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音楽があれば(12)ココ・テイラー

 女性ブルース・シンガーと言えば、私の場合はココ・テイラーが一番好きです。もちろん、すべての女性ブルース・シンガーを知っているわけではなく、これまで様々なジャンルの音楽に偶然出会うなかで、目を見張るほど引き込まれたのが彼女の歌でした。
 1990年ごろ、最初の出会いは「ブルーズ・フロム・デルタ」というアメリカ南部のブルーズの起源を描いたドキュメンタリー番組に担当プロデューサーとして関わったときのことでした。散髪屋で髭剃り用のシェーバーを、皮で磨ぐのがリズムになったり、箒を逆さまに持ち、ガタガタ波打つ床でガリガリとリズムをとったり、囚人が丸太に斧を打ちつけながらリズムをとって即興の歌を歌ったり…原初のブルーズでは生活用品を楽器としてリズムをとり、即興の歌詞をつけ歌うものでした。
 そうした原初のブルーズのアーカイブを紹介したのち、野原で開かれたライブの模様を紹介することになりました。ほったて小屋のような粗末なステージに現れてきたのが、ココ・テイラーでした。
 そのころは、ブルーズが好きでも嫌いでもなく、たまたま耳にするブルーズをなんとなく聴いていただけで、ココ・テイラーがシカゴ・ブルーズの女王と呼ばれていることも知りませんでした。さて、その圧倒的なシャウト、荒々しく野太いヴォーカルは、ブルーズの底辺に流れる魂の叫びのようでもありました。
 プラスチック容器に入れ、透明なラップで覆って提供されるような楽曲に飽きると、私はココ・テイラーのCDをかけ、心の音の風景を巻き戻します。中嶋雷太

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