Rie

本屋で働きながら、小さな糸屋をやっています。その傍ら小説を書いたり書かなかったり。その…

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本屋で働きながら、小さな糸屋をやっています。その傍ら小説を書いたり書かなかったり。その傍ら、生きてます。

最近の記事

ポケットに口紅を

 綿菓子の端を親指と人さし指でつまんで引き伸ばしたような、薄い雲が浮かぶ空を見あげながら、あ、と思った。口紅をひき忘れた。  マスクをすることが習慣になっていた日々が過ぎ、かねて、「わたしたちが日常だと思っていたはずの日常」が、いたるところに戻ってきた。  とりわけ通勤時の地下鉄で息苦しさを感じていたわたしは、ある日、きっぱりと、マスクを取り去ることを決意した。  職場ではマスクの着用が義務とされているので仕方がないが、それ以外は、病院など特殊な場所以外では、もうマスクをつ

    • 余白に落書き

       新品のシーツを思わせる真っ白なコピー用紙の右下に、ぽつんと<了>の文字だけが印刷されている。それを見たとき、自作にその現象を引き起こした作者の、あまりのおおらかさにわたしは感心した。  趣味で書いた小説を読んで互いに批評しあう、という一風変わった集まりに参加していると、作品の中身はもちろんのこと、原稿の書き方にさえ人柄があらわれることに気づく。  すでに本になっている作品やWEB上の記事など、完結しているのが明らかなものは別として、まだ原稿段階である作品の最後には、それが

    ポケットに口紅を