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将棋の教科書(案)

将棋の教科書(案)と題して、初心者向けに、私の将棋観を言語化してみる。本記事は、「将棋とはこういうゲームだ」という私のイメージを共有することを目指した。読了後、なんとなく将棋のことがわかったと思ってもらえたり、棋力向上の一助になれば嬉しい。

想定読者
・将棋に興味がある人
・将棋のルールを覚えたばかりの人
・序盤で、どの駒をどういう思想で動かせばいいかわからない人
・中盤で、どのように戦いを進めていくかわからない人
・終盤で、どのように攻めればいいかわからない人

この記事を読むことでなんとなくわかること
・将棋というゲームの概念
・序盤、中盤、終盤で目指すこと、その実現方法

逆にこの記事で触れないこと
・駒の動かし方を含むルール
・定跡、手筋


ゲームの流れ

イメージを持ってもらいやすいよう、将棋をコマンド式ターン性バトルに例える(図1)。それぞれの勝利条件は以下だ。
コマンド式ターン性バトル:自分のHPがなくなる前に、敵HPをなくすこと
将棋          :自玉が詰まされる前に、敵玉を詰ますこと

図1

コマンド式ターン性バトルでは、下記のコマンド1.と2.を繰り返してゲームが進む。また、キャラクターのステータス3.も重要な要素だ。

  1. 敵を攻撃して敵HPを削る

  2. 自分のHPを回復する

  3. 自分の最大HPが高い

実は、1.2.3.と似たことが将棋で行われている。ざっくり言うと、序盤で自分の最大HPを増やし、中盤でわざを覚え、終盤で敵HPを削ったり、自分のHPを回復する。

図1にはコマンドも記載した。下表の通り、各コマンドは1.2.3.に対応した効果を持つ。各コマンドの詳細は後述する。

$$
\begin{array}{|l|c|c|c|} \hline
\text{コマンド} & \text{攻撃} & \text{回復} & \text{HP増} \\ \hline
\text{離れる} & \text{-} & \text{-} & \text{✓} \\ \hline
\text{固める} & \text{-} & \text{-} & \text{✓} \\ \hline
\text{開戦準備} & \text{✓} & \text{-} & \text{-} \\ \hline
\text{わざを覚える} & \text{✓} & \text{-} & \text{-} \\ \hline
\text{侵入} & \text{✓} & \text{-} & \text{-} \\ \hline
\text{攻撃わざ} & \text{✓} & \text{-} & \text{-} \\ \hline
\text{迫る} & \text{✓} & \text{-} & \text{-} \\ \hline
\text{防御わざ} & \text{-} & \text{✓} & \text{✓} \\ \hline
\end{array}
$$

駒の損得

将棋はゲームの進行上、敵の駒を取ったり、敵に駒を取られたりする。自分と敵で互いに持ち駒を入手することを駒交換という。例えば、
 ①自分の歩を敵の歩の前に進める
 ②敵の歩が自分の歩を取る
 ③自分の飛車が敵の歩を取る
と、3手進行すると、自分も敵も、盤上の自身の歩が一枚消え、持ち駒に歩が一枚増えている。

駒交換は、別の種類の駒で行われることもある。その結果、自分がより強い駒を手にし、敵がより弱い駒を手にすることもある。駒の強弱を下表に示す。例えば、桂銀交換は、通常は銀の方が強いので、銀を取った方が得をしている。また、駒交換は、2枚対1枚で行われることもある。

