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プロダクション・ノオト(1)

小編映画二作『Kay』と『終点は海』(両監督:鯨岡弘識)の併映劇場公開情報が解禁されたので、本日より「プレ」を取り、「プロダクション・ノオト」と改題し、私と映画の小さな話を書き綴りたいと考えています。この1月、井上昭監督が亡くなられた。溝口健二監督に師事され、市川雷蔵や勝新太郎さん等の映画の監督を務められた。先夜、NHK-BSで遺作となった『殺すな』の制作現場のドキュメンタリー番組が放送された。そこは太秦松竹撮影所。私の実家の近くが懐かしく、私は十代のころを思い出していた。先は何も見えず、どこか苛立っていたように思う。夜深く勉強していると、撮影所内のセットに照明が灯り、スタッフの声が聴こえていたのも懐かしい。あれは「仕事人」の撮影だったはず。さて、番組で、若手のカメラマンに、技術の前に撮る対象の魂だと話されていたのが印象に残った。撮影技術がどれだけあろうと、カメラのレンズにとらえられた対象の魂を捕まえようとしなければ、そこには何もない。井上監督の映画のテーマは愛だという。番組の最後にインタビュアーが「愛とは?」と訊ねると、まだほとんど分からないと、井上監督は苦笑い混じりに答えられていた。中学時代から生意気に通っていた帷子ノ辻駅前のスマート珈琲店は松竹撮影所のスタッフや俳優の皆さんの溜まり場で、私は斜に構えながらホット・コーヒーを飲み、彼らの熱を感じていたように思う。井上監督にも何度かお会いし、前職(WOWOW)在職中はカウンター席で挨拶を交わしたはずだ。世の中を斜めに見ていた中学生が、エンタテインメントの仕事を生業にしていたわけだ。感覚として人の魂と向き合うことを学んだ場所が、実家があった太秦という場所だったのだろう。中嶋雷太

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