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私の好きな映画のシーン(15)「エンドレス・サマー」

 前話は『ビッグ・ウェンズデー』で、今話は『エンドレス・サマー』となりました。夏なので、サーフィン映画の連続となりますが、お許しください。
 私の映画体験史では、1978年劇場公開『ビッグ・ウェンズデー』を観たあとで、1964年劇場公開『エンドレス・サマー』を知り、レンタル・ビデオ店でビデオを借りて観た記憶があります。劇場公開順の映画体験ではないのは、1980年以降に広がったレンタル・ビデオ店文化のおかげです。それまでは、過去の映画(旧作)を観たいと思っても地上波の放送を待つしかなかったのですが、レンタル・ビデオ店が普及すると「今、観たい」作品は借りてくれば良くなったので、1980年代は新作映画だけでなく、旧作映画の大量見直し時代になりました。さらに2000年代に入るとビデオからDVDのレンタルが普及し廉価販売も広がり、ハードディスクの録画機器も一般化したので、映画ファンにとっては、いつでも好きな映画が見られる環境が整い、しかもデジタル・ハイビジョンとなり、2010年代になるとオンデマンドが徐々に広がり、新旧の映画がいつも身近にある時代になりました。そして『ビッグ・ウェンズデー』と『エンドレス・サマー』の話に戻ります。
 1978年劇場公開の『ビッグ・ウェンズデー』に魅せられた私が、1964年劇場公開の『エンドレス・サマー』を観終わったときの最初の印象は、「なんだかなぁ」でした。その「なんだかなぁ」というボヤけた印象の理由のひとつは、前者がベトナム戦争による若者の痛みと再生を描いていたのに、後者はとてもシンプルにサーフィンの面白さだけを描いていたからです。
 『エンドレス・サマー』が劇場公開された1964年は、アメリカがベトナム戦争に軍事介入して3年目で、アメリカ全土で反戦運動が高まる直前だったこともあり、撮影はそれより前だと思いますが『エンドレス・サマー』の最初の印象は、どこか腑抜けたものでした。つまり、『ビッグ・ウェンズデー』を通して私は『エンドレス・サマー』を観ていたわけです。その数年後、私がサーフィンに出逢いサーフィンの面白さを体感してのち、改めて『エンドレス・サマー』を観て、最初のボヤけた印象は覆りました。
 1960年代初頭、二人のサーファーが、先ずアフリカへと旅立ち、世界で良い波を探す旅を描いているだけ、それだけの話が心地よいのだと分かるようになりました。風俗史では1960年代の、まだベトナム戦争の悲惨を知らない、陽気なポップカルチャーとカテゴライズされそうですが、現在にまで繋がるサーフィンの楽しみだけを描くだけで良いのではと考えました。
 さて、私の好きなシーンですが、実はサーフィン・シーンではなく、飛行機に乗り継ぐときの二人のサーファーのスーツ姿です。この時代、国際便の飛行機に乗るには正装でないといけないという意識があったようです。浜辺では海パンの二人が飛行機に搭乗するためにスーツ姿になる。どこか滑稽なのですが、当時の常識だとは分かっているという、私の意識の段差。けれど、サーフィンは変わらずサーフィンなのです。
 「大きな波を探しているのではない。夢見るのは、小さくても形の良い波…"パーフェクト・ウェイブ"」です。
 コロナ禍ぎ明けたら、私もパーフェクト・ウェーブの旅に出かけます。中嶋雷太

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