Best Metal Albums of 2022
改めて22年のメタルシーンを振り返ってみると、印象的な潮流の1つとして、今までメタル発展途上エリアの印象が強かった日本を含む非英語圏アーティストの躍進が挙げられるかと思います。歌詞がほぼ聞き取れないグロウル/スクリームスタイルのVoが主流となり、メタルを英語で歌う必然性が薄れたことによって、アングロサクソン系文化の追従にこだわらない(憧憬しない)非英語圏のアーティストが増加。結果自然発生的にメタルシーンのグローバリゼーションが進展、特に今年はその新しい音楽的可能性が一気に花開いた1年であったように思います。
次に印象的だったのが、アーティストのジェンダーレス化。実際今回自分の25枚のセレクションを見ても、6アーティストがジェンダー混成メンバーとなっており、しかも女性メンバーがいるからこその音のユニークネスを確立出来ている点がポイント。男性優位的な感覚の強いメタルというジャンルにも、確実に変化の兆しが表れてきているように思えます。
ちなみに個人的には、昨年同様にVo主導のメタル復権を期待しつつも、まずは新鮮な驚きを与えてくれる作品にどれだけ巡り会えるかという視点で日々のメタルライフを楽しんでおり、その点ではかなりの数の充実作に巡り会えた1年でした。したがって、今回の25枚のセレクションもかなり迷いに迷った挙げ句の選択で、最終的には、
・逸脱/過剰の中にあるポップ性(耳残りの良さ/口ずさみたくなる中毒性)
・シューゲイザー等、他ジャンル音楽のメタル内昇華の面白さ
・HR/HMスタイルの持つ美点への拘りの潔さ
のいずれかのポイントに引っ掛かったものが競り勝った感じてす。
それでは、まずは1位~10位までのセレクションの紹介から。
01. Ghost - Impera
02. Cave In - Heavy Pendulum
03. Boris - Heavy Rocks
04. Zeal & Ardor - Zeal & Ardor
05. Kreator - Hate Über Alles
06. OU - One
07. Animals As Leaders - Parrhesia
08. Lillian Axe - From Womb To Tomb
09. Elder - Innate Passage
10. Destrage - SO MUCH. Too much.
1位 Ghost - Impera
スウェーデンのハードロックバンドの5th。今作では、80年代アリーナロックへのリスペクトがダイレクトに反映された、超高品質メロディアス・ハードロックを徹底追求。曲作り、アレンジ、プロダクションなど全盛期のBon Jovi, Foreigner, Europeなどに匹敵する職人技が満載。またその一方で、ダーク&ミステリアスな初期Ghostが持っていたアングラメタルな要素も違和感なくアルバムに溶け込ませているところが単なる高品質メロハー系バンドとは異なる凄さで、ランディ・ローズ期のオジー的な才覚を感じます。とにかく聴いた回数、アフィニティ、ジャンル内インパクトの全ての面で文句なくNo.1選出ですね。
2位 Cave In - Heavy Pendulum
米国のポストハードコア/オルタナティブメタルバンドの7th。ヘヴィなロックの真骨頂はリフにありを痛感させてくれる作品で、イントロのリフ一発で持っていかます。スラッジ、70年代ハードロック、プログレ、グランジ、ブルース、シューゲイザー、ポストロックなどヘヴィ&ノイジーな音楽の集大成的なスケールの大きさ。音像的にはへヴィですが、ソウルフルな歌が光っており(ヘヴィブルース的なM4が圧巻)、エクスペリメンタルながらも歌モノ作品として成立している点がまた素晴らしいですね。
3位 Boris - Heavy Rocks
