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『アンの愛情』読了

旧ブログから引っ越し。
『アンの愛情』
原題 Anne of the Island(1915)
L・M・モンゴメリ著
松本侑子訳
集英社文庫(平成20年10月25日)
H281223~H290104

 アンシリーズ第三巻。
 主人公は都会に出て四年間の大学生活を過ごす。「パティの家」がそのベース基地として描かれ、笑いさざめく声が聞こえてきそうな共同生活は、読む者の気持ちをも幸福にする雰囲気を醸している。
 娘盛りのアンはモテ期でもある。さまざまな男性から求婚される。しかし、すべて断ってしまう。最終章で描かれる求婚を除いては。恋愛をめぐる若い女性ならではのおごりとうぬぼれも、微笑ましく描かれる。そうそう、これだから女性にはかなわないんだよなあと、男である自分にはつくずく思われる。
 印象深いエピソードの多い巻でもある。アンが生家を訪ねて幸運にも母親の具体的な面影に触れるシーン。少女時代にきらきらと輝いていた友、ルビー・ギリスの死。その他、独立した短編を思わせるエピソードの多さは、この巻の特徴ではないかと思う。同時にそれらが主人公の成長と関連性を持って語られる。
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「四年たったら……アンはどうするの?」
「そうね、四年たてば、また道の曲がり角にくるのよ」アンは静に答えた。「曲がり角の向こうに何があるのか、わからないわ……知りたくないの。知らないほうが、ずっとすてきだもの」
30頁
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「――私たち決めたの、友だちを呼ぶのは、金曜の夜だけにしようって。一緒に暮らすなら、決まりを守ってもらわなくてはね。」
「もちろんよ、私が守らないとでも思うの? 喜んでしたがうわ。私も決まりを作るべきだったのに、作る決心も、守る決心もつかなかったの。でも、二人が決めてくれるなら、ありがたいわ。運命をともにさせてくれないなら、失望のあまりに死んで、化けて出るわよ。パティの家の玄関先、ちょうどあがり段のところにとりつくわ。みんなが出入りするたんびに、私の幽霊にけつまずいて転ぶわよ」
114頁
♯大学での新たな友人、フィリッパ・ゴードンの言葉である。
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 アンは笑った。「――ええ、たしかに私は寂しくて、少し失望しているんです。ステイシー先生が、以前おっしゃったんです。二十歳になるころには、人の性格は、よかれ悪しかれ決まってしまうと。ところが今の私は、理想とは違うんです。欠点(ひび)だらけで」
「誰しもそうですよ」ジェイムジーナおばさんがほがらかに言った。「私の性格なんて、百か所もひび割れています。ステイシー先生は、二十歳にもなれば、性格は一つの方向にさだまって、あとはその道筋にそって成長するとおっしゃったのでしょう。心配いりませんよ。アン。まず、神と隣人と自分自身への義務を果たして、あとは愉快にすごすのです。これが私の哲学です。たいていうまくいきましたよ。――」
197頁
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「じゃあ、考えてみて。かつてこの世に生を受けて、ずっと努めてきた偉大で、高潔な人たちのことを」アンは夢見るように言った。「そうした先人のあとにつづいて、彼らが勝ちとったこと、教えてくれたことを受けついで行くのは、価値があるでしょう? それに、今の世のなかにも、立派な人々はいるわ。その人たちと優れた考え方を分かちあうことも、価値があるでしょう? それにまた、これから生まれてくる偉人たちはどう? その人たちのために、少しでも助けになってあげて、道筋を作ってあげることも、価値があるでしょう? ……たった一歩でも未来の人たちが歩きやすくなるようにしてあげるのよ」
302頁
♯うん、すばらしい。
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「この前の勉強会で、ウッドリー教授がしてくださったお話から私は真実を学びました」フィルが言った。「『人生という宴において、ユーモアは、もっとも香り高い香辛料である。きみの失敗を笑え、しかし失敗より学べ。きみの悩みを笑い飛ばせ、しかし悩みから強さを収穫せよ。きみの苦労を冗談にしろ、しかし苦労に打ち勝て』ね、学ぶ価値があるでしょう、ジェイムジーナおばさん」
「そうですね、フィル。笑うべきことを笑い、笑うべきことではないことを笑わない、それを学んだとき、みなさん方は、知恵と思いやりを身につけたのですよ」
316頁


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