駒交換によってより強い駒を取ること or 自分だけが敵の駒を取ることを駒得という。その逆を駒損という。駒得すると、敵HPを削るのが容易になる。

各駒には特性があり、攻め駒としての適性、守り駒としての適性を表に併記した。例えば、金は攻め駒とするよりも、守り駒にする方が向いている。守り駒を攻めるには、金や銀よりも、他の駒の方が向いている。

$$
\begin{array}{|l|c|c|c|c|c|c|c|} \hline
\text{} & \text{歩} & \text{香} & \text{桂} & \text{銀} & \text{金} & \text{角} & \text{飛} \\ \hline
\text{強さ} & \text{弱い} & \text{<} & \text{<} & \text{<} & \text{<} & \text{<} & \text{強い} \\ \hline
\text{攻め駒適性} & \text{◎} & \text{◎} & \text{◎} & \text{〇} & \text{△} & \text{◎} & \text{◎} \\ \hline
\text{守り駒適性} & \text{△} & \text{△} & \text{△} & \text{〇} & \text{◎} & \text{△} & \text{〇} \\ \hline
\end{array}
$$

序盤コマンド

「離れる」コマンドの効果
「離れる」コマンドは、自玉と敵の飛が離れているほど、自分のHPが増える。図2では、敵の飛が8の列に対し、自玉は2の列とかなり離れている。仮に、中盤で8の列が突破されても(図2ではと金に侵入された)、と金が自玉まで遠いため、自分のHPにダメージが入るまでのターン数を稼げる。稼いだターン数分、攻撃回数が増える。

図2

「固める」コマンドの効果
「固める」コマンドも自分の最大HPが増える。自玉の付近に配置した金銀の枚数分、最大HPが増える。
図3は、終盤に、敵のと金が迫ってきているところだ。序盤に「固めた」おかげで、敵のと金は、自玉にこれ以上迫れない。次に金が取られると自分のHPにダメージが入ってしまうが、その直後、銀でと金を取り返せる。すると、自玉付近に敵駒はいなくなり、もうHPは削られない。
守り駒の枚数が多いほど、敵は多くの攻め駒を用意する必要があり、自分のHPがなくなるまでのターン数を稼げる。

図3

「開戦準備」コマンドの効果
「開戦準備」コマンドは、攻めの陣形または迎撃の陣形を作る。
開戦準備が整った局面を図4に示す。図4では、4の列の攻めを狙っている。図4から、飛の前の歩を進めると開戦となる。

序盤は、お互いが開戦準備を進めるが、自陣(七,八,九段目)と敵陣(一,二,三段目)の中間である五段目で均衡しやすい。よって、銀は3回、歩は1回、桂は1回前進することが多い。飛と角は攻めの要であり、攻めたい場所に利かせるよう配置するのが重要だ。

図4

開戦準備が整った後、必ずしもすぐに開戦する必要はなく、自玉をもっと離して、もっと固めてもよい。敵の動きを見ながら、どのコマンドがよいかを判断できるようになれば、将棋が楽しくなる。

中盤コマンド

「わざを覚える」コマンドの効果
「わざを覚える」コマンドは持ち駒を増やす。図5は、自分の「開戦準備」と敵の「固める」が完了したところで、次の手順でわざを覚えられる。

  1. 4五の地点に自分の歩を進める

  2. 敵の歩が取り返す

  3. 自分の桂が取り返す

  4. 敵の桂が取り返す

  5. 自分の銀が取り返す

  6. 敵の銀が取り返す

  7. 最後に自分の飛が取り返す(図6)

図5                                                                            図6

「わざを覚える」コマンドを実行するには、数的優位、つまり「ある地点に利いている攻め駒の数が、守り駒の数より多い」という条件がある。図5では、4五の地点に、自分の攻め駒として歩、桂、銀、飛の4枚が利いている。一方、敵の守り駒は、歩、桂、銀の3枚が利いている。4対3で数的優位ができているため、駒交換が成立する。

数的優位を作るための一つの方針として、敵の角や桂の1つ前の地点を狙うとよい。角と桂は他の駒と異なり、1つ前に進めないためだ。
ちなみに、自分の駒は取られずに一方的に敵の駒を取れる場合は、その地点に利いている駒の枚数が、1以上対0になっている。

