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音楽があれば(6)渡辺貞夫「カリフォルニア・シャワー」

 生きていると、自分の全感覚がポンと音をたてるように突然広がることがあります。1978年に発売された渡辺貞夫さんの「カリフォルニア・シャワー」に初めて出会ったとき、表題の楽曲の出だしで彼のサックスフォンが鳴り響いたとき、十代後半だった私の目の前の世界がパッと広がりました。
 今となっては大好きな生まれ故郷の京都ですが、当時は息苦しくてたまりませんでした。バイクを乗り回しても京都盆地は十代の心を広げてくれるわけもなく、琵琶湖湖畔に遠乗りしても、そこは世界に繋がる海ではなく湖であり、陽射しはいつも温帯気候の優しくほのかなものでした。
 無意識に求めていた暴発したい心と、彼のサックスフォンの音色が、たまたま合致したのだと思いますが、あの瞬間私の全感覚は覚醒したようです。
 2000年にL.A.事務所の所長となり、ウェスト・ハリウッドに引っ越しましたが、ロサンゼルスの街中には、「カリフォルニア・シャワー」でイメージしていた爽やかさはなく、排気ガスがこもるアスファルトの照り返しが強い日常がありました。けれど、たまにビーチに行くと太平洋のうねりと浜風があり、あの「カリフォルニア・シャワー」そのままの太陽が輝いていました。実感としては、ロサンゼルス近郊のサンタモニカ・ビーチやマリブというよりも、南東に50キロほどのところにあるハンティントン・ビーチあたりに行くと、私のイメージにある「カリフォルニア・シャワー」のビーチの世界にピタリと合う情景がありました。一つの楽曲で、十代の物事の捉え方の世界観をコロリと変わえてくれたのが渡辺貞夫さんでした。中嶋雷太

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