ティールームバトル利休 第一碗

※短編アニメーション用の企画の没となったプロトタイプ脚本です。無断で使用することを一応禁じます。

 1 “時は桃山”

 2 大坂の橋
  立札に群がっている町人たち。
ぼん「(跳ね)何や何やー!どないしたんどないしたん?」
老人「茶道デスマッチの触書じゃ……」
ぼん「茶道デスマッチ?」
  立札から秀吉のホログラムが映写された。
秀吉『人民どもよ!わが政権は茶聖・千利休をクールジャパン事業のポストに召抱え、わび茶の文化開発に勤しみ、これを限りなく完成へと近づけてきた!後もう一歩じゃ!そこで、わしは茶の湯で千利休を打ち負かさんとする挑戦者を募ることにした!勝利者にはたんと褒美をとらせようぞ。いざ急げ!これより茶の道の天下分け目じゃ!』
  掻き消えた。
商人「えらいこっちゃ……豊太閤はんは極限の茶の湯をなさるおつもりや……」
飛脚「わてらには関係あらへんがな」
 「シャラアァァップ!」
  町人たち、声の方を見る。
  宣教師(声の主)と馬に乗った高山右近がやって来た。
右近「ホーホホホ!興味深いお話だこと!」
ぼん「(跳ね)何じゃお前ー!」
  途端、右近の馬に蹴り飛ばされ飛んでいった。
右近「ホホ、申し遅れたわね。花も恥じらうキリシタン大名、高山右近よーん!」
  ざわめき、平伏する町人たち。
宣教師「イッツ・ア・ジャッジメント、オーライ? ファックオフ!」
右近「ホッホッホッ。神を知らないおバカさんたちは燃えちゃいなさぁい!」
  馬を駆り、火炎放射器で火をつけて回った。
町人たち「ギャーッ!!」

 3 燃える町
  右近の馬が火の手を拡げつつ、大坂城へと駆け上がっていった。

 4 聚楽第
  秀吉のいない一間。
宣教師「アナタハ・神ヲ・シンジマスカー?」
利休「……」
宣教師「アァ~ン!?」
右近「ホッホ!利休さん、相変わらずわびてるわね!」
利休「右近、そち、変わった」
右近「神様への信心のおかげよん!異文化こそコレカラの時代。利休さんの茶の湯はいささか古くなくて?」
  火炎放射器をチラつかせた。
利休「……茶の道は外にではない、内に広がっておる」
  カーン、と鹿おどしが鳴る。
  一瞬の静寂の後、襖が開き、派手に秀吉が登場する。
秀吉「イヨーっよくぞ参った」
右近「あらんお久しぶり秀吉サマ……お土産持ってきたわ、例のアレ……ウフッ」
  宣教師が手渡す。
宣教師「フォーユゥ」
秀吉「おお、苦しゅうないぞ。む、これは! 南蛮渡来の洋ゲーちゅうものじゃな」
右近「信長サマもハマったタイトルのシリーズ続編よん、私もハマったの……目覚めちゃった……スゴいわ……」
秀吉「おお、おお、謹んでプレイングしようぞ。しかしのう。わしはこの所政治にかかりきりでの、引きこもりがちで花見もできておらぬのじゃよ……」
右近「ホッ、さては今日の茶室のテーマは!!」
秀吉「利休!右近!インドアながらアウトドアにしてみいッ!」
宣教師「ワァァッツ?」
利休「……承知いたした」
右近「ホホッ、神の名において、右近におまかせあれ!」
  茶道デスマッチの火蓋が切って落とされた。

 ◯右近のアトリエ
  家来に混じって宣教師も作業させられていた。
右近「ホッホ、やっぱり外来の特注ステンドグラスは必須だわね。これに聖書を開いて賛美歌を流しながらお茶をするとスッゴクわびさびするのよね~」
宣教師「モウ疲レタヨー」
右近「ホラッ、あんた!!神に仕える身ならキッチリ二十四時間死ぬまで働きなさいよ!!」
宣教師「ヘェェルプミィィ!」

