【聴き逃し名盤を探せ】Metal Hammer writers' top metal albums of 2021
今年も発表された”Metal Hammer”誌の音楽ライターが選ぶベストアルバム20選。32名の編集者・ライター達が2021年のアルバムTOP20を選んでくれています。
Louder(Metal Hammer), Kerrang!, Blubbermouthといったメタル系音楽サイトのレビューもサクッと目は通しているものの、英語の分かりづらさ(ビジネス英語では見慣れないような表現や俗語がやたら多い)や批評スタンスの違いもあったりして、メタル新作情報網はどうしても日本語で日本人が発信しているものが中心になってしまいがち。そうした日本語文化圏で閉じてしまっている視点を補正しながら、グローバルでのメタルシーンの潮流を掴めること、そして単純に聴き逃してしまっていた未知の良盤に遭遇が出来るという点でも、個人的には大変ありがたい企画。
毎年何となく感覚的に複数のライターに取り上げられている作品や、No.1に選出されたものの中から未聴作品の掘り下げ作業を行うのですが、今年はちょっと統計的に集計を行い、全640枚の作品からTOP20を選出。その中から未聴作品をピックアップし、聴き漏れの名盤がないかを調べてみました。
順位の重みを結果に反映させるべく、以下のルールでウェイトを付けて、Excelのピボットテーブルを使い集計してます。
No.01 ・・・・・・5点
No.02 - No.05・・・4点
No.06 - No.10・・・3点
No.11 - No.15・・・2点
No.16 - No.20・・・1点
まずはTop20の結果から。
自分のTop25選出作品は水色、Top25選出外だけれど良作として本文で紹介したものは緑色、聴いたけどあまりピンと来なかったものは灰色、未聴作品は黄色に色分けしてます。
水色の盤では、個人的にも名盤認定(No.3選出)していたGojiraがやはり強かったですね。読者投票でも1位と多くの支持を集めていた作品だけに至極納得のNo.1ランクイン。またTrivium、Iron Maiden、Mastodon、Carcass、Helloweenといった大御所は当然のランクインながら、ユニークなニューウェーブxゴシックメタルの融合サウンドを聴かせてくれたUnto Othersも上位に挙がってきているのが意外でしたね。良いセンスしてます。
緑色では、Spiritbox、At the Gates、Tribulationも、それぞれ読者投票でも2位、27位、39位と支持を集めていたこともあり納得のランクイン。さすがに読者投票には出てこなかったThe Ruins of Reverestみたいな難解でマニアックなアーティストがちゃんと高く評価されてるのは嬉しいですね。
全体を通して見てみると、個人的に評価していた作品(水色と緑色)が11枚あるものの、未聴盤(黄色)が9作品と全体の半分近くを占めており、しかも名前すら知らないアーティストもいくつかあるという結果に、自分の情報網というか目利き力はまだまだと痛感させられたという感じでしょうか。
ということで未知の名盤に出会える期待を胸に、Employed to Serve、 Rivers of Nihil、 Converge & Chelsea Wolfe、 Turnstile、 Møl、 Sleep Token、 Wolves in the Throne Room、 Urne、 King Womanの9アーティストの作品をストリーミングサービスで何度か視聴。全作品のレビューを行い、5段階評定(5:Top25クラスの名盤、4:良盤、3:平均点 2:イマイチ 1:退屈・駄作)をしてみてみました。
04 Employed to Serve - Conquering
Metal Hammer読者投票では46位。米国系グルーヴメタルとメタルコアの要素を程よくブレンドさせた感じのサウンド。Voは絶叫系パートが多く、正直少し単調な印象を受けます。ビートダウンの使い方やコーラスの入れ方などはハードコア的で、ギターソロになるとメタルらしさが前面に出てきます。Lamb of God的なところもありますが、あそこまで滾る感覚はないですね。Code Orangeを意識したようなノイズやカオティックなパート、ブラックメタルやデスメタル的アプローチの導入など、個々の要素を取り出すと結構色々やってる割には、全体を通すとメリハリをあまり感じません。個々の曲が特に悪いわけではないのですが、似た印象の平均点レベルの曲が続いていることもあり、何度も聴きたくなるような訴求力には欠けてるように思えます。結局曲のクオリティが一定ライン以上に突き抜けていない、というのがその主要因だと思われます。(評点:3)