「侵入」コマンドの効果
「侵入」コマンドは、攻め駒が敵陣(一,二,三段目)に侵入する。「侵入」することで、敵HPへのダメージや「わざを覚える」にスムーズにつながる。
通常、敵の駒が「侵入」を邪魔しているので、「わざを覚える」コマンドで邪魔な駒を取ったり、どかすことが多い。

図6は敵の手番だが便宜上パスしたとして、図6から次の自分の手を考える。
図6で、△4三銀が4の列からいなくなれば、飛が4一に侵入できる。あるいは、△5二金がいなくなれば、角が5三に侵入できる。そこで、△4三銀や△5二金に働きかける、以下の手が浮かぶ。

  1. ▲5五桂。敵が銀桂交換を嫌い△5四銀とかわせば、▲4一飛成と侵入成功

  2. ▲4一銀。△4二金右▲3二銀成△同金となれば、▲5三角成と侵入成功

図6(再掲)

終盤コマンド

「攻撃わざ」コマンドの効果
「攻撃わざ」コマンドは、持ち駒を使い、敵の守り駒を取ることで、敵HPにダメージを与える。
図6は敵の手番だが便宜上パスしたとして、図6から次の自分の手を考える。

  1. ▲4一銀。次に、どちらかの金を取って敵HPにダメージ&金銀交換の駒得

  2. ▲4四桂△4二金右▲3二桂成。敵HPにダメージ&桂金交換の駒得

  3. ▲4四桂△同銀▲同角。敵HPにダメージ&桂銀交換の駒得。同角は王手のため、さらに攻めが続く。

「迫る」コマンドの効果
「迫る」コマンドは、盤上の駒を使い、敵の守り駒を取ることで、敵HPにダメージを与える。
図7は、図6から少し進んだ局面だ。
次は、▲4二歩成とと金を作り、と金で「迫る」ことで、敵の守り駒を取る。ここでは、▲4二歩成△2二金▲4三ととすれば、敵の金を取ることができる。

図7

「攻撃わざ」や「迫る」ことで、敵HPを減らしていけば、いずれ敵玉の付近の金銀が0~1枚となる。あとは、敵玉の逃げ道を封鎖するように、攻め駒で敵玉を包囲していけば、短手数の詰みが生じるはずだ。そうして、終局となる。

参考:図6から以下の進行で図7に至る。
△4四歩▲4八飛△4二金右▲5五桂△5四銀▲4四角△1二玉▲4三歩△3三金右▲5三角成△5五銀

「防御わざ」コマンドの効果
「防御わざ」コマンドは、持ち駒を使い、自玉付近に守り駒を追加することで、自分のHPを回復する。持ち駒は、できれば回復よりも攻撃に使いたいが、一旦回復を挟むことで、勝利する局面もある。

図8の最終手から、1. すぐに攻めて負け、2. 一旦回復してから攻めて勝ち の2つを紹介する。なお、詰めろとは、次の手番で詰ますことができる状態のことだ。自玉に詰めろをかけられると、敵玉を詰ますか、自玉の詰めろを解除するしかない。

  1. △5七角成(自玉に詰めろ)▲攻めの手(敵玉に詰めろ)△3九馬以下、自玉が詰みのため負け

  2. △5七角成(自玉に詰めろ)▲3八金(「防御わざ」で自玉の詰めろ解除) △5八飛成▲攻めの手(敵玉に詰めろ)△4七馬(自玉に詰めろ)▲攻めの手(敵玉が詰み)で勝ち

図8

重要なのは、「防御わざ」後の△5八飛成が詰めろになっていないことだ。だから、1. に比べて、攻めの手を1回多く指せている。逆に、守り駒を追加しても、また詰めろがかけられることが続くならば、「防御わざ」失敗だ。

詰めろかどうかや、「防御わざ」の成否の判断は難しい。特に初心者同士の対局では、お互いが完璧ではないので、なんとなくでやってもいいと思う。棋力向上とともに、長手数の詰めろや防御わざの成否がわかってくる。

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