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近所のMちゃん

Mちゃんに話しかけるのは、勇気がいった。

顔や歳、家族構成は知ってる、近所だから。
ひとつ下だから集団登校とか
多分一緒にしてたはずだけど記憶がない。

小中高と同じ学校だったのに話した事もない。


後から母に聞くと、Mちゃんのお母さんは
厳しい人で、男子と喧嘩しては勝った!と喜ぶ
粗野な私とは付き合わせたくなかったんだろうって(多分そうだろう)


Mちゃんは賢かったし、私は元気がとりえで
タイプが明らかに違ってた。
カテゴリー分けがきっちりされており、存在を
気にした事もなかった。
きっとお互いそうだったはずだ。

私は高校卒業してすぐ実家をでちゃったし、
全く接点のないまま20年経過。


両親(特に父)が家業の農業を手伝わさせるのと
すぐ上の障害がある姉の面倒をみさせる為に
私を半ば無理矢理に実家に帰らせたのを
きっかけにして、Mちゃんともまた顔を
合わせるようになったのだが…。


協調性は全くないが社交性はある私でも
話しかけるなオーラが出てるMちゃんには
そうそう話しかけられなかった。
(だって話しかけてほしくなさそうやし)


当時、Mちゃんには悪い噂が沢山あって、
なんでも勤め先の社長の愛人だとか(怪文書もまかれてた)

人の噂は無責任だし真偽の程はわからないが、
重役出勤で昼から仕事に行ったり、
会社の人を自分の私用で使ったり(買い物させたり、自分の家の片付けやゴミ捨てさせたり)
あげく、残業と称して仕事が出来ない子の
吊し上げを日付が変わってもしてたりしてた。
(これは実際、その場にいた人から聞いた)

そんな事ができるのはやっぱり社長の愛人?
だからなんかなぁとうっすら思ってた。



でも、その社長とも上手くいかなくなったのか、
会社の部下をイジメて心療内科送りにして
それに怒った親が会社に怒鳴り込んできたのが
よくなかったのか、Mちゃんはその会社をやめちゃった(クビになった?)


同じ時期に、ただ一人の肉親だったお祖母さんを
亡くしたMちゃんは一人になった。

両親は小さい頃に離婚、母親に引き取られたが、その母親は癌で大学生の時に亡くなっていた。


今は愛犬2匹がMちゃんの家族。
(ギャン鳴き声が外まで聞こえくるよ)


だから犬が好きなのはわかってたが、
猫はどうだろう?


うちのベランダから見えるMちゃんちの庭で、
後ろ姿のMちゃんが野良猫においでおいでって
してるのか、シッシッあっちいけ!って
してるのか判断つかなかった。


もうその頃には実家に帰って数年たってた。
個人でTNRしてたし、猫も沢山飼ってたが
Mちゃんとは、やっぱり話した事のないまま。


ただ、野良猫を気にしてるのはわかったから
その猫が道端で亡くなってたのを見た時に、
これはMちゃんに言った方がいいかなぁと
思ったんだよね。

結局その猫は私が埋葬したんだけど、
万が一、Mちゃんがご飯あげてたりしてたら、
急に来なくなったら心配するだろうし(私だったら探しまくる)

思いきって話しかけるか!!

!!をつけるぐらいの思い切りがいったけど、
かえってきた言葉を聞いて話しかけてよかった!
そう思った。


**ちゃん(私の名前)、実は亡くなった猫には
兄弟がいてね、その子も弱ってるんよ、
保護したいんやけど、どうしたらいい?


!!!

な、なんとMちゃんは追い払ってたのではなく、
どうにかしてあげたい、そう思ってくれてた!


う、嬉しい。


捕まえて病院に連れて行くようにアドバイス。
Mちゃんはすぐ実行にうつしてくれた。
幸いその猫はMちゃんの献身的な世話と
通院により一命をとりとめた。


そこからMちゃんとの付き合いが始まった。
もう8年になるかな。



部下をイジメてうつ病にしたMちゃんだったが、
私が歳上なせいもあるのか、はっきりした性格のせいなのか私に偉そうにする事は全くなかった。

何なら凄く気を使ってくれてた。


近所周りの野良猫を捕まえては避妊手術や
去勢手術して猫を増やさんようにしてるんよ、
と言うと、飼い犬の散歩がてら見つけた猫を
教えてくれたり、猫のご飯を差し入れしてくれたりした。ペットシーツも沢山くれた。


うちの外猫も可愛がってくれて、来たらブラシを
かけてくれたり、チュールをあげてくれたり。

Mちゃんちのベランダには外猫用の寝床、
庭にはプランターでトイレまで置いてくれてた。
もちろん水鉢も常設。


ある日、凄く咳き込んでるから大丈夫か聞くと
猫アレルギーがあるんよ、犬もやけどね、
薬飲むの忘れると症状がでるんよ、やって!

