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1. 民法766条の面会交流原則は子の権利を最優先できているだろうか。


1.定義

①「こどもの権利」とは
全54条から成る「児童の権利に関する条約」を指す。1989年に制定され、日本は1994年4月22日に批准
→世界中のこどもが安全な環境で、安心して、自分に自信をもって、生活できるために守られるべき権利について定めた国際法

②「面会交流原則」
(1)面会交流
離婚後、別居親と面会やメールなど多様な手段で親子間での交流を図ること
(2)面会交流原則実施論
民法第766条 第1項
父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者,父又は母と子との面会及びその他の交流,子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は,その協議で定める。 この場合においては,子の利益を最も優先して考慮しなければならない。


→平成10年(1998年)の面会交流協議件数は1989件に対して平成23年(2011年)の民法766条改正後の令和2年(2020年)では総数が3404件に増加しており、面会交流協議件数は増加傾向にある。(資料1-①、②参照)

→民法766条改正後、家庭裁判所の面会交流協議の約9%が審判に移行している。審判の約82%が面会交流を認める結果となっている(令和2年「子の監護に関する処分事件の事件動向について」法務省より引用)

資料①履行勧告事件(子に関する調整)のうち面会交流調停事案で義務を定めたものの終局時の履行状況(「親子の面会交流を実現するための制度等に関する調査報告書」の概要 法務省民事局より引用)

⑴民法766条改正前面会交流の新受件数


⑵民法766条改正後の面会交流終局状況



2.面会交流原則の問題点
①面会交流原則実施論の「特段の事情」*1が非常に限定的である
*1非監護親による虐待・面前DV等を指す(資料②参照)

→面会交流原則により、問題がある非監護親による子や監護親への殺害・DV被害が防げない

→高圧的な非監護親に会うことが苦痛など、監護親の精神的な問題は考慮されにくい

→子が非監護親に会いたい意思を示した場合、これは最優先事項だが、同居親が苦痛を感じている場合、結果的に子に悪影響を及ぼし、高葛藤状態に陥る危険がある

資料②配偶者からの暴力事案等の相談等状況(全国ひとり親世帯等調査 厚生労働省より引用)



(1)非監護親による子の殺害(面会交流中に)
Ex)兵庫県伊丹市のマンションのリビングで男性が健康器具に巻いたネクタイで首をつった状態で、女児の首にも巻かれたネクタイが器具とつながっていた姿が発見された。(産経新聞記事2017/5/23より引用)
→同様の事件が増加傾向にある

(2)面会交流中のDV被害(資料②参照)
Ex)元夫からDV被害を受けた親権者(妻)がPTSDを発病し、離婚後もDVが続き、妻が対等な立場で話し合える状況ではないことから裁判所では「面会交流が母子の生活安定を害し、子どもの福祉を害する恐れがある」として元夫の面会交流を禁止(仙台家裁平成25年9月15日審判より引用)

→判決では「たとえ、虐待をしていなくても、非監護親が既に親権をはく奪されたことに対する反発的姿勢や監護親・子への支配的姿勢は、子のための面会交流実現の阻害要因になる」と示されており、DVも面会交流禁止要因に十分なりうる

→資料②より非監護親からのDV被害は増加傾向にある

→親権者へのDV行為など子に直接影響がなくても、面前DVは子に悪影響を及ぼし、忠誠葛藤を引き起こす可能性がある



(3)面前DVがこどもに及ぼす悪影響
・面前DVが子の脳の発達に悪影響を及ぼすことが既に科学的に示されている(離別後の親子関係を問い直す―子どもの福祉と家事実務の架け橋をめざして―より引用)

・面前DVにさらされ続けた当時19歳の元少年(21)が父親(当時49歳)を刺殺し、元少年に懲役11年(求刑・懲役14年)の判決が言い渡された(仙台地裁2017/12/13)

②子の意見徴収義務だけでは子の権利を保障するには、不十分

→調査官による意見聴取を行っても正確な情報を得られない場合がある

家事事件手続法152条(子の意見徴収義務)
面会交流を含む子の監護に関する審判には15歳以上の陳述を聞かねばならない


→民法で親権を行使する際に子自身の意思を反映させる旨を定めた記述は,民法824条の但し書きのみ

民法824条
親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。
ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。


(1)家裁調査官による意見徴収の手続き的問題
Ex)性的虐待を受けた子に調査官が聞いても沈黙を貫き、精神科医との継続したカウンセリングの中で信頼関係を築いた上で初めて受け答えをした(福岡高裁平成14年9月14日決定)

→調査官の専門性強化や精神科医など児童心理専門家との連携強化が必要

→子の意見が、非監護親とこどもとの面会交流が子の利益に反することを証明できないとしても、吟味するための人的、時間的資源の不足を理由に手抜きは正当化されるべきではない

③家裁調査官による面会交流の強要・誘導(資料③参照)

→子の権利である意見徴収中に面会交流の強要・誘導を行うことは子の権利、意思を無視し、優先できていない
Ex)・「DVを主張しても虐待がなかったために面会交流をするように言われた」が、23.1%などDVを軽く扱う傾向にある

・調査官調査を経験した280人に調査官調査についてこどもに悪い影響を与えたと回答した親権者が17.1%

→家裁調査官による不適切な発言や面会交流原則に則った面会交流への誘導が行われる可能性がある

資料③家裁手続きの際に意見が適切に考慮されたかに関する質問(法制審議会家族法制部会 離婚後の等の子どもの養育に関するアンケート調査第一次とりまとめ結果より引用)

4.結論
面会交流原則は子の権利を優先できていない

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