結成30年を誇る日本のへヴィ&エクスペリメンタルなロックバンドの通算28作目。「現代メタルガイドブック」の影響で触手を伸ばしたのですが(正確には本を読んで先に聴いた友人からの推奨)、これがまたぐうの音も出ないカッコ良さ。アルバムによって、サウンドスタイルが異なりますが、こんな凄い音の出せるヘヴィロックバンドを知らずに過ごしてきたことを後悔するレベル感。スラッジ、インダストリアルメタル、アヴァンギャルドメタルを、ガレージパンクバンドが型にハマらない勢いで演奏してる感じで、混沌としつつも、妙に耳残りの良いサウンド。繰り返し聴きたくなる中毒性があります。
4位 Zeal & Ardor - Zeal & Ardor
スイス系アメリカ人のManuel GagneuxによるプロジェクトZeal & Ardorの3rd。発想、立ち位置の面白さ先行のアーティストという印象から、音楽的完成度を一気に高めた大躍進の1枚。特徴であったブラックメタル×アフログルーブ要素はもちろん健在ながら、骨格は強烈なグルーヴメタル。音色選びのセンスや挑戦的なのにキャッチーな曲作りの巧さは、最盛期のトレント・レズナー的。シューゲイザー要素(ブラックゲイズ)を躍動感あるグルーヴメタルの文脈に融合させているセンスも抜群。
5位 Kreator - Hate Über Alles
ドイツのスラッシュメタル・レジェンドの15th。基調にあるのは攻撃的なスラッシュメタル(Violent Revolution以降のスタイル)ですが、今作はイントロや展開部における正統派メタル要素の織り交ぜ方に神経が注がれており、そのセンスが抜群。しかも緻密に構築されたサウンドなのに、血湧き肉躍る感覚が全く失われていないのが最高。80-90年代前半に過激な表現により音楽的ピークを一度作りながらも、音楽的スタイルを微妙に変遷させながら、第2のピークを作り出し、それを長年維持・発展し続けている逞しい創作力にはただただ感服です。
6位 OU - One
中国人と米国人の混在バンドのデビュー作。女性Voをフィーチャーした、ジャズ出身者による難解さとポップさのバランス感が絶妙のプログレッシブメタル。敢えて音を言語化すると、音響系ポストロック+デヴィン・タウンゼント+J‐Pop+Djentといったところでしょうか。キュートな印象の女性Voの歌メロが凄く印象的で、Portishead的な繊細さとエキセントリックさを感じさせてくれます。CynicやAzusa等のインテリジェントな雰囲気のテクニカルメタルが好きな人にお薦め。
7位 Animals As Leaders - Parrhesia
鬼神トーシン・アバシ(G)率いるインストプログレメタルバンドの5th。超絶技巧による複雑な曲展開のインスト楽曲なのに、耳残りはキャッチー。演奏技術や音楽理論が分からなくても、直感的に気持ちよく聴けるのが良いですね。かつてのDream Theaterには、複雑な長編曲のインストパートでも全編脳内再生出来るくらいのフレーズや展開の耳残りの良さがありましたが、その感覚にかなり肉薄している気がします。
8位 Lillian Axe - From Womb To Tomb
米国のベテランハードロックバンドの10th
。メロディアスなグラムメタル、ハードロックバンドの印象が強いですが、本作はDream TheaterやPain of Salvation的なプログレメタル成分が強くなっており、正直ここまで現役感満載の音で攻めてくるとは驚き。ただ、表面的なスタイルの変化はあれど、メランコリックな雰囲気の中、一筋の光明が射し込むようなキラーフレーズを挟んでくる、独特のメロディ展開は全くもって健在。スティーブ・ブレイズの琴線に触れまくりのメロディアスなギターも変わらず素晴らしい。
9位 Elder - Innate Passage
マサチューセッツ出身のストーナー/プログレメタルバンドの6th。前作もそうでしたが、さらにストーナー/ドゥーム路線から離れたサウンドに。Yes, Rush, Anathemaなどの各時代のプログレ名手達の美点を踏まえながら、ポストロック的音響感覚をまぶし、更に持ち味であるサイケデリックなヘヴィネスが堪能出来る快作。ドゥーム系ファン向けバンドに留めておくのはあまりに勿体ない。聴くべき人に届いて欲しいなと思います。
10位 Destrage - SO MUCH. Too much.
