。
僕が筑波山に登った時に蜘蛛に捕まっていたペパーミント色の蝶だ。間違いない。
「あの蝶は、夢碧さんだったの?」
 呟くように僕は言った。
「そう、あれが私」
 優しい声が空気に流れて鼓膜を揺らす。夢碧さんは、ネルヴァルみたいにボコボコでも、変な尻尾も無かった。
「綺麗、とっても綺麗だよ、夢碧さん」
そうか、僕たちのはじまりは、蝶だったんだ。
「僕たち、あの時からずっと繋がってたんだね」
僕は、人の姿に戻った夢碧さんと抱き合っていた。体から熱が伝わってきて、僕たちは生きてる喜びが体中を駆け巡ったた。
「助けてくれた男の子が、私はずっと忘れられなかった。最初は、ずっと命の恩人ってだけだったの。それがね、時が経つにつれて憧れから好きに変わっていった。知ってた? 転校する前から美沙は尾長君を見に行ってたんだよ」
「美沙が?!」
「うん。美沙はね、ああ見えて実は尾長君のこと信頼してるんだよ」
美沙、いつも僕に攻撃的だけどなあ。相当不安げな顔をしていたのか、夢碧さんは安心させるように言った。
「大丈夫、本当だって。美沙はちょっと照れ屋さんで、素直になれないだけなのよ」
 美沙が、あの美沙がちょっと照れ屋だって。ちっともイメージできないや。
「美沙が教えてくれた尾長君の話を聞いて、私はどんどん尾長君が好きになってたんだよ? それに、会ってみてそれが本当だってわかった」
「僕、褒め殺しで溶けちゃいそうなんだけど?」
 体と頭がぽーっとなって、魔法にかけられてるみたいだ。
「いいじゃん、溶けちゃっても」
「え、嫌だよ」
 だって、そしたら夢碧さんが見られなくなっちゃうもの。
「私が治してあげるよ?」
 優しい言葉を返してくれる夢碧さんが、すぐ隣にいる。なんて幸せなことなんだろう。
「それなら、いいかもね」
 照れてしまって、ポリポリと僕は頭を掻いた。
「ほんとに素直なんだから、尾長君は」
「そこが僕の長所さ」
 ふふっと僕たちは、笑い合って、宇佐美先生たちが通ったワープの穴に歩き出した。穴の目の前に来ると、僕は歩みを止めた。
「夢碧さん、一つ約束して?」
「どんなこと?」
「もうさ、命かけるのはやめてね。僕、本当に夢碧さんが死んじゃうのかと思って、めちゃくちゃ怖かったんだからね」
「それは、ごめんなさい。でも、それだけ重要なことだったんだもん」
「わかってるよ。けど、僕は自分で自分がわかんなくなって、砕け切っちゃうと思ったんだ。あんなこと、もう心臓が何個あってもありないからね?」
 暗い顔をして欲しくなくて、ちょっと冗談めいた口調で言った。
「これからは僕がいるんだからさ、ちゃんと相談してよね」
「うんそうだよね、約束する」
 ちょっとかっこをつけすぎた気がして、気恥ずかしくなって顔を逸らせた。
「それから、直ぐにパスを申請してね。今度あんなことになったら、僕本当にバラバラになっちゃうや」
「うん、尾長君がバラバラにならないようにちゃんとしなくちゃね」
僕たちは、同時に噴き出した。僕たちは、これからどんなこともできる。未来はこれからなんだ。手を繋いで、一緒にワープをくぐった。帰り道は、空間がぐにゃつくこともなかった。
 
 
外は、日が傾いてきていて、日暮の鳴き声が森中に響き渡っていた。僕は日暮の鳴き声を聞いてると、自然と体が涼しくなるような気がするんだ。でも、僕の心あったかいままだったた。僕たちは、手を繋いだままブラブラさせて、ワープ探しをした森の中を歩いた。
「尾長君、延長申請が終わって地球に戻ってきたら、夏休み一緒にどっか出掛けない?」
「うん、もちろんだよ」
 好きな子から言ってもらえるなんて、願ってもみないことだ。
「やった! 楽しみだなぁ」
 夢碧さんの笑顔を見て、僕も嬉しくなって言った。
「一回と言わずに、何回も行こうよ」
「うん、そうだね。まずは海とかどう?」
「いいね!」
 夢碧さんが望んでたことを、僕が沢山叶えてあげられるんだ。絶対に素晴らしい日にしようと僕は誓った。
 僕たちは、夏休みにどんなことをしたいか、アイデアを出し合った。
「海でどんなことしたい?」
「うーん、貝殻拾いとかどうかな?」
 と、夢碧さん。
「いいね。僕、貝が落ちてるとこ沢山知ってんだ」
「ええすごいっ」
 こればっかしは、自慢なのさ。あの大人びた男の子を、僕は急に思い出した。
「あ、そういえばさ、もしかして砂浜の男の子も宇宙人?」
「ううん、あの子はちゃんと人間だよ」
「そうだったんだ」
 良かった。もし宇宙人だったら、僕はこれから会う人全員が宇宙人だと思ってしまうところだった。
「あの子はいつもね、同じ場所で砂遊びしてるから声掛けやすかったの」
 今度いたら、また声を掛けて見ようと思った。
「なーるほど。ここに来る前にね、その男の子とフランクさんとで砂のお城を作ったんだ」
 三人で協力して作った砂の城は、世界のどんな立派なお城よりも大好きな城だ。
「え、フランクが砂遊び?」
 クスクスと二人で笑う。
「そうそう、でも楽しかったよ。三人で作った、オリジナルのお城なんだ。フランクさんね、大活躍だったんだよ。夢碧さんにも見て欲しいな。そうだ、今からちょっと寄ってって見に行こうよ、きっとまだ残ってるんじゃないかな」
「うん、見たい!」
 僕たちは早く砂浜に行きたくて、自然と走り出した。夢碧さんはいたずらっ子のように笑みを浮かべる。
「ねぇ、尾長君。夏休みに海行くときはさ、二人きり、だよね?」
「ええっ?」
 僕はあっけに取られた後、夢碧さんとおんなじ表情をして言った。
「もちろんさ!」
 ああ、もうすぐ楽しみな夏休みがやってくる。(了)

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