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私の好きな映画のシーン(27)「妖婆 死棺の呪い」

 今回のnoteで「妖婆 死棺の呪い」を取り上げるのにはかなり躊躇しました。日本人の1%も見たことのない旧ソビエト連邦製のこの映画についてあれこれお話しすると、名作だとか、誰もが見るべきだなどと、錯覚される可能性もあるからです。ただ、「私の好きな映画のシーン」とあるとおり、この映画が醸し出す古い時代のコサックの貧しい村の風景シーンがなんとも好きなのです。そして、クリーチャーがわんさか出てくるシーンは、1960年代風味たっぷりで、これはこれで愛せるシーンです。ストーリーですが、昔話なので現代的なしっかりとした起承転結で構成されてはいません。けれど、それこそ昔話を忠実に作者が聞き書きしたと冒頭でいうだけあって、ある意味、民話としての体裁でしっかりと描かれているともいえます。民話とは、本来綺麗なストーリー・ラインなどないものです。ま、観られると、身も蓋もない話で、教訓とかも一切ない話ですが。
 原作はゴーゴリの「ヴィイ(妖婆)」。調べてみると、1967年に旧ソビエト連邦で製作された「妖婆 死棺の呪い」より前に、イタリアで「血ぬられた墓標」として製作されていました。さらにさらに驚いたことに、2014年に、ロシア、ウクライナとチェコの合作で「レジェンド・オブ・ヴィー 妖怪村と秘密の棺」という映画が製作されていました。二乗の驚きです。話は、キエフにある神学校の夏休み。帰省する神学生が途中で魔女や妖婆(ヴィイ)と闘うというものです。因みに、この映画に登場するヴィイの声は男性のものでした。このヴィイという妖怪のようなものは、元は東スラブ(現在のベラルーシやウクライナあたり)の神話だとか。地下に生息する生物で、その死の目は重い瞼と睫毛で覆われており、ヴィイに見つめられた人は昏倒し死んでしまいます。昔、この「妖婆 死棺の呪い」を知人から紹介してもらいましたが見る機会がありませんでした。ところが、ある日Amazonで調べるとDVD化されていたので即買いしました。パッケージの裏を読むと、ロシア映画評議会があらたに修復・デジタル化し音源も5.1チャンネル化したものとのことでした。
 見終わると、何だか不思議な感覚を抱える映画です。このコサックが作り出した民話の荒々しさが、ドブロク的なウォッカの酔いにも似て、ザラザラとした後味が残ります。中嶋雷太

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