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メッセージBook『谷口雄也ー覚悟を力にー』(廣済堂出版)発売記念ーアイドル選手は、超えなければならないものなのだろうかーその3

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ー人気絶頂から脱アイドル宣言へーなんでそうなった? 

口絵のイラストは、娘が描きました(少女マンガ家のオノヤマ コズエ集英社の月刊『ココハナ』で連載マンガ描いてます。よろしく!よろしく!)

2014年ファイターズ ファンフェスティバル。UHBが協賛演出したこの年のファンフェスは、フジテレビ的なバラエティ展開によりすぎ、球場で見ているファンにとっては退屈極まりなく、札幌ドームには、お寒い風が吹いていた。その弛緩した空気を吹き飛ばし、一気に温め、会場を熱狂の坩堝にたたき込んだのは、選手によるミスコン。女装アイドル大会であった。

野球選手の女装大会は別に珍しいものではない。その多くは、伝統的に無骨な男が厚化粧して変な格好をしている様を笑う、いわゆるゲテモノ趣味である。(その根深き性差別問題については、ここでは問わないでおく)

しかし、この時のイベントは、そういう趣旨ではなかった。あくまでも誰が一番可愛いか、素敵な女の子に見えるかを争う。出場者は、チーム1の濃い系美男子ですばい榎下陽大、埼玉のダルビッシュと呼ばれし美麗男子、中村勝、可愛すぎるスラッガー谷口雄也、そしてでっかい隠し球、帝京高校出身、ドラフト8位指名でも一番可愛かった!一番可愛かった!石川亮。

その場にいたわたくしが、どんな体たらくであったかは、この際割愛させていたたくが、個人的な見立てでは、中村勝ーまさるってぃが一番のりのりで楽しそうだったし、ドレスも似合っており、綺麗だったと思う。榎下くん、えのりんは、みるからに嫌そうだった。石川亮ー女子高生をやった亮たんは、きっちりと役割を把握しており、その賢さを垣間見せるとともに、やはり最高に可愛かった!

で、要するに彼らは前座であった。この女装イベント企画は、初めから谷口雄也ー「きゅん」のためにある。出来レースだとわかっていても。主役の登場に会場は熱狂キャーキャーすごい騒ぎである。そうなって期待を裏切るきゅんではない。愛敬抜群、大サービスのお手振りで、当然のように優勝。アイドル業の自覚を強く感じる舞台であった。

その時の模様は、スポーツ紙はもちろんネット上でも大きな話題となり「可愛すぎるスラッガー」は真実に可愛かった的な扱いで、写真もたくさん出回ることになったし、今でもすぐに見ることができる。

でもその写真を上げることはしない。当の谷口くんが『メッセージBook』でも一切その話に触れていないし、写真も載っていない。あんまり触れたくない過去なのだろうと想像するしかないわけで…。

なのにここまで書くんかい!? 

仕方がない、谷口雄也ーアイドル選手としての分岐点は、ここにあるのだから。

可愛すぎるスラッガー=剛力彩芽にそっくりとされた、「谷口きゅん」のアイドル化は、つまりは「プロ野球選手なのに可愛い女の子みたいに可愛い」または「女の子みたいに可愛い顔なのにプロ野球選手」というーギャップ萌えーから生み出されていた。

「スラッガー」の豪快さと「可愛らしさ」のアンバランス関係と言ってもいいけど。その波の到達点が「剛力彩芽のコスプレ」だったと思うのだ。彩芽ちゃんに似ているー彩芽ちゃんになってみた。そこで風向きは急転する。

「まじ女の子じゃん」

きゅんちゃんの女装の感想を聞かれて、中田翔が、何の悪気もなく言ってしまったように。

「女みたいな男」ーは、男にとっては、侮辱、揶揄である、と歴史は語る。ましてやプロ野球選手のような「男らしい」とされる代表格の職業では、昭和の野球ならば致命的な弱点とされたかもしれない。

しかし時代は変わる。プロ野球ファンにも女性ファンが増え、ましてやファイターズ は北海道移転以来、観客の50%を超えて女性ファンが占めている。選手を好きになる志向も多種多様になって当たり前。

なによりも北海道日本ハムファイターズ になってから女性ファンをどばっと引きつけたのは、言うまでもなく新庄剛志という破天荒な昭和のプロ野球から逸脱した人生エンジョイ男だったのだから。以来のファイターズ ファンの資質は、昭和のプロ野球をスタンダードと想定している「俺たち野球わかってますから」層とは、あっけらかんと違うのである。

きゅんが、可愛いから好きになるのは、全然おかしくない。だって可愛いんだもん!応援するんだもん! で何が悪いの? わたしの勝手じゃん!?

