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生と死のあいだに


〜最期の消えそうな光〜





去年の夏。

じいちゃんがカラスと格闘し

こけて骨折して入院した。


私のじいちゃんは

とても頑固で言うことを聞かない。

我が強い人だ。


カラスと格闘したと聞き

じいちゃんらしいな〜なんて笑っていた。



病院へお見舞いに行くと

やや痩せ細ったじいちゃんの姿があった。

あれ?じいちゃんこんなに小さかったっけ?

とても驚いた。






しばらくして退院したじいちゃん。

骨折した手にサポーターをはめていたが

元どおりだなんて思っていた。


タバコをよく吸い

お酒もよく飲む。

それで平均寿命を上回って生きてるじいちゃんは

すごいな。まだまだ元気だろう。

そう思っていた。


そんな印象とは裏腹に

またしばらくすると

じいちゃんは入院していた。



病院に入院しても

我が強いじいちゃんは

わがままを言う。

看護師として受け持ちがじいちゃんだったら

頭悩ませてただろうな。



そんなじいちゃんが

入院するたびに弱っていってるのを

去年の11月に感じた。


バランスが取れず、よたよたと歩くのもやっと。

トイレに行くのが億劫だから

尿器を使っていた。


何処と無く元気がないじいちゃん。

あんなに達者だった口数も少なくなっていた。



ガクっと落ちるADLに

驚きを隠せず母にこう呟いた。

《じいちゃんこの冬は越せないかもしれない》



実は3月から旅しようと計画を立てていただけに

取りやめようかと本気で考えた。



すると、私の気持ちを悟ったのか

じいちゃんは冬を越し

ゆっくりと歩けるまで回復し

自宅退院した。


じいちゃんの生命力に驚きを隠せなかった。



まるで私に

《旅しておいで》

と伝えるかのような回復ぶりだった。



じいちゃんは大丈夫。

私は行ってくるよ。

そうして3月に旅立った。




両親は旅中、じいちゃんの様子を

一切伝えてこない。

私に心配をさせない配慮だったんだろうが

単純な私は元気になったんだと思っていた。



6月帰国し、じいちゃんに会いに行こうと言うと

入院していると聞いた。

3ヶ月ぶりに会ったじいちゃんは

自分で起き上がるのもままならないほどに

弱っていた。

小さくなったその背中は

どこか寂しさを感じた。


それでもじいちゃんは

《よく来たね》と微笑み、

時に冗談を言って笑わせてくれた。



でも、ご飯を食べれず

どんどん小さくなってくじいちゃん。

もう長くない。

今度こそ…



《夏は迎えられないかもしれない》

ぽつりと呟いた。




父は私に礼服を準備しなさいと言い

母は飼い犬が亡くなったときの話をした。




じいちゃんはまだ生きてるのに

死んだ後の準備なんてしたくない!

怒りが込み上げてきて

口に出しかけたとき

ふと思った。



両親はこうやって

心を整えてるんだと。





それを否定してはいけない。





じいちゃんは確かに生きている。

だか、もう長くない。



心を整えることは大切だ。




そして、

生と死のあいだにいるじいちゃんに

《ありがとう》と伝えたい。

出来れば、

じいちゃんに会いたいと思う人は

みんな会いに行ってほしい。



最期のときも幸せだったと

そう思ってほしい。



そんなことを考えながら

パッキングをする私。

明日から10日間東京へ行く。

薄情者。そんなことが脳裏に浮かぶが

私が旅立つ間はじいちゃんが

待っててくれそうな気がして

気持ちが揺れる。


++++++++++++++++++++++++




幼い頃。

夏休みに、じいちゃんの家に泊まりに行き

朝5時から起こされラジオ体操。

納豆、のり、卵焼き、焼き魚におひたし

味噌汁にご飯と盛りだくさんな朝ごはん。

宿題をしてると

【勉強しすぎるな】と怒るじいちゃん。

お昼はお決まりのソーメンを

じいちゃん特製のつゆでいただく。



お正月には従兄弟も勢揃いして

鏡餅とお屠蘇の儀式、お年玉。


ちょっとボケてきて

従兄弟との区別がつかないときもあったのに

今では

《ひかるが昨日お見舞いに来た》

と話している、そんな可愛いじいちゃん。



頑固で意地っ張りで

アドバイスは聞き入れてもらえない。


でも、助産師になった私を褒めてくれる。

生と死に携わる仕事を就くものとして

いのちを大切にしたい。

じいちゃんの最期に寄り添いたい。


でも、

私が大切にしてる

《今を生きる》

ために私は東京へ行く。



私が東京行きを辞めたら

じいちゃんも頑張るのやめたってなる気がする。

私は今を楽しむよ。



でもね、

いつでも帰ってくる。

明日もじいちゃんに会いに行くから。


その時に念を送るね。

また会いにくるから

待っててね。


生と死のあいだを生きるじいちゃんへ。

たくさんの愛をありがとう。







Ricky.







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