イタリアのプログレメタルバンドの6th。メロデス要素は一掃されて、よりジャンル横断感溢れるサウンドに。デヴィン・タウンゼント、Wartariなどにも通じる、狂気と爽やかなポップ性が同居している点が特徴。激しく展開する曲調ながら、親しみやすいメロディとフックある展開の織り交ぜ方が抜群に上手い。一歩間違うとテクニック博覧会になるところを、絶妙なラインでポップ・ミュージックとして機能させています。Stone Temple Pilotsの大名曲"Vasoline"のカバーも面白い。
続いて、11~20位。
11. Voivod - Synchro Anarchy
12. Rolo Tomassi - Where Myth Becomes Memory
13. Dream Widow - Dream Widow
14. Treat - The Endgame
15. Ozzy Osbourne - Patient Number 9
16. 明日の叙景 - アイランド
17. Bloodywood - Rakshak
18. Coheed And Cambria - Vaxis – Act II: A Window of the Waking Mind
19. Ithaca - They Fear Us
20. Oceans Of Slumber - Starlight And Ash
11位 Voivod - Synchro Anarchy
カナダのプログレメタルレジェンドの15th。プログレを標榜するメタルバンドは数あれど、一聴して彼等だと分かるような記名性高い音を鳴らせるバンドはごくわずか。それを意識してか、過去作以上にヘンテコな彼等しか出せない不協和音やノイズ満載の作品に。それでいて奇妙なポップさもあり、不思議と親しみやすい音に仕上がっているのが驚異的。それにしてもピギーの後任ギタリスト・チューウィーの遺伝子継承っぷりは半端ないですね。奏法だけでなく音選びのセンスまで引き継いでるのが凄い。
12位 Rolo Tomassi - Where Myth Becomes Memory
UKのマスコア/メタルコアバンドの6th。The Dillinger Escape Plan系統のマスコア路線から更に進化。シューゲイザーのメタル的解釈の進化版とでも言うべき音で、マスコア的なハイパースクリーム路線と流麗なギターノイズ&透明感あるフィメールボイスの世界観が美しく同居。たおやかで美しいメロディのもたらす多幸感に包まれながら別世界に連れて出してくれる音の世界観は、シューゲイザーの名手・Rideを想い出しますね。
13位 Dream Widow - Dream Widow
架空のメタルバンドという体裁の、一見おふざけプロジェクト的ですが、中身を聴くとデイヴ・グロールの強烈なメタル愛を感じる作品。アンダーグラウンドのエクストリームメタルからゴシック/ドゥームに至るまで、単に表面的になぞったのではなく、深く聴き込んでいるからこその味わい深い楽曲コンポーズセンスが素晴らしい。とにかくリフが抜群に良いですね。アングラメタルの真骨頂はリフにありを改めて確信しました。
14位 Treat - The Endgame
スウェーデンのベテランハードロックバンドの9th。直球ど真ん中のエッジの効いたメロディアスハードロックサウンドを徹底的に追求。前作"Tunguska"も良盤でしたが、今回も素晴らしい完成度。サビの盛り上がり、印象度、エモーショナルさが凡百のメロハーとは段違いですね。艶かな歌は全盛期と比べて全く遜色無いですし、シェンカーばりに印象的なフレーズを叩き込むドラマティックなギターがまた素晴らしい(もっとギターヒーロー的に評価されても良いギタリストですね)。
15位 Ozzy Osbourne - Patient Number 9
ソロ通算12作目。オジーお得意の親しみやすいメロディを主軸としたオーソドックスな大人のハードロック作。"Over the Mountain"や"Crazy Train"のような歴史的名曲はないものの、過去の名盤における「名曲の脇を固める数々の良曲」に匹敵する佳曲が満載。ここ数作では、最も楽曲の平均値が高い作品だと思います。ジェフ・ベック、エリック・クラプトン、トニー・アイオミ、ザック・ワイルドなど個性豊かな名ギタリストを多用し、アルバムにアクセントがついてるのも高ポイント。
16位 明日の叙景 - アイランド
日本のポストブラック/ブラックゲイズバンドの2nd。このサブジャンルの金字塔であるDeafheavenの"Sunbather"が切り開いた躁状態で駆け抜けるメロディアスブラックメタルの地平線を更に押し広げる快作。フレーズの至る所に、J-POP的フィーリング=ポップさがあるのが特徴。M2"キメラ"は、未聴の方は是非MVを観て欲しいですが、ビジュアル系にも通じる印象的なアルペジオを導入したポップなブラックメタルの新しいスタイルで、日本の夏の都会的空気感をサウンドと映像で見事に描き切っているように思います。
17位 Bloodywood - Rakshak
インド出身の新世代メタルバンドのデビュー作。ラップ/トラップメタル的なコンテンポラリーなメタルのテクスチャーに、インドのポップミュージック=ボリウッドミュージック要素を絶妙に融合した超個性的サウンド。この一見異質なような組合せが想像以上にハマるのは、音楽的相性の良さと言うよりも、彼等の融合センスの高さ故かと思われます。音自体の持つ速効性・瞬発力の高さはBabymetal的で、「ポップ・ミュージックにおけるメタル」としての完成度は極めて高いですね。
