ロシアのフェイクアカウントについて その56:PRESIDENT Online/佐藤優 その2

【概要】

PRESIDENT Onlineに佐藤優の記事が掲載されました。書籍『よみがえる戦略的思考 ウクライナ戦争で見る「動的体系」』(朝日新書)の一部を再編集したものだそうです。コメントしてみます。

【本文】

今回コメントする記事はこちらです。

<佐藤氏の主張①>
(WWII時に)東條は日本にとって重要な「価値」に依って対米戦争やむなしと主張し、若槻は自国の「力」を冷静に見極めて、不面目であっても対米開戦に反対した。しかし、肥大した「価値」の体系が「力」の体系を抑え、1941年12月8日を迎える。当時、戦争や事変のたびに部数を伸ばした新聞各紙、知識人、世論も「価値」の体系を肥大させていた。その結果、日本は壊滅的な敗北を喫した。

<私のコメント①-1>
国際政治において理想・正義の追及と現実的な政治判断は適宜使い分けるべきものかもしれませんが、今回はウクライナはロシア軍をウクライナ領から叩き出す能力があるので、支援するべきだと思います。

「国際法に挑戦して力で現状の変更を試みても無駄である」という実績を積み重ねることにより、世界はより安全になります。

<私のコメント①-2>
露に近い人物は、やたらと「日本は対米従属」という言葉を使いたがる傾向にあります。「必ずしもアメリカが関わる戦争が正義の戦争とは限らない」という指摘はその通りだと思います。自主的な外交を展開できるだけの防衛力を整備することは、必要だと思います。

一方で、日米の分断を図る意図を含んで「日本は対米従属」と指摘している場合もあるので、注意が必要です。今後、日本は中国共産党の圧力に対処してゆく必要があります。今回のロシア/プーチン政権が発揮した異常な残虐性、異常な醜悪さは中国共産党にも備わっています。ウイグル・ジェノサイドを調べることをお勧めします。民主主義は人類普遍の原理です。米国との同盟を適宜メンテナンスしてゆくことは日本の国家存続の観点で大変重要です。

<私のコメント①-3>
ロシアに近い人物はしばしば「WWII時に日本はアメリカによって戦争に引き込まれた」と主張します。
 ⅰ日米の分断を狙う
 ⅱ「プーチンはウクライナ侵略に引き込まれた」と解釈してほしい
といった目的があるのだと思います。

太平洋戦争が始まるまでの過程において、対日石油禁輸~ハルノートまでの日米間のやり取りに限って言えば、アメリカが日本を戦争に引き込んでいると思います。東京裁判で「この戦争は日本が悪い」と結論付けたのは茶番です。この点を踏まえると、戦後にGHQが日本国憲法の草案として「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持しようと決意した」との文言を渡してきたというのは、かなり馬鹿にした話です。

ⅰに関しては、憲法改正については一度国民的議論を経験するべきだと思います。しかし、民主主義の理念を共有する米国との同盟は堅持するべきです。

ⅱの「プーチンは戦争に引き込まれた」という主張に関しては、相手にする必要はありません。プーチンが入念に嘘を重ねてから始めた侵略です。

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<佐藤氏の主張②>
「価値の体系」は、今年5月に来日したバイデン米大統領と岸田首相との会談に端的に表れている。

〈ロシアのウクライナ侵攻についてバイデン氏は、「日本はほかのG7各国とともに、プーチン大統領の責任を追及し、民主主義の価値観を守るために取り組み続けている」と評価。岸田氏は「力による一方的な現状変更の試みは、世界のどこであっても、絶対に認められない」と述べた〉(2022年5月23日、朝日新聞デジタル)

日本がアメリカの対ロシア政策を支持していることをバイデン氏は評価している。別の言い方をすれば、日本は対米従属のために、自主性を発揮できていないとも言える。この見方は半分正しく半分正しくない。

<私のコメント②>
「自分を尊重して他人を尊重する」という哲学があって、その上に民主主義を実現するために制度が整備されています。自由/人権尊重/法の支配は人類普遍の原理です。

アメリカも日本も民主主義が劣化している兆候が表れていますが、中露の現政権の邪悪/醜悪とは比べるべくもありません。

今後国際社会及び日本が中国共産党と対峙してゆくにあたって、アメリカは民主主義を尊重する大切なパートナーとなります。

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<佐藤氏の主張③>
さらに、ロシア・サハリン沖の石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン1」「サハリン2」の枠組みに日本は留まる姿勢を崩していない。(中略)もう一点、金額ベースでは小さいが、ロシア側に入漁料を払ってサケ・マス漁を行う枠組みも残している。このように利益の体系においては、必ずしもアメリカや他のG7諸国に同調しているとは言えない。

<私のコメント③>
東京都内での侵略抗議行動に参加していると、通行人から「サハリン1/2から撤退するべきでは」という意見を貰います。素人ですが、私もそう思います。シェルはロシアによるウクライナ侵攻に抗議する形でサハリン2を含むロシアでの全事業から撤退することを表明したそうです。論点がどこにあるのかキチンと調べていませんが、あり得ない選択肢ではないと思います。