06. Rivers of Nihil - The Work
Metal Hammer読者投票では12位と高評価。スピードに依存しない、どっしり腰の据わったプログレ色のあるデスメタルバンドかと思ったのは最初だけ。プログレッシブというかエクスペリメンタルな展開の多い、極めて個性的なエクストリームメタルバンドですね。全体的な質感はポストメタル的でもあり、グロウル使ったり、ヘヴィなリフを使ったりしてても、サウンドは妙にアーティスティックな雰囲気を漂わせてます。曲のダイナミズムの作り方が巧みで、適度にまぶしてくる激情パートが非常に生きていますね。また随所に出てくるメロディも取って付けた感がなく、曲の全体像の中で有機的に機能してます。Dream TheaterやYesみたいなインスト合戦やサックスを使ったKing Crimson的アヴァンギャルドな展開、Between the Buried and Me的駆け抜ける変態曲まであって、サウンドの懐は広いですね。独創性もあり面白い作品だと思います。(評点:4)
07. Converge & Chelsea Wolfe - Bloodmoon: I
Metal Hammer読者投票では25位。これはリリースされたのも知っていたし、楽しみに聴こうと思ってたのに完全に失念していた作品。ノイジーでダークだけどメロディアスでエモーショナルな聴後感。かなり暗い感情表現をしているはずなのに、不思議と重苦しさを感じません。ハードコア的な激情ボーカルチューンでも、うまくメロディを溶け込ませているので、聴きやすいというか、今までのConvergeとはまた一味違ったフックがありますね。激情ハードコア、暗黒フォーク、ノイジーかつエモーショナルなハードロック、Alice in Chains的な口ずさめる陰鬱グランジ、破壊的なブルースと楽曲の振り幅そして表情も多彩。チェルシー・ウルフの歌の表現力、存在感の高さも、本作の格を更に上に押し上げてくれてます。とにかく楽曲のクオリティが極めて高いし、音の独創性の高さも流石。年間トップ10クラスの名盤。これを聴き漏らしていたのは失態でしたね…。(評点:5)
10. Turnstile ‐ Glow On
Metal Hammer読者投票では21位。これはメタルではなく、メロディックハードコア/パンクですね。でもギターソロが入ったりとハードロック感覚はかなり強いです。多彩なアレンジや曲調が出て来て、相当懐が深い。コンポーザー/アレンジャーとしてかなりの職人的センスを持った連中ですね。各方面で評価が高いのも頷けます。骨格はメタルではないですが、メタリックなリフも違和感なく出て来てメタルファンにも受けそう。ボーカルの声質に加え、サーフロックやR&B的要素を取り入れたりと、音の方向性は違えど、Volbeatに近い引き出しの多彩さを感じました。The OffspringやFoo Fightersとか聴く感覚でリラックスして楽しみましょう。(評点:4)
10. Møl ‐ Diorama
Metal Hammer読者投票では33位。AlcestやDeafHeavenのような爽やかに躁状態で突っ走るブラックゲイズ系。DeafHeavenが脱ブラックゲイズしてしまった中、メタラーが好きそうなブラックゲイズサウンドど真ん中を突いてきてるだけに、この手の音の愛好家には貴重な存在と言えるのでしょうか。サウンドの新規性よりも曲重視系。シューゲイザー的な淡いメロだけでなく、ギターで濃い目のメロディを紡ぐなど、メロディの濃淡の付け方のセンスが抜群。また静と動の使い方が非常に滑らかで、爆発するパートもアドレナリンが一気に上がる仕掛けになってて気持ちが良い。リフ&リズムは結構ヘヴィなメタリックな展開も見せる箇所もあり、躁状態で突っ走る爽快感だけでないカタルシスも得られます。(評点:4)
13. Sleep Token - This Place Will Become Your Tomb
