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人生はインタラクティブライブ

馬を水辺に連れて行くことはできても、
水を飲ませることはできない
という言葉がある
その気のない人には何をしても無駄ということの例えだ

馬をヒラサワに近づけても、
骨にすることはできない

これはかつての私のことである

これまでの人生に実は何度も平沢進は私の前に現れていたにも関わらず、
分岐点で平沢進にハマらないルートを選び続けてきた

が、ある日突然呆気なく、
取り返しがつかないことになり今に至った。

これは平沢進黄金の10年周期である2019年に生まれた新参馬骨の
平沢進に初めて出会ってからの約10年間の箸にも棒にもかからない話。

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2010年

今敏監督が亡くなったタイミングだったと思う

WOWOWで今敏監督の作品の特集が組まれた
パプリカ、千年女優、東京ゴッドファーザーズ、すべて見たが
一番好きで何度も繰り返し見たのは妄想代理人だった
ブワッと毛穴が開き、目が覚めるようなOPと
不穏で不吉な危機的場面の中にいながら貼りついた笑顔で笑い続ける登場人物たち
印象に残らないわけがない
一応音楽に興味がある高校生だった私はクレジットを見た
夢の島思念公園
平沢進
EDのマロミまどろみも同じ人が作っていた、全然違う曲なのにすごい

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2013年 秋

大学2年生、軽音サークルに所属していた時のこと同期があるバンドをコピーするのにギターボーカルが見つからず困っているらしい
私はまだ誰ともバンドを組んでいなかったが、
その次のライブでコピーするバンドが難しく
直近のライブには出ないと決めていたので息を潜めていた
が、あっさり見つかりコピーすることになったのが
P-MODEL
知らない、この子よくこういうバンド知ってるのすごいな
とりあえずWikipediaで調べよう

P-MODEL
平沢進

妄想代理人の音楽やってる人じゃないか…

ちなみにコピーしたのは
美術館であった人だろ
MOMO色トリック
いまわし電話

よくやったな

とにかくこの人はいい声だと思った

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2017年 春

社会人2年目、毎年立川の昭和記念公園で行われるまんパクへ行った帰り
滅多に立川まで来ないので、他にも何かしたいと思っていたところで映画館があった
普段そんなに映画館で映画を見るタイプでもないが、
偶然気になっていた吉田大八監督の新作「美しい星」のポスターを見つけたので観ることに
これがとてつもなく面白かった、
特に期待もせずフラッと観た映画がここまでおもしろいとは
それにしてもあのバンドマンが歌ってた曲妙によかったな…
あんな雰囲気ある曲歌ってる人に僕は金星人なんだとか言われたら、信じちゃうな
本当に素晴らしかった、この映画のために作られたのかな?
誰が作ったんだろう、エンドロールで確認しよう

平沢進

また会った

既にApple Musicに加入していた私はすぐに平沢進を検索した
いた、そしてライブ盤だが「金星」があった
帰りの車で繰り返し流して映画の余韻と曲の美しさに浸った
平沢進はこんな曲も作るんだな

この年から星が美しい冬の夜は駅から家に帰るまでの道で聴く曲のレパートリーに金星が加わった

ちなみにこの時初めて平沢進のファンは馬の骨と呼ばれているという事実を知り相当笑った
数年後の自分の姿とも知らず

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2019年 春

社会人4年目
フジロックの出演者の中に
平沢進+会人
特段フジロックに詳しいわけではないが
異様なブッキングであることは私にもわかった、目玉アーティストに違いない

一体どんな風にライブをするんだろう
error CDのハルディンホテルや世界タービンを聴いて
私の脳内にはパプリカのパレードのシーンのように
フロート車に乗って大勢引き連れて左右に揺れながらライブをしている映像が浮かんでいた
圧倒的に気になった
(と思いつつ特に平沢進について予習することもなかった)

あとこの時アーティスト写真で初めてマジマジと顔を見た
サイバーおじいちゃんだと思った

後に他人様にチケットの申し込みを依頼する時
このアー写が推しなんだな…と思われることへ
少なからず葛藤があった

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2019年 7月23日

新参馬骨の定番フローズンビーチ、フジロック当日
仕事が繁忙期で23時ごろ一人暮らしの家に帰宅
フジロックの配信の全てが終わっている…
見たかったのにな、平沢進とか色々…
と思ったらアーカイブの遡り再生が出来た
遅い夕飯を食べながら色んなアーティストをざっと見て
お風呂に入りあとは寝るだけという体制に整え、最後にたどり着いた

