あと2試合。今季最後の札幌ドームに、数え切れない人達の想いが、さざ波となり、寄せては返すように響いていた。

142試合目 F×Bs 4対1 札幌ドーム

午後5時過ぎの福住駅。黄昏の秋空が広がる。多くの人が急ぎ足で道を歩く。ふと見やると30代くらいの女性が一人で歩いている。おかっぱ頭にグレーのパーカーボトムはジーンズ。肩には、白地に紺色のベルトが引かれたファイターズグッズのトートバックが下げられている。

お仕事帰りか、それともお休みの日なのか。ファイターズファンには、こうして一人で(球場でお友達と待ち合わせている人も)観戦に来る女性が多い。そう意識してみると。また一人、また一人と、そういう感じの女性が通り越していく。トートバックは、秋仕様なのか…。

彼女らは何を思ってファイターズを応援するんだろうか。そしてまた逆に、ファイターズは、彼女らに何をもたらしているんだろうか。

試合前、21年間の現役生活を終える決意をした、実松一成捕手の引退セレモニーが執り行われた。2006年に巨人にトレード移籍しているので、07年からファイターズファンになったわたしには、実松選手のプレーは、残念ながら記憶にない。あるのは、巨人時代の様子だけ。

スクリーンに映るルーキー時代から巨人を経て、再びファイターズに戻り2年が過ぎた顔つきの変遷に、長い時間を確かに感じ、巨人時代の印象との違いになんとなく納得した。プロ野球生活を始めた鎌ヶ谷から、その終わりにまた鎌ヶ谷に帰る。それもまた一つの美しいプロ野球人生。

鎌ヶ谷の青春時代、実松、森本稀哲 田中賢介で「三バカトリオ」と呼ばれていたって。今となっては、立派な先輩、三賢人みたいになってる。人間は変化し成長するんだなという良い実例。これからも鎌ヶ谷の若い人たちのために働いてくれたらいいなと思う。(再び、ジャイアンツに戻られました)

試合が始まる。相手は、最下位争いのしのぎを削ったオリックス・バファローズ。ファイターズのスターティングメンバーには、1番西川、2番DH田中賢介。ハルキは1000本目、賢介は1500本目のヒットがかかっていて打席をなるべく与える作戦。中田と近藤は休み。

なんといっても注目は、8番サードに入った9月にイースタンでホームランを打ちまくった絶好調男、今井順之助21歳。そして9番レフト 白村明弘27歳。 投手から打者転向したシーズン、初出場。

言いたくないけど、シーズン最終盤の消化試合で本拠地開催には、すでに球団から戦力外を言い渡された選手について、花向けのサヨナラ公演が用意される場合がある。北海道ゆかりの選手とか、ドラフト1位だったとか、地味だけど人気があったとか理由はそれぞれに。

順之助の抜擢は、もちろん来季への期待のためだけど、白村はどっちなんだろ?転向1年目で無しってことはないから、やらせてみたけどどんな塩梅か見極めるためなんだろうか。もやもや心配しながら。

「早く!早く!はくむーの打席見せて!」

とか勝手に騒いでいた。順之助は、見事に期待に応え、満塁でしぶとくタイムリーを打ってくれた。入団当初から群を抜いて落ち着きがあり、まとまった選手の印象だったけれど、やっぱり落ち着いているし、自分で考えてプレーする力があるように見えた。

一方、はくむーは…。打席でもベンチでもものすごく緊張しているようにしか見えなかった…。投手のときのあの覇気は、ふてぶてしさはどこへいった。白村よ…。打席では全部三振で終わってしまった。首脳陣の評価やいかに。

そんなこんなでドタバタ風味の打線は、それでも4点を先行。その間に、先発杉浦稔大は、オリックスを相手に、一人の打者も出さないーつまりパーフェクトーを続けていた。

5回までは、割といつものことだ。6回を三者三振に切って抑え球数は70越えたくらい。果たしてどうする。杉浦稔大、ガラスのエース。ルーキー以来、故障しないでシーズンを過ごしたことはない。ゆえに大事に大事にスケジュールを組み、厳格に管理して、終盤には中6日のローテーションで回るところまできた。

せっかくここまできたのに、パーフェクトさせるには、当たり前だが完投させなければならない。もしそうなって記録はできたとて、また肩壊したらどうすんだ?こんな消化試合なんだから、こだわる必要あるのか?でも一生に一度あるかないかのことなんだから…やらせるべきなのか…。

スタンドで何の決定権もないのにやきもきするファンは、わたしだけではなかったはずだ。いっそ一本打たれたほうがいいのかも…みたいな。

ベンチの判断は、一本打たれたら変える。だったと思う。

7回2アウトまでこぎつけた。球場には緊張感のゲージがどんどん上がって舞い降りてきている。三万人が固唾を飲む空気が、明らかにグランドの選手に伝染してるのが、わかる。

打たれるような気がする〜〜〜〜。しのげ!若い衆!