18位 Coheed And Cambria - Vaxis – Act II: A Window of the Waking Mind
米国のエモ&プログレバンドの10th。伊藤政則氏も推してるバンドではありますが、プログレメタルというより、プログレ風味のメロディアスハードロックと言った方が、聴くべき人に届きそうな印象の作品。Harem Scaremを80年代Rushが演奏してるかのようなイメージを想像してもらうと分かりやすいかもしれません。アルバムの大半はメロハー系ですが、後半3曲だけは、複雑な展開のプログレメタル曲で、こちらも聴き応え十分。
19位 Ithaca - They Fear Us
Code Orange"Afterneath"以降の新世代メタルコアサウンドを奏でるUK出身バンドの2nd。女性Voがハイテンションのスクリームとエモーショナルな歌唱を巧みに使い分けていて、強烈なパッションを感じさせてくれます。音の質感としては、Deftones的な粘着性が強く、R&Bなど非メタル的メロディ展開が特徴的。そこが彼等のオリジナリティの源泉であり、その個性を更に磨き上げることで、今後更に化ける可能性を秘めています。
20位 Oceans Of Slumber - Starlight And Ash
テキサスのブログレメタルバンドの4th。「プログレッシブ・ニューサザンゴシック」とも言われる独特の陰影に富んだ世界観が特徴的なバンド。特筆すべきはパワフルかつソウルフルな女性Vo。抜群の歌唱力と存在感で、まるでビョークのような、歌声だけで聴き手を別世界に誘うような訴求力を持っています。また彼女の存在感に対抗出来る緻密な楽曲構成力、アンサンブルの完成度など、他メンバーの貢献度も見逃せません。
最後に、21~25位。
21. Alter Bridge - Pawns & Kings
22. Disturbed - Divisive
23. Candlemass - Sweet Evil Sun
24. Rammstein - Zeit
25. Mammoth Weed Wizard Bastard - The Harvest
21位 Alter Bridge - Pawns & Kings
元Creedメンバーによるポストグランジ系バンドの7枚目。今の時代のメインストリームメタル。古き良きメタルの真骨頂である、エモーショナルなハイトーンVoと重厚感溢れるキャッチーなギターリフのコンビネーションで潔く勝負してるのが良いですね。直ぐに口ずさめる速効性の高いキャッチーな楽曲が満載。
22位 Disturbed - Divisive
今やセールス的にも、存在的にも米国メタルを代表するバンドであるDisturbedの8枚目。新路線が今一つだった前作から一転、独特のシンコペーションとエッジの鋭いリフを基調とした、彼等らしさを全面に押し出した快作。デイヴィッド・ドレイマンの切れ味と力強さと哀愁を兼ね備えた最強のVoが存分に生きるのはやはりこの路線だと納得。
23位 Candlemass - Sweet Evil Sun
エピック・ドゥームのパイオニアの13th。前作に引き続き、ヨハン・ラングクイストの力強い歌唱を活かした超重量級の熱いサウンドで、荘厳さよりも、ハードロック的な生々しさやエナジーの発散に力点が置かれている印象。Judas Priestの名作"Angel of Retribution"に通ずる、骨太の中央域Voの魅力を存分に活かした重厚なドラマ性が堪能出来ます。
24位 Rammstein - Zeit
ドイツで最もワールドワイドで成功しているメタルバンドRammsteinの8th。アルバムという体裁の良さを活かした構成美溢れる作品という印象。劇的な冒頭3曲と、ザクザクとしたリフの刻みが心地良い軽快な次3曲の対比が素晴らしい。後半戦は濃厚さ増し。劇的なバラードを挟みつつ、適度な変態・前衛のエッセンスを塗した重厚メタル楽曲が揃っていて、こちらも味わい深い。
25位 Mammoth Weed Wizard Bastard - The Harvest
UKのサイケデリックメタルバンドの4th。ドゥーム的なヘヴィネスと浮遊感ある女性Voのコンビネーションによる、スペイシーなヘヴィ・シューゲイザーサウンド。キーボードや電子音の怪しい響きが非常に個性的。ジャンルは全く違えど、Buffalo Daughterがドゥームメタルをやったら、こういう中毒性のある音になるのかも知れません。
以上ベスト25の作品紹介でした。ちなみに最後まで候補に残ったのは、Imperial Triumpant, Chat Pile, Miscreance, Amorphis, Behemoth, Defreshed, The Cult といったところで、例年であればおそらく選ばれていたであろう充実作だったように思えます。
最後に各アルバムから2曲ずつピックアップしたプレイリストを作りましたので、お楽しみください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?