平沢進

曲名と曲が一致しているのは夢の島思念公園、白虎野の娘、金星のみ(その他error CDで聴いたことある曲がある程度)
どんな風にライブするんだろう、
さすがにパプリカのパレードのようなパフォーマンスはこのステージでは出来なさそうだけど、全く想像できない
会人ってなんだ?
現地で平沢進を見た友人が
なんかステージ上に落雷してた!!!とラインしてきた
どういうことだ?!
相当ワクワクしていた

出囃子が流れ、いよいよ始まった

平沢進は大勢を従えたパレードのフロートには乗っていなかった
が、十分すぎるほど異様だった
引き連れているのはたった2人ペストマスクの会人と呼ばれる謎の生物
荘厳な曲、常軌を逸した轟音のギターソロ
ステージ中央に鎮座する謎のレーザーを放った機械、
そして確かに友人の言う通りステージ上に落雷していた
そんな圧倒的情報量の中で平沢進は上品な佇まいから威厳と狂気を放っていた

平沢進のフジロックの感想はYouTubeのコメント欄やTwitterで言い尽くされているが
まさに会場の熱狂ぶりも相まって、
謎の宗教のミサが全国公開されていて
ここから新しい世界が始まるかのような
そんなとんでもないスケールの興奮があった

しかし、あぁ、皆さまどうか叱らないでください
今となっては考えられませんが、
当時の私ときたら繁忙期のあまりの疲れに耐えきれず
平沢進のステージ中何度も何度も寝落ちしたのです…
カッコいい……はっ、寝てた、巻き戻さなくては
カッコいい!……はっ、寝てた…巻き戻そう…
はっ…もう…また巻き戻そう…
と言った調子で
これまで聴いたことのないような音楽、想像を遥かに超えたライブ映像を見続けていると
まさにどちらが夢でどちらが現実かわからないような不思議な心地だった(パーフェクトブルー状態)

そして何度も巻き戻しているうちに夜は過ぎ
外も白んできた頃に辿り着いた、白虎野
唯一知っている曲だった(当時、白虎野と白虎野の娘が別の曲などとは知る由もない)

夢のような現実の中で初めて観た白虎野のライブ映像
脳裏に焼き付いて離れない
禍々しさの中に爽やかさが混じる照明、
平沢進が舞うようにレーザーハープを切る姿、
大きなスクリーンに両手を広げる姿、
私たちには見えない何かに礼拝を捧げるかのように見えた
この人にはこの人にしかない世界があるんだと確信した
まるで日の出のような圧倒的な神々しさと美しさに涙が出た
なんて美しいんだ、圧巻

とんでもないものを観た

翌日友人と遊んでフジロックの感想を話し合った時、
とんでもないものを観た感想を分かち合えた興奮と清々しさは今でも忘れられない

Apple Musicに白虎野の娘があった
一日中ずっと聴いていても飽きることのない美しい曲
今も何度も何度も聴いているが、この時初めて何度も何度も聴いた
朝も夜もそれしか聴けなかった
Twitterで平沢進について調べまくった
が、コンテンツが多すぎてインプットしきれなかった
奥深そうだということだけがわかった

なんと、ここで沼落ちするかと思いきや
よく覚えていないが何故か一度箸を置き
なんとか踏みとどまったのであった
(平沢進とフジロックを取り巻くストーリーのすべてが本当に大好きなのだが
ここで語るとすでに長いのにあまりに長くなるのでまたの機会とする)

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2019年 10月下旬

同じく入社4年目、社会人になってから一番忙しかった
毎日家に仕事を持ち帰り、朝5時頃まで取り組む日々が1週間ほど続いた時のこと
ちょうどその頃、友人から婚約祝いでサウンドバーをもらったばかりで
色んなアーティストの曲を高音質で聴くことを楽しんでいた
深夜に仕事をしながら、ふとサウンドバーで聴いてみたらどうなるかなと思って選曲した

平沢進

その日から、夜中仕事をする時には平沢進を聴くようになった
Apple Musicにあるアルバム、特にSIREN(サイレン)は夜中にぴったりだった
出勤する時も聴くようになった(通勤電車で爆音で聴くハルディンホテルや世界タービンは痛快&最高だった)
家へ帰る時も聴くようになった
そしてまた夜中、仕事をしながら平沢進を聴いた