祈りも虚しく、オリックス・バファローズ最強打者、吉田正尚の打球は、一塁、清宮幸太郎のグラブをかすめてライトの奥へ抜けていった。強く速い打球だったのにまるでスローモーションのようだった…。

きよっぴ。幸太郎よ。野球の神様の声をよく聞けよ。

一本出てしまって、杉浦降板。今季最長6回3分の2。無失点。

消化試合とはいえ1年をかけて、一人の才能に溢れた投手を復活させ、チームに勝利をもたらす先発投手へと育てることができた。杉浦くんのプロ野球人生に想いを馳せれば、しみじみと感慨の深いゲームになった。

7回、3分の1をアウトにするべく、マウンドに向かったのは、左腕…えーと、誰かしら?3年ぶりに生で見たので、確認が遅れてしまった。

吉川光夫。ファイターズに帰ってきた光夫。ルーキー時から応援してきた我が家にとっては、特別な選手である。娘二人とスタンドから眺める姿は、格別のものがあった。

光夫は、何から何まで変わっていなかった…真っ黒すぎる鎌ヶ谷焼け以外は…。強いストレート、ファールファールファール、フォアボール、テンポ悪くてエラーを呼ぶ…などして1失点。自責点は0。9回表まで抑え、試合終了。ファイターズ勝利のマウンドに光夫が立っている。なんとも言えない奇妙な感じがする。

ほんとにジャイアンツにいたのかい? みたいな。

来年は、しっかり投げてくださいよ。光夫さん。

5位になり、結果が出ない中で、様々に批判されてきたチームの方針。1シーズンで登板した投手の延べ人数を更新し記録を作った。それは勝てなかったのだから問題はあるのでしょう。でもね。よーく見てみてね。

今年、ファイターズの投手の中で、大きな故障をしたのは、開幕前のニック・マルティネス。試合中の打球が当たる事故の上沢直之。そんなに投げてないハンコックとバーベイト。

入れ替わる先発陣、投げ続けてくれた中継ぎ陣には、完全リタイアはいなかった。先発に回った浦野っちが、途中退場し、これが大きに痛かったけれども、彼も最終的に投げられる状態に戻ってきた。

50試合以上投げた投手が何人もいるのに、この状況は非難轟々で否定されるようなものではないと、わたしには思える。むやみやたらに投げさせていたのではなく、状況判断しながら、投手のコンデションをしっかりみながら、ギリギリの綱渡りを、むしろファイターズは、やり遂げたんじゃないのだろうか。

オリックスから移籍してきた、金子チヒロもこの数年は、力を発揮していたとは言えない。もう晩年で通用しないと言う野球評論家だって多かった。そのちーちゃんも実力通りに結果を出せる投手へと舞い戻ってきた。

シーズンの5位惨敗の責任を追い、辞意を表明しているという栗山英樹監督。

監督の気持ちも態度もわかる。他のコーチ陣も大変に色々と責任を感じていることでしょう。だけど悪いことばかりではない。ファイターズというチームが、なそうとしていることは、表面的にはわかりづらく、ことさら玄人の野球人やプロ野球ファンを自認する古参のファンには、非常識に映り疑いと批判の対象になりやすい。負ければ、そら見たことか、だから俺(様が)言ってるだろうの大合唱。

わたしは、ただの素人ですから。なんもわからないと言えばそのとおり。

でも見つめている限り。見えてくるものは、目には見えない事柄が、ファイターズというチームの野球には、様々にあるということ。

その見えないものが見えてくるのは、もう少し時間がかかるんじゃないだろうか。作ってきたのは栗山さんなのだから、見届ける義務はあると思うけどね。

さて、どうなりますか。

多くの心の揺らめきを乗せて、札幌ドームは、明日のラストゲームを待つ。


ファイターズ 65勝72敗5分 




















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