「BOY・MEETS・PEOPLE」2話

 下見は、時々誰かから話しかけられた気がしたり、幻聴らしきものが聞こえるようになる。

 ある日、学校の中で下見に突然黒い影が襲い掛かり、下見の首を絞めつける。
 意識を失いそうな下見を助けたのは、椿だった。
 久々に言葉を交わし、やはり彼女が伝説の椿姫だと知った下見。
 椿姫は、下見が異形のものが見える能力が目覚めるようになったのだと告げる。

「こんな力なんていらない……っ」と嘆く下見に、「でもその力無しに私と出会うことはなかった」と言われ複雑な思いを抱える下見。

 椿がかつて愛した男を探すということ、一緒に悪い妖を祓うことを条件に、最終的の下見の力を消滅させる方法を見つけるべく、椿と下見は協力しあっていく。

「55歳の男性が、山で行方不明になりました——」
テレビで流れるのは、近くの山で遭難した人のニュース。

「下見も気を付けろよぉ~、って痛って!」と北里。

「なに馬鹿なこと言ってんのよ」と三森が北里に食らわせた拳骨に苦笑いする。

 下見のクラスでも、山の遭難者の話題でいっぱいだった。
 まして下見の家の近くに噂の山があれば、余計に盛り上がる。

 放課後、下見は今ピンチに立たされていた。

ピトッ

 恐らくは妖怪の類なのだが、ピンク色をした一つ目玉のモフモフした球体が、下見のズボンに引っ付き虫のようについて離れない。

「なんだお前っ、ついてくるな、このやろっ」

 蹴り上げた瞬間、ピトッと野郎はトランポリンのように跳ねながら、森の方向に転がり込んでいって見えなくなった。

 下見は、吹っ飛ばした後に色々考えてしまった。暗闇の中、一人きりになるあいつ。仲間が見つからず、いつまでもその場にいるあいつ。

「んぁあああっ、もうっ!」

 森の中に駆け出した先にいたのは、登山バックを背負った男性だった。
こんにちは、と朗らかに下見に話しかけてくる。

「あなたは、もしかして遭難中の?!」
「え、僕遭難してるの?!」
「あ、はい。今朝ニュースでやってて」
「マジでか」
「あっ」

 下見の手から、一つ目のモフモフがスルッと抜け出すとポンポンと跳ねていく。
 茂みに落ちたので、慌てて追いかけると中から大小様々なおんなじ生き物がこちらを見つめてきた。

「なんだ、お前の家族がいたんだな」
「君、なにと話してるんだい?」
しまった。

ピトッ?

 音を出して、俺が手を話すと肩に乗ってくる。
 おかしいやつだと、思われただろうな。

「ああ、もはや驚かないよ」
「はい?」

 失礼ながら変な返し方をして、ぽかんと下見は口を開けた。

 男性は、柔らかい表情で下見を見つめた。

「この森で、不思議な出来事に沢山遭遇してね。君みたいな子がいてもおかしくないよ。でも、人間じゃないのは怖いから勘弁して欲しいな」

 その後、男性と交番に行ったら警察にとても驚かれた。

「下見すげぇな、お前遭難者見つけたんだろ?」
「え、まあ…たまたま」
「すげえ! ほんとすげ〜」
「馬鹿丸出しのリアクションね」
「なんだと三森てめえ」
「キャー」

 下見は、通学カバンから出てきた一つ目玉を慌てて押し込めた。

一つ目玉が、どうやら下見を気に入ったらしく家にまで入り浸るようになった。

「おかえり」

 珍しく夕食時に父親が帰宅してきた。
 一緒に食事をするも、一つ目玉のせいでなかなか落ち着かない下見。

「どうした、悠」
「い、いやっ。何でもないけど」

 ポツポツと会話をしていると、突然一つ目が箪笥に飛び上がる。

(あぁああっ!)

心の中で声を上げた下見。

ガタンッ

 倒されたのは写真立て。
 クワガタを自慢げに持つ下見を、母親が後ろから両肩に手を置いて微笑んでいる。

 写真立てを立てながら、父親が呟く。

「母さんが、お前とばかり仲良くしてヤキモチ妬いてるのかもな」

 まさか父さんが、死んだ母さんの話をするなんて。下見は父親を見つめる。

「お前は色々大変だったな。学校も沢山変わったし、父さんは母さんみたいに口も上手くないから」
「……別に、そんなことない」
「そうか」

 それから父親は多くは語らなかった。
 夕飯後に自分の部屋から出ると、母さんの仏壇の前で肩を小刻みに揺らす父親の背をみつけた。
 下見は静かに部屋のドアを閉めた。
 今頃何が大変だったな、だ。本当はキレ散らかしてやりたかった。コロコロ学校が変わるから、ろくに仲の良い友達が出来なかった。母さんが大変な時も、ちっとも家に帰って来てくれなかった。許せない。腹が立つ。

──けど、優しい父さんが好きだった

 自分の矛盾した感情に訳がわからなくなる。

 布団の中で、小さく丸くなる下見。
 すり寄って来た一つ目を抱きしめ、下見は眠りについた。


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