Metal Hammer読者投票では18位と高評価。Linkin Park、Bring me the Horizonが発展させたエレクトロ/オルタナティブメタル・サウンドをベースに、テクニカルな演奏を採り入れて発展させた個性的バンド。音像的には、音圧はあるけど、腹の底から重くない系。ボーカルは、独特のゆったりとした節回しでメロディを歌い上げる個性派。声質もファルセットを織り交ぜた歌い方もソウルミュージックっぽい肌触りで、あまりメタル界隈にいないタイプですね。曲調はかなりポップでメロディアス。ギターがあまり主張しないR&B的な感覚の曲もあり。でも、リズムも曲展開も結構複雑なことやってます。サウンドの指向は個性的で面白いんですが、個々の楽曲にもうあと一歩強いフックがあれば、もっと入り込めるなと思いました。歌メロはかなりメロディアスなはずなのに、なぜかメロディがそこまで印象に残らずで…。(評点:3)
15. Wolves In The Throne Room - Primordial Arcana
Metal Hammer読者投票では31位。シンフォ系ブラックメタルですが、非常に暗い雰囲気。メロディは明瞭ながら、寒々しい感じがします。ポストブラック的なパートやアンビエントにも通ずる展開は、呪術的で少し怖い。ドラマティックな疾走パートとメロウなパートの配置も上手いし、この手のバンドとしては平均点レベルには仕上がってるとは思います。スキップしたくなるような退屈曲は確かにないですが、でもなぜか何度も聴きたい欲求に駆られない。これはWolves in the Throne Roomじゃないと聴けないなと感じさせる要素が少ないからかも知れません。もう一工夫何かが欲しいアーティストですね。惜しい。(評点:3)
20. Urne - Serpent & Spirit
Metal Hammer読者投票では40位。NeurosisやCrowberみたいな荒々しい重量級のスラッジ/ストーナー系リフで攻める楽曲を中心に、プログレメタル的要素を交えた個性派。サビになるとElderみたいなヘタウマ系Voが、朗々と歌い上げるキャッチーな展開が聴けます。ただし、このバンドのキーマンはギター。とにかくリフセンスが素晴らしい。攻撃的スラッジーなリフからドゥームゲイズ風まで、使い分けのセンスが抜群。エピックドゥーム風のメロウなフレーズの入れ方も良いですね。またリズム隊も緩急が効いてて気持ちが良い。盛り上げ方が分かってるなと思います。Mastodon的なテクニカルなインストパートやHigh on Fireみたいな轟音リフの応酬が聴けたりと、引き出しも広く、楽曲に飽きがこない。次から次へと豊富なアイデアが楽しめます。年間ベスト25に入れても良い力作。(評点:5)
20. King Woman - Celestial Blues
Metal Hammer読者投票は選外。女性Voのドゥームメタルと言えるんだろうけど、サウンドデザイン的には相当な個性派。ボーカルにメタル要素はあまりなく、ブルース、フォーク、オルタナティブ、エクスペリメンタル、ジャズなど、色んな要素が散りばめられています。全体的にとにかく気怠い感じ。でもたまにブラックメタルとかマスコアみたいな絶叫もあったりして結構怖い。歌が前面に出ているんだけど、メロディアスとかエモーショナルって以上に、強く残る印象は不気味さ。エコーのやたら掛かった音と狂気を感じさせる歌が合わさることで、精神の闇ををさらけ出しているようなヤバい雰囲気を醸し出しており、かなり不安定な気分にさせられます。独創性は十二分だし、存在としては面白いとも思いますが、曲が良いか、楽しめたかと言われると正直どうなんでしょうね…。ただ、唯一無二の音世界だけあって、妙に惹かれる部分もあるので、もう少し聴き込む必要があるのかなと思ってます。(評点:3)
編集者・ライターのチョイスということもあり、全体的に新しいスタイルや表現にチャレンジしている作品が多かった印象。「こんな新しい音を評価できる自分」といったセンスの誇示という側面もあるでしょうし、プロの批評家としてシーン全体を俯瞰して見られる視野の広さということもあるのでしょう。好き嫌いはあるにせよ、自分の知らないところにメタルの音楽的可能性を感じさせてくれるアーティストが沢山存在しているんだなと痛感。今年はより視野を広くもって音楽に対峙していきたいなと思った次第です。
また全9作品のうち、Converge & Chelsea WolfeとUrneの2作品が5点ということで、2021年の聴き逃し名盤の探索という今回の目的も見事に達成することが出来ました。前回投稿のBest metal album of 2021と合わせて、参考にしていただければ幸いです。
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