犬を飼い出してからアレルギーがあると
気がついたそうやけど、もう情がうつって
手離せんやろ、とMちゃん。

そんな動物アレルギーもあるのに
私がTNRして外猫として面倒見てた猫も

家に入れて飼ってもいい?って!!
(私が頼んだ訳じゃないよ)

どうぞどうぞってダチョウ倶楽部ばりに
言っといたよ!ビックリー!!



すごく情が深い人やと思った。


なんだ、噂はあてにならんな!
Mちゃん、責任感も強いし凄く優しいやん!!


いろんな噂がある事や、前の職場を辞めた理由を
私からMちゃんに一切聞いた事はないが、

ある時、ポツリとMちゃんが、

前の職場の時の私やったら**ちゃん(私の事)
私の事嫌いやったかもね、と言ったのは
よく覚えてる。


Mちゃん、前の職場を辞めて、お祖母さんが
亡くなって一人になってからは変わった。

それまでは挨拶するような子じゃなかったのに
近所の人ともちゃんと挨拶するようになったし、
自治会などの集まりにも顔を出すようになった。


いろいろ思うところもあったんだと思う。

前の職場を辞めてから、周りの人の対応が
変わったり(無視されたり)したのが応えたわ、
みたいな事も言ってたな。
社長の愛人だからってペコペコしてた人が
態度を変えたんかな?


Mちゃんを見てて思ったのは、賢くて完璧主義な
ところがあるから、できない部下をどうにか
できるようにしたかったんじゃないかと思う。


Mちゃんは仕事ができただろうから。


それは暮らし方を見ててもわかった。
家のどこに何を置いてるか完璧に把握してるし、
猫の世話すら、タスク管理。
この日は爪切り、次の日は耳掃除みたいな。
きっちり管理していた。
物事を自分でコントロールしたいタイプに
私からしたら見えた。
でも、人の管理は難しいよね。



能力が高い人にありがちやけど、
できない人の気持ちがわからない。
だって簡単にできちゃうから。


自分が一番下っぱの時は仕事ができる子が
入ってきてよかったって喜ばれるが、
そのまま上になると下の子が困る事になる。

何せ自分ができるんだから、きっとみんなできるはずって思ってる。

これ、でも実は私も思ってた…。
その昔、ある地方都市のファッションビルで
ショップ店員をしてた頃、店員から店長に昇格した時に上司のマネージャーに言われた。

いい?
自分ができる事が、みんなできるって思わないでね。すぐできる人もいれば、時間をかけて
できるようになる人もいる。
ひょっとしてできない人もいるかも。
上の立場になるって事は、ちゃんと見て
その人に合わせた指導ができるようにならないとね。

言われた時は?みたいな感じだったんだけど、
実際に店長になって下の子を育てる時に
何回も思い出した。

あ、そうだった!って。
だから、下の子を追い詰めたりはしなかった。
この子は成長の途中なんだって。
どう教えたら、できるようになるか?
できるようにするのが私の仕事なんだって。

Mちゃんに良い上司がいて教えてくれてたら
こんな風にはならなかったかも。

真面目に突き詰めすぎた。

でも過去は過去。
私だって悪いとこ沢山あるし、Mちゃんが
変わる事を選んだのなら、それで良いと思う。


私は私に嫌な事をしない限り、Mちゃんを
嫌いになる事はない。


私は猫に優しいMちゃんが好きやったし
話してて楽しかった。
近所だから塀越しに暗くなるまで話したり、
立ち話が楽しいんだよね。

私だったら頼まないような事を頼まれても
できる事はしてあげてた(コウモリが部屋に入って来たからどうにかして!とか猫が鳥をお土産に持って来たから埋めて!とか)

そんなん自分でしたらいいのに、何で頼むん?
(私は元々人に頼み事しないタイプ)

不思議に思って夫に話すと、

一人っ子やろ?
周りが大人ばっかりで何でもしてもらってたんよ。だから頼んだらしてもらえるって
思ってるんよ。


へぇー、そう言われたらそうかも。
一人っ子の友達がいないからわからんかった。

まぁでも死体ばっかり埋めたくないって
はっきり言うと、それからは頼まれなくなったし。

ちゃんとわかってくれるんだよね。
話せばわかる。


保護猫活動みたいな事をしてると、やっぱり嫌な事をされたり言われたり、落ち込む事もあって。

そんな時、Mちゃんは気にする事ないって!
そう励ましてくれた。
餌やりだけして増やすだけ増やして、苦情がきたら餌やりをやめた人の尻拭いを私が一生懸命に
してると、そんな目にあわせた人を自分の事の
ように怒ってくれた。


私に味方してくれるMちゃんの存在が
本当に有り難かった。
あったこと全部話す訳じゃなかったけど、
理解してもらえる人が身近にいる、
そう思うだけで心強かった。

Mちゃんも私を信用してくれたのか、
嫌いな人がどう嫌いかまで、
こと細かく教えてくれるようになった。


Mちゃんの嫌いな子は私にとっては友人の妹に
なるので、嫌な態度をとられた事はなく、
Mちゃんとも仲良しなのかと思ってたから
聞いてビックリしたけど、
Mちゃんはいろいろされたようで、嫌いなとこを
1時間は喋ってた(まさに激白60分!!)