 ◯利休のアトリエ
  暗い部屋。
  ぽつねんと利休が立ち尽くしていた。
  棒立ち。
利休「……」
  不意に後ろを向いて、手を前に伸ばした。
  後光のごとく禿頭の向こうから光が指す。
  カチカチと音がしはじめた。
  カチ、カチカチ、カチカチ、カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ……
  カチカチ音が段々尋常じゃないほどヒートアップしていった。
  リズムに合わせ微動する不気味な後ろ姿。

 ◯聚楽第
  銅鑼が鳴る。
秀吉「頃合よし!」
  右近、利休が左右から現れる。
右近「ホーッホッホ! 秀吉サマ、最高のアウトドア茶室を仕上げたわよ!」
秀吉「ウム、期待しておるぞ。利休はどうじゃ!」
利休「……秀吉殿、外などないのでございます」
秀吉「ウヌ?」
利休「……茶室しかなく、茶も室もないのです」
秀吉「ヌ~~~ンなるほど!それでは右近の方から見てみようかの」
右近「ホッホ。秀吉サマ、どうぞこちらへ……」

 ◯デジタル茶室
右近「ホーッホホホ。どうでございますか。特注のステンドグラスにエス様の御姿を描き、更にデジタルアートで異国の清い美少年の姿が乱れ飛ぶようにしましたのよ」
  スキンヘッドのムキムキが裸体で乱舞していた。
秀吉「ウム、美少女モードに切り替えい!」
右近「ホッホ。ここが見どころですのよ……ステンドグラスは木の幹となぞらえた趣向ですわ。そこに3Dポリゴンの桜をあしらえましたのよ……ホレッ」
  3Dポリゴンの桜が咲きはじめた。
秀吉「ホオ……ッ、これは壮麗なり。異国の技術はここまでのバーチャルリアリティを可能とするか!しかも、醜悪と見えたムキムキが、幹という趣向により古来木に人を投影していた歴史を思い出させ、伝説を織り込みアート性を高めておる!これで金髪美女モードが実装されれば言うこと無しじゃ。華やかさではこれに勝るものはない!あっぱれなり」
右近「ホーホッホ。お楽しみ頂けて光栄ですわ」
秀吉「利休よ!外来の技術には太刀打ちできぬぞ。これに挑むと申すか!」
利休「……」
  カーン、と鹿おどしが鳴る。
秀吉「あいわかった!その心意気殊勝なり。利休、わびさせい!」

 ◯ドット絵茶室
  暗室。
利休「……こちらです」
  明るくなる。
秀吉「おおっ……こ、これは……!」
  一面ドット絵。
利休「襖絵にドットを打ち込み申した……」
秀吉「た、確かに3Dポリゴンは美麗じゃが、解釈をひとつしか認めぬ!されどドット絵は……どうじゃ?見れば見るほどわしの脳内にいくらにも変幻させおる!!」
利休「いかほどに豪奢を極めた屏風画であろうとも……突き詰めれば吹けば跳ぶ砂……でござります」
秀吉「あふれんばかりのむき出しの四角が見せる無限の可能性……ッ!この僅か1ドットにて桜吹雪をあらわすなど職人の技が光っておるではないか!あえて打ち込まぬ余白にこそ無限の空間が顕現しおるぞ!」
  喋っている間にドット絵の背景が昼から夜に変わっていく。
右近「ホヒッ……!」
秀吉「右近。この勝負、そなたの師にあったな」
  崩れ落ち、
右近「利休さん……参りましたわっ……!」

 ◯聚楽第
  秀吉と利休。
  洋ゲーで遊びながら、
秀吉「利休、茶の湯の美意識はそなたによって守られたぞ。褒美をつかわそう」
利休「ありがたき幸せ……」
秀吉「しかしあのキモい茶室は最悪じゃった!やはり伴天連は処刑じゃな!」

 ◯デジタル茶室
  踏み絵だらけの部屋で傷めつけられた右近が片足立ちしていた。
右近「(発狂)ホホー!!ホーッ!!ホ、ホーッ!ホッ、ホホー!!」

 ◯ドット絵茶室
  一茶しながら、
秀吉「ウム!やっぱり南蛮より和の心じゃな!!」
  襖の隙間からこっそり覗き見していた宣教師がつっこむ。
宣教師「ノオォォ!」


こちらは性懲りもなく賽銭箱です。

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