気がつくと仕事中も曲名をまだ覚えてもいない曲たちが頭に流れてきた
ああ早く平沢進の声が聴きたい、平沢進の声を聴いていないとダメだ、
とにかく声が好きだ
思えば妄想代理人を初めて見た頃から、コピーバンドをした時から、
昔から平沢進の声がすごく好きだった、そうだそうだ
と今の自分を正当化するような思考を繰り返していた
あ、これは好きになるかもしれないという高揚が止められなかった

となればあとは予感を確かめるだけ
わたしは昔からアーティストを好きになり始める時、
アルバムからではなくライブDVDから購入する傾向にある
ライブは色んなアルバムから曲が収録されていて
メジャー曲からマイナー曲まで幅広く演奏されるため効率よく色んな曲が聴けるという持論があるからだ

当時、今ではお世話になりっぱなしのテスラカイトオンラインショップの存在はまだ知らず
AmazonでDVDを探した
そこで見つけたのが「INTERACTIVE LIVE SHOW 2000 賢者のプロペラ」である

内容を確認する
インタラクティブライブとは観客の反応によってライブの展開が変わる、いわゆるRPG形式のライブである
とのこと

なんだそれ?そんなこと出来るのか?
とにかくこの目で見てみたい
ということで即決し、私の初めての平沢進のライブDVDは賢者のプロペラとなった

数日後、友人を家に招き、
互いの持ち寄ったライブDVD観賞会を実施した際
初めて平沢進のインタラクティブライブを見た

しかしここでも、あぁ、どうか叱らないでください
あまりの世界観の強さに私はヘラヘラしてしまいました
理解が追いつかないものを見るととりあえず笑ってしまう、そんな自分の感受性の乏しさが嫌になります
だけれど、ヘラヘラするしかありませんでした
ヘラヘラしながらもなんとか理解しようと内容を追ったものの
初見のライブ形式、初めて聴く曲、初めての平沢進の世界、
追いつかない部分ばかりだった

でも、最後に賢者のプロペラが回った時

理解できていなくても、えも言われぬ感動があった
思わず拍手をしてしまった
まだ携帯電話がガラケーだった時代、
観客はどうやって情報交換をしたんだろう
きっと連日参加してる人が大勢いて試行錯誤したに違いない
このあとのオフ会はさぞ最高だっただろう

オマエタチもヒラサワもすげえ
そんな話を友人とした
いやー、よくわからなかったけどとにかくすごかったね!
といった調子だった

次の日、会社で働いている時、たしか夕方17時ごろだったと思う
オフィスに差し込む夕日が綺麗だったことをよく覚えている
ふと、「なんか昨日はヘラヘラしながら見ちゃったけど、賢者のプロペラのDVD本当に素晴らしかったな」としみじみ思った
なんていいものを見たんだろう、そんな感動がじわじわと襲ってきた

夕日を見ながら威風堂々とした賢者のプロペラを思い出した
決してわかりやすく、寄り添って励ましてくれるような存在ではない
それでも生命を賛美するような、
神秘をそのまま受け入れるような、
ただ気高くそこに存在するものに支えられる予感がした。

その日、言葉は悪いがある種新しい「イロモノ」のように見ていた平沢進の存在が
長い時間をかけて解明していきたい新しく大きな謎となって私の人生に燦然と輝きを放ち始めた

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以前ファンから「平沢進を人に薦めるときにオススメの曲を教えてください」という質問が来た際、
平沢進は「ございません、ていうか薦めないでください」と答えた

音楽というのはどのような音楽を聴いてきたかを含む様々な履歴があって初めて反応するものなので、
私の音楽に自然に出会っていいと思わない人に無理に薦めないでください。

ヒラサワの音楽への敬意ある接し方が滲む回答であるのと同時に、
私の10年間の答え合わせのような言葉だった

後追いのファンなら必ず一度は抱かずにいられない感情、「もっと早く出会っておけば」
そう言いたいことはたくさんある、ありまくる
しかし私は何も知らなかったわけではなく、10年前から平沢進に出会っていた
それでも、その時はまだその時ではなかった、それだけのこと

人生はインタラクティブライブ
26歳になって初めて平沢進を選べた

このようにして地味かつ壮大なドラマを伴った出会い方で馬骨が生まれ、
2020年、平沢進が好む「ゲームチェンジ」があらゆる場面で起こりうる時代を
毎日21時と月末を楽しみにしながら、気高く生きようとしている。

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