うんうんて聞いてた私。

この嫌いな人の話を聞いててよかったー!と
心底思ったのが1週間後。

Mちゃんの葬儀の時だった。


参列なんてして欲しくない!って言ってたから
家族葬だからって参列は遠慮してもらったよ。

**ちゃん(私の名前)グッジョブ!!って
Mちゃん、きっと喜んでくれてるね。


身寄りがないMちゃんだから友人葬が
相応しい言葉かな?


ごくごく少人数のMちゃんが選んだ好きな友人
ばかりで送り出す事ができた。
でも、出棺の時は近所の人たちも見送ってくれたよ。Mちゃん自身が変わったおかげだね。




暗い声で電話がかかってきたのが去年の9月。
てっきり猫の調子が悪いのかと思いきや、
違うんよ、私が余命宣告されたんよ、と。


その時、新しく仕事を始め軌道に乗ったとこやったMちゃん。さぞかしショックだったはずなのに
私には冷静に病状を話してくれた。


多分、自分なりにちゃんと受け止めたあとに
話してくれたんだと思う。
辛くない訳ないからね。


でもMちゃんは偉かった。
余命が一年、その時間をさぁ有効に使わなきゃ!
と思ったのかは知らないが、

死ぬまでの時間すら、ちゃんとスケジュール管理
(本当は父親が生きてるんだけど、相続させたくないから弁護士頼んだり、とか諸々)


通院、買い物はUさんとAちゃん、
主治医と話すのは現役看護師のBちゃん、
猫の世話や日々のゴミ捨ては私、
相続、葬儀は遠縁のTさん、と5人に合鍵を渡し
世話してもらってた
サポートメンバーでLINEグループもMちゃんが
自ら作ってた。

すごいよね、私だったら頼めない。
何でかなぁと考えて分かった事は、

頼むって事は自分のできない事をさらけだす、
そう言う事なんだよね。

だからできない。

人に弱いとこを出すのができないくらい、
とびきり弱い、それが私。

必要以上に社交性があるのも、それで自分を
守ってるから。
わかりやすく自分を出して、それ以上踏み込ませないようにしてるだけ。


人にどんどん頼めて、自分をさらけ出せる
Mちゃんは強い人だったんだなぁ。

迷惑かけたくない、自分が頑張ればいい、
そう思ってたけど、Mちゃんとの付き合いで
たまには人に頼る事もしてもいいかも、、、
そう思ったりもするようになったよ。
(できるかどうかは別)


今だから言えるけどMちゃんがいよいよヤバく
なった時、うちの猫も死にかけてて。
Mちゃんちに行ったり、猫の病院行ったり
鼻カテーテルしたり、投薬したりバタバタやった。死ぬほど忙しかった!



でも頑張れたよ。

亡くなった後、二晩ほぼ徹夜(合間に仮眠はした)
で、ほうれい線が5ミリくらい深くなったけど、ちゃんとお通夜も側にいてあげれてよかった。
(白い布が被されてるMちゃんの隣に座布団を
3つ敷いて寝てた私)

遺影も私が選んだし。
あの写真でよかったかなぁ?

死んだら速攻で虹の橋に走ってくわ!
先に逝って待ってる飼い犬や猫に会えるんが
楽しみ!


そう言ってたMちゃん。

もう会えたかな?

四十九日まではまだこっちかな?
来月、その子らの骨と一緒に散骨するからね!
(四十九日の法要後、Mちゃんの意向で海洋散骨)


船を一隻チャーターしての初の海洋散骨!
船好きな私としては楽しみだぁ。



Mちゃん、癌になってからは癌が原因で友達に
LINEをブロックされたり無視されたりと
嫌なこともあったけど、わかってよかった、
少なくとも、私が選んだサポートメンバーの
みんなは当たりやったわ!

そう笑顔で言ってた。


私も当たりくじだったんだ(笑)

亡くなる前は、大事な友達って言われても
何か気恥ずかしさが勝っちゃってね。
サラーって流した気がするけど、、、


亡くなった後、思うのは…


がっつり友達やったね!!


幸せはなるものじゃなくて気づくものやけど、
友達もそうなんだね。
作るものじゃなくて、気がついたら友達に
なってたわ。


もう猫話ができないのが残念やけど、
Mちゃんのチュールのあげ方を見てから
(0.001gも残らんくらい搾り上げるやり方)
私も真似するようになったよ!


ついつい夜になるとMちゃんちの家の
電気がついてるか、確認しちゃうんよね。

その度に真っ暗な家を見て
あぁもう灯りをつけるMちゃんはいないんだ、、

それを再確認して寂しくなるけどね。


仲良くなったきっかけの猫たちをこれからも
大事にしながら楽しく生きてくよ。

ありがとう、Mちゃん。












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