サケ・マス漁に関しては、死活問題ではないですし金額も少ないそうなので、話題にする必要がないと思います。

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<佐藤氏の主張④>
ウクライナのゼレンスキー大統領はロシア軍を撃退するために、武器提供を求めている。しかし、最も直接的な力の要求に、日本は応じることができない。2013年、それまでの武器輸出三原則に代わり、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、防衛装備移転三原則が定められた。それでも、殺傷能力のある武器をウクライナに供与することはできず、不用品扱いで自衛隊の防弾チョッキを送り、追加で市販品のカメラ付きドローンを送ったにすぎない。一見、ちぐはぐに見える日本政府の姿勢を筆者は、国益にかなったものと評価する。「利益の体系」と「力の体系」において、国として譲れない一線を引いた日本国家の生き残り本能によるものだと思う。

<私のコメント④>
「日本が今回、露に対して歯向かう行動をとらなかったことは賢明である」と言いたい様子です。

2022年12月時点で言えば、ロシアの敗退は決定的です。プーチン政権による一連の犯罪をロシア国民に直視させロシアという国の更生を促すことが、侵略終了後の国際社会の課題となるでしょう。

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<佐藤氏の主張⑤>
メディアに登場する国際政治や軍事の「専門家」と称する人々は、なぜ「価値の体系」しか見えなくなっているのか。その要因として2種類の“平和ボケ”があると筆者は見ている。<中略>むろん私たちは、ウクライナ戦争の直接の当事者ではない。そうであるならば、抑制的にこの戦争について語るべきだと思う。両国に対しては、即時停戦をすべきであると強く主張したい。

<私のコメント⑤>
プーチンのやり方は「嘘でもなんでもよいから口実を作って軍事行動を起こし、占領地を広げ、後から何を言われても返さない」というシロモノです。占領地が広がった状態で「即時停戦」を主張し始めるのは、プーチンに対するアシストです。

この文章も、即時停戦を主張する根拠が不自然です。日本の国益や国際社会の社会正義の観点から主張しているわけではないことに注意が必要です。

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<佐藤氏の主張⑥>
情報戦という側面からも、日本のマスメディアのほとんどが米ABCやCNN、英BBCなど欧米メディアの伝えたことを報じることが多い。独自取材による1次情報ではなく欧米メディアからの2次情報だ。しかし、ロシアメディア、それも政府系テレビ番組を情報源として活用することはない。“ウクライナを応援すべき”という価値の体系が肥大しており、ロシアの番組は情報操作が行われていて意味がないと思っているためチェックさえしていないのだと思う。

<私のコメント⑥>
ロシアメディアはプロパガンダしか垂れ流さないので、報じても意味がありません。それでも時々日本向けに紹介されていますよ(こちら)。

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<佐藤氏の主張⑦>
宣伝の範疇に属するのが「第1チャンネル」(政府系)の「グレート・ゲーム(ボリシャヤ・イグラー)」で不定期に放映する政治討論番組だ。2月24日にロシアがウクライナに侵攻した後は、「グレート・ゲーム」は、クレムリン(大統領府)が諸外国にシグナルを送る機能を果たしている。(以下、要約)

(スースロフ氏/ロシア高等経済大学教授)
バイデン大統領自身が、紛争はロシアの敗北によってではなく、交渉によって解決されなくてはならないと、最近、「ニューヨーク・タイムズ」で述べた。

(サイムズ氏/米共和党系シンクタンク所長(米国籍))
米国の有権者にとって、またバイデン大統領や民主党を支持する人たちにとっても、ウクライナに提供する400億ドルは、関与しすぎだと見なされている。それによって米国内の利益が毀損されている。

(スースロフ氏)
(今後の予測シナリオの)第2ヴァージョンは、ロシアが決定的な勝利を収めて、ドニエプル川よりも先に進んでくるというものだ。これはバイデン政権に破滅的影響を及ぼす。当然、バイデン政権としては現時点での解決を図る。米国の評価が変化し、それが政策の変更につながる。

(レシェトニコフ氏/対外諜報庁中将)
ロシアを孤立させることは難しい。

(佐藤氏)
あるいは、レシェトニコフ氏が「米国が孤立」することを指摘したように、自由民主主義を「普遍の価値」とする西側社会における自己認識が崩壊する可能性を示している。(中略)「グレート・ゲーム」がクレムリンの宣伝だとしても、「価値の体系」が肥大化した日本のマスメディアの情報に染まった頭に、新たな視点を与えてくれる。(後略)
 
<私のコメント⑦>
ロシアのプロパガンダに関しては「現実に即していない」という感想です。プーチン支持者の中ではこういう話になっているのでしょうね。

「民主主義は劣化する」という指摘は、考えさせられるものです。古代ギリシャの民主政治も最後は衆愚政治に堕ちてゆきましたし、日本も大正デモクラシーから軍部独裁までの変質を経験しました。

各自が自主的に行動しお互いが協調したときに民主主義の強さが発揮されます。各自が現実から目を背けて責任転嫁にまい進していれば、最後は独立を失います。

【まとめ】

要するに即時停戦を提案したいようです。プーチンをアシストするために書いた文章です。国際社会のあるべき姿とか、日本の国益とかを考えて書いているわけではありません。

チェチェン、シリア、クリミア、ドンバスと国際社会がプーチンに甘い対応をしてきたことがプーチンの増長を招き、今回の惨劇につながりました。しかし、佐藤氏は「反省すべし」とは主張しません。プーチンの嘘を指摘することもありませんし、ロシア軍の異常な蛮行も指摘しません。

なぜこういう文章を書くのでしょうね。謎です。

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