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エピローグ 

半年ぶりの美容室で、疲れた自分の顔を見ていた。「仕事にやる気が出ないんです。5月病でしょうか」「会社は働き方改革とか言って、パソコンが決まった時間に電源が落ちるんです。だから、やりきれない仕事が雪だるまみたいに増えるばかりです。昔は始発から終電まで仕事ができたのに」世の中にあふれる陳腐な愚痴。

やる気が無いと言いながら、朝から晩まで、休みの日すらも働いている。もう、これ以上余白が無い。「だから、私、いいこと思いついたんです。家に持って帰ってやればいいんです。時間気にせずできるので、すごく仕事がはかどりますよ、きっと。いい考えだと思いませんか?」
担当の田中さんは、困ったように小さく忙しんですねと言葉を返した。

あぁ、何を言っているのか。
もはや発想が昭和。解決策がパワハラ。
自分でもわかっている。
休みの日も、帰宅後も、ずっと仕事のことを考えてしまう。
仕事を心の底から愛しているからではない。
不安なのだ。仕事から離れる事が。

あぁ、間もなく体と心が悲鳴をあげるだろう。
何とかしなければ。
仕事以外の事で夢中になれることが見つかれば、多少はバランスの取れた人間になれるだろう。鏡の前で、私はそんなことをぼんやりと考えていた。


それは、ある日、なんとなく通り過ぎた日常の中で出会い、気になって、目で追って、気が付いたら頭の中がいっぱいになっていった。自分の中で「これ以上これ以上先に進むと後戻りできないよ」とアラームが鳴っていた。

逆らえるはずがない。もう、停まれない。前に進んでいく。見たこともない場所へ連れて行ってくれる。

さぁ、ようこそ。
超特急の世界へ。

#超特急 #草川拓弥


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