世の変わり目
2016年は世界史の教科書に載り、子供達が覚えなくてはいけない年になることでしょう。
6月にはイギリスの国民投票によって、イギリスのEU離脱が決定しました。これはヨーロッパのこれからのかたちをはっきりと変える出来事です。
そして11月。アメリカ合衆国の大統領選挙では、ドナルド・トランプがヒラリー・クリントンを打ち破り、次期大統領になることになりました。このことは世界史に深く刻まれることになるのかどうか、そしてどういう意味を持ち、どう位置付けられることになるのかはまだわかりません。選挙結果が決まってからというもの、従来の新聞やテレビをはじめとしたマスメディアや世界中の専門家の予想を裏切ったという驚きが広がり、いつもの新大統領誕生とはだいぶ異なった空気が遠く離れたここ日本でも感じられます。
トランプは選挙戦を通じて、過激な移民排斥やイスラム教徒入国に関する暴言などでひんしゅくをかい、10月に、金持ちで有名人だからプッシー(女性器を表す俗語)をつかむようなことでも何でもできると過去に発言していたことが明るみにでてからは有力支持者もかなり離反しました。
それにも関わらず、トランプは勝利しました。
トランプが勝ったのは、低所得にあえぎ、社会的評価も落ちてきた白人ブルーワーカーのうっぷんがたまっていたからだという説も目にしましたが、大金持ちのトランプを低所得者が熱烈に支持するなんて不思議だと思いました。低所得者の代表どころか、自費で大統領選をまかなえるほどの金持ちだというのに。
the guardianの記事(White and wealthy voters gave victory to Donald Trump, exit polls show 2016.11.9掲載) によれば、全体の69%を占める白人の58%がドナルド・トランプに、37%がヒラリー・クリントンに投票したとのことです。前評判からも白人層に強いということでしたが、これは本当だったようです。
大学教育を受けていない人の67%がトランプに投票しています。この支持の高さも事前の予想とあっているように思います。
では多くの大卒がヒラリー・クリントンに票を投じたのかというと、そういうことはないようです。ヒラリー・クリントンに入れたのは大卒の45%に過ぎません。大卒の女性の半分以上、といってもぎりぎりの51%はヒラリー・クリントンに入れましたが、大卒男性の半分以上(54%)、そして大卒女性も半分近く(45%)の人が、ドナルド・トランプに投票しました。
収入面を見ていくと、年間5万ドル以下の収入の人は確かにドナルド・トランプを支持する比率が多いですが、ヒラリー・クリントンの36%に対して41%と劇的な違いはありません。有権者の64%を占める5万ドル以上の収入がある人の49%がドナルド・トランプに、47%がヒラリー・クリントンに投票しました。
データを見る限り、「社会的・経済的に苦しい立場にある白人の不満が爆発した」ということではないようです。経済的に恵まれた知識人への反乱、ではありません。そういう人の半数以上も投票しての結果です。
総得票数ではヒラリー・クリントンが僅差で上回っていたようですが、ドナルド・トランプにも半数近くの人が投票したことは事実です。
世界中のマスコミや専門家は、暴言を吐き、時に感情をおさえられないドナルド・トランプが世界で最も力を持つ職と思われるアメリカ大統領の座につくことに嫌悪感があり、そのことがヒラリー・クリントン優位という報道につながったり、分析に影響を与えていたようにも思えます。また世論調査も今回、実情を反映していなかったことが明らかになりました。調査で聞かれた時の答えと違う行動をした人が多かったのかもしれませんし、調査手法が今の時代にマッチしていないのかもしれません。
政治は基本としては、とても素晴らしい人で応援したいから投票するというのが本当なのでしょうけれども、ガラリと変わるときはそういうことではなく、現状にもう厭気がさしすぎていて、とにかく変えたいという気持ちの集積が思わぬ力になるのかなと感じます。日本で自由民主党から民主党に政権交代があった際も、第一次安倍内閣下で閣僚の不祥事が相次ぎ、総理も体調のことで辞任し、福田内閣、麻生内閣ともに1年未満で終焉を迎えるという事態に、とにかく今と違う状況を、という選択をする人が多くいたという印象を受けました。逆に民主党から自由民主党に政権が代わった時も、外交や党内のごたごた、震災時の対応への不満が噴き出たように感じました。人間は新しいものが好きな面と、変わらないことに安心感を覚える面とを併せ持つ存在だと思いますが、現状に不満を覚えた時の「変えたい」というエネルギーの強さは想像以上だと政治を見ていると感じます。
ドナルド・トランプ氏に大統領になってほしいと熱狂的に支持していた人も少なくないでしょうけれども、その人たちだけの力では大統領になるほどの票は集まらなかったように思います。今の状況をとにかく変えたい。今の状況が4年、あるいは8年続くのはいやだ、と思った人の「厭だパワー」がトランプ大統領を生み出したように思いました。
アメリカ大統領選は、日本でも結果が刻々と報道されました。他国の選挙をここまで大々的に報道するのは異例のことでしょう。日本がとりわけそうなのかなと気になったのですが、英国のリチャード・ブランソン氏も大統領選についてFacebookに幾度となく投稿していましたから、やはり世界の大きな関心事であったのだと思います。それだけアメリカの影響は地球上のどこにいても大きくて、アメリカが何を良しとし、何をしていくのかが世界のあり方に深く関わっていることを実感します。
選挙戦を勝ち抜く資金を自前で賄うことができたトランプ氏は、これまでのワシントンの常識とは違った人材を政権にいれ、公約との着地点を探しながら政権を運営していくことでしょう。誰が大統領になっても何をするかの予測はつかないものですが、公職についたことのないトランプ氏についてはなおさらのことです。
今までにも増して、時代を見つめ切り開いていく力が、アメリカでなく日本に住む私たちにも求められているように思います。自分や自分の周囲の意見を大切に思うのと同じくらい、他の人が持つ意見を大切に聞くことができること、違う意見に対して拒否をするのではなく、その意見を持つに至った状況や環境を想像することの重要性を、2016年に起きた世界の動きは私たちにつきつけているように思います。
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