すべてのファンがそうだって言ってるんじゃないですよ。(そもそも谷口くんのファンは、男性、それも中高年がすごく多いわけだし。彼らが「そうなんだもん!」と言ってるかどうかは、わかりませんし…)だけどそういうあり方を許容する地場が、北海道の野球ファンにはあるってことです。良くも悪くも昭和のプロ野球を知らず、魂に引きずってないからね。ゆえに。

「女の子みたいだから男らしくない」

とは、きゅんちゃんファンは、誰も思ってはいなかったと思う。むしろ逆に。

「こんなに可愛いのにプロ野球選手だなんて、めっちゃかっこいい!」

という感覚だったのではないだろうか。どうでしょうか。きゅんちゃんファンの皆さん。

けれども、この女装グランプリ以来、谷口雄也は、明らかに「可愛いアイドル」からの脱却を図るようになる。

チームの中でも「雄也は可愛いかもしんないけど、俺らに可愛さを見せなくていい」(大野奨太元選手会長)とか、もし自分が女の子だったとして、チームで彼氏にしたいのは誰かと問われて「谷口は、女々しいから(彼氏にしたくない)」と答えてしまった中島卓也とか、意図した訳では全くないのはわかっているが、ファンから見たらきゅんちゃんバッシングに見えるような発言もあった。

大野くんと中島くんの名誉のために言っておきますが、大野くんは、ただ自分がきゅんちゃんを可愛いと思ってるのが、なんか恥ずかしかっただけだと思うし、中島くんは、いつもの言葉足らずというか言葉間違いというか「女々しい」の意味を「女子っぽい」と勘違いしての発言だった。ぶきっちょなのは仕方ないけどさ…。

わたしは、そういう発言を見つけるたびに(これはまずい)と心配していた。先に述べたように、谷口雄也は、周りの視線、考えに敏感で、周囲の期待に応えようとする気持ちが強い性格なのだ。

「女みたいだ」と思われ「可愛さをアピールしすぎ」と思われ、実は嫌がられていると思ってしまったら? あっという間に「みんなを喜ばせることができる」と肯定されていた「可愛らしさ」は、役に立たないものとして、否定されてしまう。

とまあ、それはいかにも穿っている、考えすぎな、わたしの空想なのだとしても。きっとなんか色々わたしらには預かり知らないところで、人間関係とかあるんだろうし、時代が変わったとはいえ未だプロ野球界は、エグい魑魅魍魎の跋扈する場所でもあるんだし。野球ファンにもそれこそいろんな人がいるから、想像より酷いこと言われたり、されたりしたのかもしれないし…真相は、解明できませんけども。

可愛いキャラから抜け出したいーその気持ちは、いつまでも人気先行、顔ファンのアイドルみたいな位置付けではいられないという、しごく真っ当なプロ野球選手としての成長への欲求だと。もちろんわかる。

野球で勝負して、評価されなければ一流にはいつまでたってもなれない。それは真実。だから、だからこそ、わたしは叫びたかった…。

違う!違うんだよきゅんちゃん!

あなたの可愛らしさは、あなた自身の天性のもの。神様が与えたもの。

周りがどうこうじゃないんだよ〜〜〜〜〜。

生来の輝きを捨ててしまったら、谷口雄也の選手生命は、縮む。

野球選手の輝きは、いつだって生来の素地が、野球という技術に磨きをかけられ、プレイによって表現された間際に、結晶となって放たれるのだから。

わたしには、そうとしか思えなくても……あなたには、聞こえるはずもない。

きゅんちゃんは、脱アイドル宣言。

「普通の自分に戻ります」

とは言わなかったが。髪を伸ばすのもやめ、パーマもやめ。可愛い系の服装もやめ、地味で男っぽいというより、ややダサ目の大学生路線に変更。派手な露出もしなくなり、アイドル選手から普通の選手へと舵を切るのだった…。

だがしかし、残酷にも野球の神様は、谷口雄也に「普通の選手」であることは、許さなかったのである。

つづく 


























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